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2‐9

村の名前決定です。

 コーナーが官僚として俺の傍で働き始めて1ヶ月後、村の配水工事が一段落して来た頃の事。

 彼が1つの提案を俺の元に持ってきた。


「ロイド様、提案したい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


 ここ最近コーナーは俺の事を様付で読んできている。

 本来なら俺の方が彼よりも身分が下なので、様付をしないといけないのだが、以前それをしようとした時に猛反発されて以来、俺はしない様にしている。


「丁度書類の整理が終わった所だ。何の提案だ?」


「実は、この村の名前についてです」


 そう言って彼が切り出してきたのは、村の名称についてだ。

 この村はソルトシティ程大きくは無いのと、他の村との交流が極端に少ないため村に名前が無い。

 もちろん街に行けば不便だろう、と言われるが行ったところで「領土境の村」と言えばうちしかないので通じてしまうのだ。

 その為他の村からは、「ライン(境目の)村」と呼ばれている。


「ライン村ではいけないのか? それなりに良い名前ではあると思うのだが」


「これがライン川のほとりなら構いませんが、ライン川からは結構離れていますのでどうかと」


「ふむ、そうかまぁ考えておくとしよう」


「いえ、今決めてしまいましょう。そうしないと後に伸びてばかりになります」


 後回しにしようとしたのだが、珍しくコーナーが引き下がらなかったので、仕方なく考える事にした。


「そうは言っても、すぐに名前何ぞ思いつかんぞ? 何か候補があるのか?」


「一応これだけ考えてきました」


 そう言って彼が一枚の板に10個ほど名前を書いた物を渡してきた。


「なんだ、もう考えているのか、……これはまた迷走しているな」


 俺がそう呟いたのは書いてある名前の候補があまりにも酷かったのだ。

 例えば、村の特産から「梅漬け村」「ウィート(麦)村」というのもあれば、俺の名前を取って「ロイド村」「ウィンザー村」に変わり種なら「農民独立村」「支配からの卒業村」と言うものまであった。

 もう最後の名前はどこの豊さんだよって感じだったが、まぁ真剣に考えるうちにおかしい所に行ったのだろう。


「個人的には、ウィンザー村かウィート村が良いと思うのですが、如何でしょうか?」


「ん~……これはかなり難しいな」


 コーナーの問いかけに俺は髪をぐしゃぐしゃと搔きむしりながら唸ってしまった。


「やはり難しいですか……」


「そうだな、例えば解放村とかの方が分かりやすいんじゃないか?」


「解放村ですか? なるほど確かに支配からの脱却などが分かりやすく表現できていますね」


 いや、俺としてはかなり適当に言っただけなのだが、まぁ気に入ったのならそれでもいいが。


「では解放村で一度村中に通達します」


「わかった、それで頼む」


「で、もう1つあるのですが宜しいでしょうか?」


 そう言ってコーナーは顔を引き締めて俺に話しかけてきた。


「税を徴収したいのですが宜しいでしょうか?」


「税? 良いがどうして徴収したいのか、どれくらい徴収するのか考えているのか?」


「はい、徴収する税は4割をこちらに6割を生産者に渡そうかと考えています。なぜ徴収するのかですが、現在我々は自警団と言う自衛組織も立ち上げ、本格的に独立に舵を切っております。ですので、組織を大きくするためにも税が必要なのです」


 なるほど、確かに自衛組織は金食い虫になる。

 今は村全体で負担を共有して彼らを養っているが、それは正直言うと組織として誰に従ったら良いのかがあやふやになっているという事だ。

 そこで俺が税を徴収して俺が彼らを雇うという形で一本化したいという狙いがある。


 もちろんこれだけではない。

 現在の所村の人口は初期の100人からすでに500人近くの大所帯となってきている。

 そろそろ町と言っても過言では無い位の大きさになっていて、このままいけば早晩1000人の大台を超えて街にまで発展していくだろう。

 そうなった時に、税を集めていれば確実に権力は増す。


「コーナー権力を掌握して何がしたい?」


「っ!? そこまで発想が行きましたか……流石はロイド様です。私の望みはロイド様に新しい王となり、農民に幸福をもたらして欲しいのです」


「幸福をもたらす? もし俺が暴君になったらどうするんだ?」


「その時は、掌握した権力を持って貴方を打ち倒すか、見捨てて野に降ります」


 コーナーはそう言い切るとジッと俺の目を見てきた。

 あまりに真剣な彼の表情に俺の方が溜まらず、先にギブアップしてしまった。


「……ふぅ、本気らしいな。分かった。税の徴収は村全体に話を通して各代表者から了解を貰ってから行う事とする」


「ありがとうございます。では早速明日にでも代表者を集めて話し合いたいと思います」


 そう言ってコーナーは部屋を出て行った。

 彼の後姿を見送った俺は、自分の境遇に未だに戸惑いを隠せないでいる。


「俺が、王、か……」


 それは前世では全くもって縁がなく、また成れるものでもなかったもの。

 そして、それになるという事は、いよいよもって俺の叶えたい望みでもある「城を持つ事」ができるという事でもあった。


「なんだか実感が沸かないな……俺本当はちょっと歴史に詳しいだけのオタクだぞ」


 自嘲気味に笑いながらも、どうやって税を承認させようかと頭の中は動いていた。






 翌日、各家の農業が終わるお昼過ぎに代表者を集めて会議を開いた。

 議題は前日コーナーが持ってきた課税の件。

 恐らくかなりの反対が予想されるが、どうなる事か……。


「本日は緊急に集まって頂きありがとうございます。実は現在の自警団の管理運営を少し変更したいと思いまして、皆さんに集まって頂きました」


 コーナーの司会で話し合いが始まったが、彼の「管理運営」という単語に皆が理解できていないのか首を傾げている。


「管理?運営?それは今のままじゃダメなのか?」

「ダメです」


 代表者の一人の意見に間髪入れずダメ出しをしたコーナーは理由を説明し始める。


「まず皆さんの目線で話しますと、現状では税が無い分楽ですが、自分で計算しなければならないので正直申しますと面倒かと思います」


 コーナーの意見に何人かの代表者が頷いているが、まだまだ皆分かっていない感じだ。


「それに現在ですと自警団も30名前後の小さい集団ですが、今後組織が拡大していくと支払う事が面倒になって来ます。ですので、ここで提案なのですが、我々に税を集めさせていただけませんか?」


 そこまでコーナーが言うや否や代表者は一斉に表情を強張らせ身構えた。

 それもそのはずだ、せっかく領主と言う搾取者から逃れる事ができたのに、また税を払っていては意味がないからだ。

 だが、コーナーの方もこの拒否反応は予想していたのか、冷静に話を続けた。


「もちろん税を集められることに拒否感があるのは重々承知しております。ですので、こちらとしては集めた税をどのように使うのか、使っているのかをお知らせしようと思っております」


「それは良いが、おら達は字が読めねぇぞ。こんなかで読めるのは村長とお前とゴードンの3人だけだ。どうやって知らせるんだ?」


「そうですね、その点については字が読める人が代表者に上がってくるまでの間はこの集会でお知らせするというのはどうでしょうか?会議の前か後にすれば皆さんも知る機会があると思いますがどうでしょう?」


 コーナーのこの提案に全員が一斉に考え始めた。

 まぁ考えている事は、話されて理解できるかどうかと言う事だろう。

 コーナーの言い回しは少しわかりにくいので、俺が補足することにした。


「コーナーの言い方だとわかりずらいと思うから、分からない事があったら聞いてくれ。俺の方で補足するし、皆で知って行く事も必要だと思うんだがどうだろう?」


「……まぁ、村長がそう言うなら。なぁ?」

「んだんだ」


「ありがとう。では税を徴収すると言う事で良いかな?」


 俺がそう言うと一人手を挙げる人物がいた。

 それはゴードンだ。


「村長、1つだけ良いですか?」


「あぁ、どうしたんだ?ゴードン」


「今回は先に使う予定を教えてくれると我々も税を払いやすいと思うのだが」


 確かに支出の計画がしっかりとしている事がわからないと、払いたく無いものだ。


「今回の税は集めた分の半分を自警団の維持、強化に回す予定だ。残りの半分の内2割を義倉というもしもの時用の保存食として保管する予定で、3割を俺とコーナー、アンドレアの生活用に回す。残りは売り払って今後必要になる物を買えるように貨幣にするつもりだ。これで良いかな?」


「わかりました。それでしたらお支払いしましょう」


 ゴードンに説明したことで代表者全員が納得した。

 この後、村の名称についても相談したが、こちらは全会一致で即可決された。

 

 この事が切っ掛けとなり、村の独立に向けての動きが加速し始めるのだった。


今後もご後援よろしくお願いします。(・∀・)/

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