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H28.10.8ご指摘頂いた点を改稿 大根、蕪→大豆、蕪に変更。
H28.10.21ご指摘頂いた点を中心に改稿。加筆しました。
麦の刈り入れが終わった俺は、次に何を育てるのかを尋ねると、また麦を作るとドーソンさんから返事が来たので、考えていた作物を提案する事にした。
「麦の連作は土の力がなくなるだけです。ここはドーソンさん、思い切って大豆と蕪を育てましょう」
「大豆と蕪?なんだってそんな作物育てるんだ? それに、麦を育てなければ税が払えん」
「大豆は麦が持って行った土の力を回復させる特徴があるんです。また蕪は土の力をあまり使わずに育つので丁度いいんです。この二つを育てる方が、次の麦の収穫量が、格段に良くなりますよ」
「土の力を回復させるだと? 本当か?」
「えぇ、本来は休田と大豆と麦、蕪を廻らせながらやるのが良いのですが、牛やヤギなどの家畜が居ないので、休田は諦めて大豆を植えて育てます。でまた春麦を植える季節になったら大豆や蕪を引っこ抜いて保存食にしてしまうんです。どうですか?」
俺の提案にドーソンさんはかなり微妙な表情でうなっていた。
恐らくこの地域の常識としては、麦→麦→麦のサイクルが常識なのだろう。
税の支払いの観点から仕方ないのだろうが、それでは土の栄養が回復せず、徐々に土が痩せて行くのがわかっている。
そこで、麦を作った後は違う作物を作り、土の栄養を回復させ、次の麦が栄養不足に陥らない様にする方法を提案した。
渋るドーソンさんに俺が説得を繰り返していると、1人の老人が近づいてきてドーソンさんに声をかけた。
「おぉ~い、ドーソンさん。ちょいと相談があるんだが、来てくれんかね?」
声をかけてきた老人は、この村の村長だ。
彼はこの村で一人暮らしをしている。
なんでもだいぶ昔に跡取り息子を、少し前に奥さんを亡くして一人暮らしだと聞いている。
もう歳も歳なので次の村長が決まったら、隣村に嫁いだ娘の家にお世話になる予定らしい。
村長と話しに行ったドーソンさんは、今度は俺を手招きして呼んできた。
「おい、ロイド。村長がお呼びだ」
「え?あ、はい、今行きます」
村長の所に行くと、彼はゆっくりと話し始めた。
「ロイド君だったかな?君は確か両親が居ないのだったね?」
「え、えぇ正確には両親が居たか覚えてないですが……」
「まぁその辺はどっちでもええさ、君の知恵を見込んでお願いがあるんだが、聞いてくれるか?」
「俺にできる事でしたら良いんですが、どんな事でしょうか?」
「なに簡単な話じゃ、儂の養子に入ってくれりゃええだけじゃ。君ももう知ってると思うが、儂の跡継ぎは少し前の戦争で死んでな、儂も老い先短いので後継者が欲しいのじゃよ」
「しかし、俺はこの村に来たばかりですし……」
「その辺の心配は要らんよ。昨日の村の会議で、君が養子に入るのを条件に許可は取ってある。どうじゃ?この老い先短い老人を助けると思って、なってはくれんかの?」
懇願してくる村長を目の前に、俺は戸惑っていた。
正直言って、村長なんて何をしたらいいのか分からないからだ。
「それに今ならまだ儂が生きておる。村長になってもらったら相談などはいくらでもできるから、心配いらんぞ」
この老人、エスパーか!? 俺の考えている事筒抜けなのだろうか?
「……わかりました。村長出来るかどうかわかりませんが、やってみます」
「おぉ~、やってくれるか。そうか、そうか見込んだ通りの若者で良かったわい」
こうして俺はドーソンさんの家から村長の家に移り住むことになった。
ドーソンさんの家と比べると幾分か大きくはなったが、中の様子はあまり変わらない昔の農家といった感じだ。
「これからは儂の養子になったので、名前はロイド・ウィンザーと名乗るがええ」
「わかりました。ところで俺は村長をお義父さんと呼んだ方が良いのですか?」
「……それは、まだ気持ち悪いの、儂の名前はベクターじゃから名前で呼んでくれ」
おい! 気持ち悪いってなんだよ! 気持ち悪いって! と心の中で叫びながらも、それはおくびにも見せず「はい、ベクターさん」とだけ答えておいた。
「で、お主にやってもらう事じゃが、村長は基本的に村の揉め事の仲裁、納税の帯同、利水関係の調整、村の名簿作りが仕事になる。この中で一番多いのは、利水と仲裁じゃ後は時期物じゃから、無い時は全く無いからの」
なるほど、要は村の便利な司法官って感じだな。
「わかりました。できる限りの事をさせてもらいます。住民の名簿はどこにあるのですか?」
「それはこっちに置いてある」
そう言うとベクターさんは地下室に俺を案内してくれた。
どうやら火災などの被害で焼失しない様に管理されているらしい。
必要な資料も全て揃っており、ベクターさんが1人コツコツと仕事をしてきた事がうかがえる。
「まぁ解らんことがあったら聞いてくれ。ちなみにその羊皮紙の山は過去に起こった揉め事のメモと解決した方法じゃ」
そう言って指さした先には、とてつもなく高く広く積みあがった羊皮紙の山があった。
所謂、「判例集」と言う奴だ。
これを元に揉め事が起こった時に、判決を下すらしい。
正直もう少し整理しないともしもの時にかなり大変な事になる。
そんな事を思いながらベクターさんの下で過ごして半年がたった。
ベクターさんとの毎日は、最初思っていた利用し合うような関係ではなかった。
それは、田舎特有の助け合う関係から始まり、徐々にだが、確実に俺たちは家族になってきていた。
時に笑い合い、時に意見が対立して喧嘩したりしながらも、良き家族として過ごすことができた、安息の日々だった。
だが、その日々は、突然壊れてしまう。




