幕間 アンドレアの過去
時系列的には訓練兵の試験から猿討伐までの間のどこかのお話です。
題名通りアンドレアが過去に犯した罪がわかります。
祝評価P200越え!と言うわけで遅まきながらお祝い更新です。
「あれは、私がまだまだ無名の魔術師であった頃の話です。
私はアニエス・クラックと同期で彼女は既に王国筆頭魔術師で「瞬炎の」の二つ名をもらっている才女がでした。
そして、彼女とは王国魔法学院時代からの友人でありライバルだったのです。
その彼女が二つ名持ち、一方の私は名もないしがない魔術師……、一体どこで差がついてしまったのでしょう?
彼女と出会ったのは、私がまだ15歳の頃です。
彼女とは同い年で共に将来を嘱望された若き魔術師として学院に入学しました。
彼女は炎系魔術の達人で、ありとあらゆる物を炎で焼き尽くし、溶かしてしまう人でした。
そして、その炎は彼女自身の心にもあり、共に学ぶ学友としてこれ以上にない程の女性でした。
方や私はと言うと、得意な魔術系統が全くない凡才だと思っていたのですが、魔力放出量が常人の数百倍あり、また内蔵している魔力も常人の10倍と魔術師としては優秀な人間でした。
私と彼女は互いに名声を高めるのと同時に、お互いを良き友、良きライバルとして認識する様になりました。
もちろん、私が彼女に焦がれているのは秘密ですが。
さて、そんな彼女との差が決定的になった事がありました。
それは、隣国シャンボール王国との戦争でした。
私は、第7魔術旅団に配属され、彼女は第1魔術師団に配属されたのです。
そう、彼女は元帥直属の親衛魔術隊とも言われる第1師団だったのです。
この時、私にとって人生で初めて味わう屈辱でした。
私の力も彼女の力もそう大差ないもののはずでした。
唯一の違いは、生まれた家くらい、そう彼女は貴族だったのです。
それも大貴族と言って良い辺境伯家の娘、方や私は一農村の次男坊。
それでも周囲は農家の次男坊が第7魔術旅団に入った事に驚いていましたが、私の中では鬱屈した思いが積み重なっていきました。
「彼女に勝ちたい」
いつの日からかそれが私にとっての一番の目標であり、人生の目標になっていきました。
そして、戦争が終わり、卒業と同時に彼女は王国筆頭魔術師の補佐官になり、私は彼女の下で王国魔術師としてスタートとなりました。
「彼女に勝たなければならい」
私の思いは日ごとに募り、そして達成されない思いに焦燥と絶望が折り重なっていきました。
「彼女に勝つには……」
そんなある日、私の元に運命を変える一冊の本が目に留まりました。
それは、「魔術生物生成の書(禁書)」でした。
この国では魔術生物の生成は禁止されていました。
理由は簡単です。
彼らを制御しきれる魔術師が居ないからです。
そして、その制御されなかった魔術生物は人々を襲う魔物と化し、我々を苦しめるというのです。
これは実際にあった話だそうです。
魔術生物の生成を禁止していなかった頃に各国でより強い魔術生物を作り兵にしようと考え始めたのです。
そして、それの開発競争は悲劇の連続でした。
まず、魔術生物事態が生まれない。
次に、生まれたは良いが、魔術師が生物と合体してしまい殺処分するしかなくなった。
そして、生み出したは良いが制御しきれず殺され、逃がしてしまって魔物化した。
逃げ出した魔物は野生動物と交配を繰り返し、現在の魔物の生態系が完成してしまったという事があってから、各国は互いにこれの開発を取りやめる事を約束したほどでした。
そんな魔術生物の作り方の本が私の手の中にある。
これは、私に作り出して世間をアッと言わせよという神の思し召しに違いないと勘違いした私はそれから5年もの歳月をかけて魔術生物の研究を行ったのです。
5年後、最後の壁であった魔術理論が完成し、私はこれまでにない強力な魔術生物を作り出す為に術式を発動し、ついに作り出しました。
そう、それも魔術生物を完璧に制御下に置いたのです。
ですが、世間はそれを認めませんでした。
私の成功を妬んだ者たちに詐言され、私は王国魔術師としての地位をはく奪されたのです。
国王の前に引き立てられた私は何度も何度もかの魔術生物が私の管理下にあると言っても訴えを認めてもらえず、国王によって王国魔術師の資格はく奪と、出国禁止の呪術に貴族への奉公構を出されることになったのです。
その後は、貧乏をしました。
蓄えていた財産も没収となり、無一文になった私は村を転々として銭を稼ぎ、地方の有力者に目を付けてもらい、少しずつ出世する道を辿っていたのです。
そして、何度目かわからない転職先探しの時に立ち寄った国境の街で、我が生涯の主と出会ったのです。」
ここまでの話をアンドレアは自分に浸りながら一気に話し切った。
聞いた俺も馬鹿だったが、ここまでずっとしゃべり続けるアンドレアも相当な馬鹿と言って良いだろう。
なんでこんな話になったかと言うと、先日の一件で彼の正体を知る事になった俺は、追加の尋問と言う名の話し相手になってやったのだ。
どうもどこか時々おかしくなっているので、たまに話す事でガス抜きが出来ればと思ったが、必要なかったかもしれない。
「で、アニエスへの思いはどうなったんだ?」
俺がそう悪戯っぽく聞くと、彼はしばし考えた後にこう答えた。
「たぶんまだ焦がれているでしょう。ですが、今はそれよりもここでの事を研究したいという気持ちの方が勝ってますし、貴方の様な人がどこまで街を発展させ、どこまでこの国を、世界を変えていくのか知りたいのです」
随分と買いかぶられたものだが、彼の期待に応えるためにも頑張らなければならないな。
試験的に12時更新にしてみました。次回は17時に戻りますァィ(。・Д・)ゞ
今後もご後援よろしくお願いします。