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ほのぼのとした村の催し物です。
自警団が設立してから3日後、流民の中から兵になる事を希望する者を募ったが、衣食住が確約されている事もあり、予想以上の人だかりに正直困っている。
「バリス団長、この人数を兵として雇う事は正直不可能だ。どうにかして選別してほしいのだが何か方法はあるか?」
「そうですね。まずは基礎体力で振り落としましょう。今日1日くらい開墾作業をしなくても大丈夫なのでしょう?」
「まぁ初期段階の開墾はアンドレアに任せているので、多分大丈夫だが、基礎体力は何を測るんだ?」
「とりあえず、持久力と剣槍の基本動作を見て決めたいと考えていますが、どれくらい兵として囲っても良いのでしょうか?」
「そうだな、この調子で開墾が進めば将来的にはここに居る全員を雇えるが、畑の人手が必要なので、4分の1の15人にしておこう」
「15人ですね。わかりました。では上から筋の良いものを15人選抜します」
雇う人数を確認すると、バリスは試験官となる元同僚に試験の科目等を伝えに行くのだった。
その後1時間ほど受付に時間を使ってから、試験が開始された。
最初の試験である持久走は村の4ブロックの外側を走り続けると言う物だった。
もちろん無給水で走っては流石に倒れるだろうと考え、持久走の間だけ、アンドレア給水所を設けて彼には水を供給してもらい続けた。
試験を受けない村民については、今日は休みとして、受付の手伝いなどの運営側と観戦者となってこの試験を楽しむ事にした。
「それでは、位置について……よーい、スタート!」
俺の合図で全員が走り始めた。
所定の回数をどれだけ同じペースかつ速いタイムで走り続けられるかがこの競技の肝となるのだが、およそ持久走と言う物を経験した事の無い村人達はスタートの合図と同時に全速力で走り出してしまった。
「おぉっと! スタートの合図から行き成りのダッシュ! ほぼ全員が1個の塊となって村の第一コーナーに差し掛かった! ちなみに実況と解説はコーナーでお馴染み、コーナー・グリプスホルムがお送りします!」
競技が始まったのと同時にコーナーが頼んでもいないのに実況と解説を始め、見物客からもやんややんやと囃し立てる声が聞こえる。
まぁ楽しめているならそれで良いのだが、いつの間にコーナーの奴は小学校の屋根に登っていたんだろう……。
「さぁ先頭集団がものすごいスピードで走り始めて1分が経過しました。流石に先程のペースでは走れなくなってきたのか、先頭集団からの脱落者が相次いでいます。現在の先頭は約10名と絞られてまいりました!」
まぁほぼ全速力でここまで良く走ったものだ。
既に先頭集団は2周目に突入しているが、このペースで完走はまず難しいだろう。
「約10分が経過しました。先頭集団のスピードもある程度落ち着いてきており、現在先頭は5名まで絞られております。ただ、この先頭集団もスタート時点とは比べ物にならないくらいペースが落ちています!現在先頭は約5周目で周回遅れも出ているものの、徐々にですが、巻き返されてきております!さぁ先頭集団はどこまで逃げらるのか!段々と面白い展開になって来ました!」
最初こそ全員全力ダッシュだったが、徐々に落ち着き、現在ではほぼ全員がジョギング状態だ。
ただし、最初からペースを一定に保っていた周回遅れ組は、徐々にだが先頭集団に最接近してきており、全周するまでにどれくらい持つか見ものだ。
「さて、あれから約20分が経過しました。現在先頭は相変わらず5名ですが、なんと! 周回遅れ組が先頭集団を射程距離に捕らえ始めました! 既に14周回っており残すところは後1周! どこまで逃げられるか?先頭集団! どこで追い抜けるか? 周回遅れ組! いよいよ最後の1周です!」
コーナーは内政の才能があるとか言っていたが、どうやら実況者の才能もありそうだ。
今後催し物をする時は、彼を実況者に立てると盛り上がるかもしれないな。
俺がそんな事を考えていると、持久走の決着がついたようだ。
勝ったのは、先頭集団の5名だった。
最後の追い込みに対する逃げは中々見ごたえのあるレース展開だったといえる。
それから10分後、最後の走者がゴールしたところで1次試験は終了となった。
最初先頭集団に居た者の内合格ラインに達したのは5名だけで、後は思い思いに走っていた者たちが15名合格した。
ここから30分の休憩を挟んで、剣と槍の素振りを見て合格者をバリス達に決めてもらう。
もちろん、剣や槍を握った事も無い農民たちなので、休憩の間に簡単な振り方のレクチャーを受けている。
「それでは、素振りはじめ!」
合図とともに20人の候補者が一斉に素振りを始めた。
流石に先程までの楽しい余興と言う雰囲気は無く、今後自分たちが養っていくであろう相手を村民はジッと眺めていた。
「それでは試験はこれにて終了! 結果は明日我々で協議した上で発表する!」
バリスの宣言に余裕の表情をする者も居れば、実力を出し切れなかったと悔しそうな顔をする者も居たが、それぞれが帰路につくのだった。
その後、試験官を務めていた部下たちの意見を纏めて、合格者の番号の書かれた板を俺に提出してきた。
「これで、大丈夫なんだな?」
俺の念押しにバリスは苦笑しながら応えた。
「それは正直わかりません。この中で使い物になる奴が半分出れば良い方だと考えてください。大怪我をする者も居れば、訓練から逃げ出す者も居ます。そんな困難に耐え抜く運と実力のある者だけが生き残れるのです」
「……それもそうだな。これから先の訓練方法はバリス団長に一任する。ビシバシ鍛えてやってくれ」
「かしこまりました」
俺の一言に彼はニヤリと笑いながら応えてきた。
今後彼らがどう成長するか楽しみである。
自警団発足です。
今後の彼らの成長をお待ちください。
今後もご後援よろしくお願いします。