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ドレストン男爵の襲撃から2週間が経った。
この間までの戦闘が嘘の様に平和な時間が流れる中、男爵側からの交渉の使者がやってきた。
「お初目にかかります。今回は捕虜の開放についてです」
「お待ちしておりました。それで条件はどの様になりましたか?」
俺が金額を聞くと、使者は顔を強張らせて男爵からの書面を読み始めた。
「我、ドレストン男爵は反乱せし村長に命じる。即刻捕虜を解放し我が館へと出頭せよ」
使者はそう言うと、俺の顔色を窺う様に上目遣いで見てきた。
俺もある程度厳しい交渉になるだろうと考えていたが、彼はあれだけ手酷くやられてなお負けたと言わないらしい。
まぁ貴族社会はプライドの社会と聞いていたから、どんな言い訳をしてくるかと思ったが、これはあまりにも酷いとしか言えないだろう。
「使者殿、申し訳ないがその様な条件ではこちらは首を縦に振れません。手紙は受け取りますが、帰ってもう一度条件をすり合わせて来てください」
俺がそう言うと、傍で控えていた武装した農民兵が使者を門の外まで追い立てて行った。
さてはて、これは困った話だが、騎士の皆さんにお知らせだけはせねばならない。
いっそこの悪手を逆手に離反の計に持ち込むと言うのもありかもしれないな。
俺が頭の中で今後の事を考えていると、マリーが入ってくるなり怪訝な顔で話しかけてきた。
「ロイド? 今すっごく悪い顔してるわよ」
「え? あ、あぁははは、ちょっと考え事をね。ところでマリー何か用かい?」
マリーに図星を突かれて少々焦ったが、彼女に来訪の理由を尋ねると、ドローナが来たらしいと言う事だったので、いったん棚上げにしておくことにした。
ドローナの元へ行くと、彼女は若干緊張した面持ちで俺を待っていた。
「こ、この度はご戦勝おめでとうございます」
「どうしたんですか?ドローナさん。珍しく緊張なんかして」
俺がいつもと変わらない様子で話しかけると、ドローナは深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから話し始めた。
「いえ、正直に申しまして怖かったのです。前回の勝利で村長の人が変わっていたらどうしようかと……」
「なるほど、それについては大丈夫ですよ。私は私です。これからも変わりません。ところで石灰石はありましたか?」
俺の宣言を聞いて本心からやっと安堵できたのか、ドローナはいつもの調子に戻って依頼していた商品を見せてくれた。
「こちらの石で宜しかったのですか?あまり利用する用途の無い石だと思うのですが……」
「まぁ利用方法はまた後日お越しいただいた時にわかるでしょう。量は……おぉこれだけあれば十分です。して料金はどれくらいですか?」
「そうですね。ほぼ捨て値だったので1樽で銅10枚ほどになります」
「お、それは安いですね。では全部頂きましょう」
「ありがとうございます」
ドローナに金を渡すと、彼女の隊商の部下が石灰石を家の倉庫まで運んでくれた。
その様子を見て居ると、ドローナが買い取る商品の話をしてきた。
「それで、今回は、梅漬けは出来ていますでしょうか?」
「申し訳ないが今回は戦闘もありましたので、お売りできるほど作れていないですね。また次回お越しになった時にできている様にします。」
俺がそう言うと、彼女は落胆した表情でため息を吐いた。
「代わりに市場に流して欲しい商品が多数ありますので、そちらをお願いできますか?」
「流して欲しい商品というと、男爵家の鎧などですか?」
「そうです。男爵領の騎士の装備品です」
俺がそう言うと、彼女は眉間にしわを寄せて考え始めた。
少しその様子を眺めながら待つと、俺の方を向いて話し始めた。
「残念ですが、その鎧は買い取りを拒否します。鎧にはその貴族家の刻印がされており、販売すれば足がつきます。そしてそれは即ちドレストン男爵家への敵対意思の表示と受け取られかねません。私たちは先程も申し上げたようにあくまで商人です。1つの貴族家と敵対するだけの力はありませんので、ご勘弁ください」
「わかりました。まぁ恐らく鎧はダメだろうと諦めていましたので、溶かしてこちらで使えるものに作り直します。では武器類だけ買い取りをお願いします」
「えぇ、そちらは喜んで買い取らせて頂きます」
その後、ドローナと値段交渉をして、武器類13点は銀140枚で買い取られていった。
ドローナ達との交渉が終わった俺は、次の仕事に取り掛かった。
それは、増えた村民の開拓地計画だ。今の堀の内部は開発が進み、空き地がほとんどないのが現状だ。
この状態ではどうしようにもならないので、縄張りを決める事にした。
本来なら縄張りを決めてから堀や塀などを作るのだが、今回は緊急事態だったので、先に堀と塀を完成させてから決める事になった。
「さて、集まってもらったのは他でもない。この周辺に関して地図を作ろうかと考えている」
「地図、ですか? 必要なのはわかりますが、なぜ今なのでしょうか?」
確かに今は色々な事があるので地図にかまける理由が解らないと言うのは良く分かる。
だが、このまま計画も何もなく進めては村が発展する上で阻害要因になりかねないのだ。
「地図ができる事で周辺の様子がわかるし、もしかしたら梅漬け以上の特産品ができるかもしれない。それに今後の防衛施設の造営を考えると大きめの石も大量に欲しいんだ。そして何よりも地図を見てそれらを予め考えて作ると村が城と城下町のある大都市になる可能性も広がるんだ」
地図が必要な事、計画を立てる重要性を説くと、村民たちの顔に納得の色が出始めた。
特に村民が期待したのは、城と城下町のある大都市と言う言葉だ。
誰しもが都会に憧れを抱き、都会を一度は見たいと考えているが、農民には中々かなわない夢である。
それを叶えてくれるかもしれないと考えると嬉しくなってきたのだ。
「わかった。村長の言う様に地図作りを手伝おう。けど裏の森とかはどうやって入るんだ?おら達では、入ったは良いがそのまま魔物の腹にまで入ってしまいそうだ」
「その点は心配ない、アンドレアと新しく入ったコーナーに定期的に裏の森に入って測量をしてもらっている。裏の森の規模やどんなものがあるかは徐々に分かってくるだろう。まず皆にやってもらうのは、現在の村の中と柵の外の状況を整理する事だ」
それから俺は村民に対して村のどこを調べて欲しいか、調べる時はどうするのかを詳しく教え、大まかな村の地図を完成させる事ができたのだった。
ご後援よろしくお願いします。ァィ(。・Д・)ゞ




