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2‐1

今日から第二部です。

 ドレストン男爵を追い払ってからすぐに俺達は堀の片づけを始めた。

 まだ息のある騎士は武装解除を命令して手当てをすると同時に捕虜として扱う事になった。

 数は約20名居り、この中で1人だけ俺に味方したいと申し出てきた物好きな奴が居た。


「……で、なんで俺に着いて行きたいなんて言いだしたんだ? えっと……、何君だったかな?」


 俺の目の前に縄で縛られて座っている20歳前の優男が喜々として答え始めた。


「コーナー・グリプスホルムです。村長殿。私は元々内政官でして、色々な内政方法を考えては実行する事を生業としていたのですが、私の内政手腕に嫉妬した無知な奴らが追い出し、私はこうして騎士として戦いに出る羽目になったのです」


「それはわかった。コーナーはなんで俺に目を付けたんだ?」


「まず一つは村長の内政方法、特に農業技術が他の人間に比べて遥かに優れているからです。これだけの土地でこの領土の麦を半年分も作り出すのは並大抵の技術ではありません! それを学びたいのです!」


 彼は理由を話しながら徐々に興奮してきて、最終的にはこちらに唾を飛ばす勢いだった。

 俺はそんな彼をジッと見つめながら何か矛盾が無いか、信用して大丈夫か冷静に見るようにした。


「しかし、俺以外にも農業の専門家は居るだろう?」

「いえ! あなた以上の方はいません! 私はあなたから学びたいのです!」


 どんだけ必死なんだよ。っと思ってしまうくらい彼の眼は必死だった。


「わかった。最後の質問だ。俺に仕えれば恐らく家族の命はないだろう。それでも来るのか?」


 そう、俺は紛れもなく国家の反逆者である。この狭い土地では恐らく後3年持てば良い方だろう。

 後は国際情勢によって多少の変化はあるだろうが、〝現状維持″で行けばそれくらいだ。

 そして、反逆に加担すれば家族は恐らく打ち首や磔にされるか、人質になる。


「私に家族はもう居ません。私は貴族家に養子に出された者です。その家もつい先日当主がそのだいぶ前に夫人も無くなっており、家は私の権限で家宰以下メイドなども罷免しております。名前だけしか残っていないのです。だから後は私の勝手にできます」


 なるほど、確かにそれなら自由になるだろう。

 だが、信用できるまでは重要な事は任せられない。

 少しでもおかしな素振りを見せたら切れる様にしないといけない。


「わかった。暫くの間は監視を付ける事、機密にしなければならない事には参加させない事、不審な点があった場合は即切り捨てる事を了承できるならば迎え入れよう」


 俺の機密に関する事を聞いた瞬間に少し落胆したような表情を見せたが、すぐに顔をあげてこちらをみて宣言してきた。


「なら、信用されるまで頑張りますので、よろしくお願いします」


 彼はそう言って頭を下げてきた。

 流石にこの条件まで飲まれたらこちらとしては断る事ができないので、了承する事にした。




 その後、敵が残して行った糧食や装備などを計算していたゴードンが俺の所にどれくらいの金額になるか試算を持ってきた。


「恐らくですが、武具が一揃いしているのが銀100枚ほど売れるでしょう。それが約10揃いありました。またそれ以外の武具もあり、恐らく全てで銀50枚分にはなるでしょう。後、糧食ですが、こちらはあまりありませんでした。恐らく領主軍も相当な無理をして軍を起こしたのでしょう。全部集めても村民約150人で1日も持たない量ですね」


「なるほど、かなり厳しい状況が全土に広がっているんだな。後はここに居るコーナーを使って戦った村民全員で均等に割り振れるようにしてくれ。装備の販売先はドローナに任せよう」


 それから俺はゴードンに二、三指示を出してから捕虜の居るアンドレアによる即席の牢屋の視察に行った。

 牢屋の広さは約20畳と19人では手狭だが、全員がこの牢屋に入っている訳では無い。

 彼らの内6名程が重症、3名が意識不明の重体となっているので、10人で入ってもらっている。

 もちろん彼らには食事と衛生的な生活を保障しているが、あまり長い時間ここに居られても困るので、さっさと帰ってもらえる様に比較的若い男に手紙と帰りの糧食に剣をだけを返して放り出した。

 

 彼には、「2週間で交渉の使者がこちらに到着しない場合は捕虜を全員殺す」と言って脅している。

 もちろん無暗に殺す事はしない。

 これは若い男に必死になってもらう為の嘘だ。







「さて、捕虜の処遇もある程度決まったし、そろそろ話を聞かせてもらおうか?アンドレア」


 俺は自分の家にアンドレアを招いて彼の出自について質問をした。

 これまでも何度か質問したが、毎回のらりくらりと躱されていた。

 

「……はぁ、流石に今回は逃がしてもらえそうにありませんね。わかりました、お話ししましょう」


 彼はそう言って大きなため息を吐くと自分の過去を話し始めた。


「私、アンドレア・ホーエンハイムは『放浪の魔術師』と呼ばれている魔術師です。魔術師に二つ名がつくのはその実力が大魔術師以上の実力者と認められた証でもあります。謂わば王国筆頭魔術師と同義なのです」


「王国筆頭魔術師というと、アニエス・クラックという女性魔術師だよな?」


 俺の拙い記憶にあった名前を出すと、彼は少し表情を歪めながら首肯した。


「えぇ、私は彼女と肩を並べる存在ではありますが、王国の正式な記録からは抹消されています」


「抹消? それはなんでまた?」


「私が過去に大罪を犯したからです。私は生物創造の禁忌を犯したのです」


「生物創造?」


 あまりに壮大過ぎて俺には理解が出来なかったが、恐らく人体錬成的な事をしたのだろうと某漫画を引き合いに出して納得した。


「えぇ、それをしたが為に全ての記録からの抹消と私自身の抹消が王国によって命令されましたが、私を止められるのはアニエス以外だと万の軍勢が必要になるでしょう。流石にそこまでの事をしてまで私を殺しても意味は無いと考えた国王は、私に対して呪いをかけました」


「呪い? 国王は呪術師か何かなのか?」


「まぁそんなものです。彼らは神話の時代より神から私たち魔術師の行動を封じる力があるのです。そしてそれは国外に出られないと言う呪いでした」


「地味な呪いだな。それより他の貴族から声はかからなかったのか?」


 俺の問いかけに彼は首を振って自嘲気味に笑って続きを話した。


「それは無理でした。国王は私を雇うことを禁止したのです」


 安土桃山時代の「奉公構」という奴だな。

 他家に仕官する事を禁止する文章を発行されたのだ。

 これが戦国乱世ならいざ知らず、ここは比較的平和な貴族社会で発行元は国王だ。

 誰も厄介の種を持ちたくなくて恐らく何もできなかったのだろう。


「で、俺の噂を聞いてここにやって来たって事か?」


「えぇ、研究と言うのも嘘ではありませんが、貴方なら栄達するかもしれないと考えてここに住ませて頂いたのです。そしてそれは予想を遥かに超えて反逆者とまでなられた。このお陰で私にかかっていた呪いも無事とけました」


 ん?俺が反逆したから呪いがとけた?どういう意味だろう。


「あぁ、すみません。言葉が足りませんでしたね。反逆したと言う事は、ここは国家の干渉が及ばない地域となります。それは要するに国外と同じなのです。私の呪いは国外に出れない事これだけなのですが、一歩出れてしまうと呪いは消える様になっているのです」


「なるほど、言葉遊びみたいな感じだな」


「言いえて妙です。出れないのに出てしまった状態が起これば呪いに矛盾が生じます。その矛盾によって呪いは自壊してとけてしまうという訳です」


 そこまで話すと、アンドレアは一息ついて暗にこれ以上話す事は無いと俺を見てきた。


「わかった。どこまでが信用できる本当の話かは分からないが、こちらでも調べて矛盾があればその時また聞こう」


「ありがとうございます。ではこれにて今日は失礼します」


「あぁ、お疲れさま」


 俺がそう言って手を振ると、彼は一礼して家を出て行った。


今後もご後援よろしくお願いします。

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