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H28.10.21指摘頂いたところを修正。それに伴って他の文章も微妙に変更。

H29.2.2千岩黎明さんが新しくイラストを描いて下さいました。ありがとうございます。


挿絵(By みてみん)


「ん……? ここは?」


 川岸で倒れていたはずの俺は、どこかの家に運び込まれたのか、藁の上にシーツを乗せただけの簡易なベッドに横たわっていた。

 俺が訳も分からず周囲を見回していると、部屋の前に一人の少女が立っているのに気が付いた。

 長い金髪を一つにまとめた少女は、その白い手に木桶を持っていた。

 

「やっと気が付いたんだね。言葉は、わかる?」

 

 俺が頷くと、少女はホッと一息吐いて部屋を出て行った。

 遠くから親を呼んでいる声が聞こえたかと思うと、もの凄い大声が響いた。


「なに! やっと目を覚ましたか! 今行くから待ってろ! お前1人で会うんじゃないぞ」

 

 今物凄く警戒されているというか、失礼な事を言われたような気がするが、助けてもらったのだから文句なんて言えない。

 

 それから数分もしないうちに、家の中にドカドカという大きな足音と共に、大柄のおっさんが入ってきた。

 

「よう、気が付いたようだな。お前さん、河岸で行き倒れていたのは憶えているか?」

 

 俺が首を縦に振ると、男は「そうかそうか」と言いながら頷いて話を続けてきた。

 

「まぁお前さんが行き倒れているのを、うちの娘が見つけてな。家まで運んで来たんだよ。ここまでは良いか?」

 

 俺が頷くと、また男は頷きながら話を続けてきた。

 

「で、儂らが助けたんだが、まずは名乗ってもらえるか?」

 

「俺の名前はロイドだ」

 

「ロイド何て言うんだ? 苗字あるだろ?」

 

「……、それがロイドしか思い出せないんだ。気が付いたら戦場に居て、命からがら逃げて来たんだが……」

 

「川岸で行き倒れたって訳か」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「じゃぁロイドだけで良いか、あぁ俺の名前はドーソン、ドーソン・ハートレックだ。さっきいたのが娘のマルシールだ。良いか? 絶対に娘に手を出すなよ? 出しやがったらどうなるか、分かっているな?」

 

 そう言うと、ドーソンはただでさえムキムキの筋肉をより一層肥大させて威圧してきた。

 その迫力に負けて俺は、何度も頷いていると、後ろからマルシールが顔を出した。


「もう、お父さん。怪我人だか病人だか分からないけど、そんな威圧したらダメじゃない。ロイドだっけ? 気にしないでね。お父さん村の若い男全員にこんな感じだから」

 

 そう言って笑う顔は、本当に可愛らしく、一輪の花が咲いた様な、そんな臭い言い回しが思いついてしまう笑顔だ。

 

「ドーソンさん、マルシールさん、ありがとうございます。このご恩は必ずお返ししますので、もう少しだけ置いていただく事は、出来ませんでしょうか?」

 

 俺が畏まって挨拶をすると、ドーソンは頬をかきながら、「かまわん」とだけ言ってくれた。

 

「ただし、元気なら明日から畑仕事を、しっかりと手伝ってもらうからな」

 

 そう言って豪快に笑うと、部屋を出て仕事に戻っていった。

 その後ろ姿を見送ってから、マルシールは笑顔で俺に話しかけてきた。

 

「あ、そうそう、私の事はマリーって呼んでね? マルシールって長くて、この村ではマリーって言わないと通じないから」

 

「わかった。今度からマリーって呼ばせてもらうよ」

 

 特に何か言うべきことも見つからなかったので、2人きりの部屋には沈黙が流れた。

ものすごく気まずい、こんな時何か気の利いたことが言えたら良いのだが、生憎と女性慣れしてないので何も思いつかない。

 

「……それじゃ、私も仕事に戻るね。家の中に居るから何かあったら声かけてね」

 

 そう言って立ち上がると、そそくさと部屋を出て行ったのだった。

 

「マリー……か、可愛らしい女の子だったな……」


 小学生以来、女の子と2人で話すなんて事が無かった俺は、しばしの間余韻に浸るのだった。

 

 

 次の日、早朝からドーソンさんに起こされたと思うと、畑に連れて行かれた。

 どうやら昨日言っていた畑仕事をさせられるらしい。ただ……。

 

「これ、麦ですよね? あんまり実り良くないんですか?」

 

 俺が手に取った麦の穂はまだ若いと言っても、実が軽く栄養が行き渡っている様には、見えなかった。

 

「ん? あぁ、今年は不作でな、麦の成長が悪いんだよ」


「何か肥料とかは、あげましたか?」

 

 俺が肥料をあげたか質問すると、ドーソンさんは首を傾げていた。

 

「ん? その肥料ってのは、なんだ?」

 

 肥料を知らない?

 

「え、石灰とかあげてないんですか?」

 

「石灰? なんだそれ? 知らねぇな」

 

 肥料を与え始めたのは、いつだったか正確な時代は忘れてしまったが、そうなるとここは中世くらいの文明だぞ。

 近くを見回すと牛舎の様な物が所々見えているので、農耕に牛などを使っている所はあるようだが、肥料を知らないとなると……、使えるかもしれない。

 

「ドーソンさん、このまま手を打たずに居れば、恐らく麦は全滅です。そうなる前に肥料(・・)を試してみませんか?」


「ん~けど失敗するかもしれないんだろ? そんなもんやらせられねぇよ」

 

「それはわかってます。だから、特に発育の悪い畑で試してみませんか? 今ならまだ間に合うかもしれません」

 

「ん〜……。しかしだな」

 

「俺としては、助けてもらったお礼がしたいんです。お願いします!」


その後も暫くドーソンさんは渋ったが、なんとか説得して、畑を任せてもらうことができた。


 それから俺は漫画やライトノベル、インターネットで調べた方法を思い出しながら試してみた。

 

 まず行ったのが、牛を飼っている家に出向き、牛の寝床の周囲の土を手に入れ、その土を麦畑に撒いて試してみた。

 それ以外にも糞なども肥やしになる様に木桶に落ち葉と共に入れて蓋をして発酵させ、少しでも上質の肥料になる様に工夫した。

 

 苦労のかいがあったのか、数週間後には俺の任された畑の麦はズッシリと重たい穂をつけたものが多くあった。

 

「これは、すごいな。まさかあのダメな状態から持ち直すなんて……」

 

「すごい……。これ今までにないくらい豊作じゃない?」

 

 ドーソンさんもマリーも信じられないという表情で見ていたが、俺としてはもう少し手を加えたかった。

 このままでも良いのだが、少しでも多く作るには、土を効果的に休ませる必要がある。

 

「ドーソンさん、もっと豊作目指しましょう!」

 

 恩返しのために気楽に始めたこの事がきっかけで、俺の存在は村中に知れ渡る事になった。



 


 村内某所 ???

 

 儂は、この歳になって人生とは、本当に面白いと感じている。

 ドーソンさんの所の娘が拾ってきた行き倒れが、まさか奇想天外な方法で収穫量を増やしたのだ。

 量にして、いつものおよそ1.2~1.3倍と聞いている。

 しかも、方法がかなり簡単なのだ。

 なんと、牛舎の土を少しまくだけだというから驚きだ。


 この話を聞いた儂は、即日村の代表者を招集して会議を開く事にした。


「さて、今日集まってもらったのは、言うまでもない、次期村長についてじゃが……」

「おいおい、ベクターさん。歳食って耄碌したか? その話は前回して、ゴードンが次期村長って事で満場一致したじゃないか」


「誰が耄碌するか! この通り頭もはっきりしとるわ!」


 儂はそう言って、顔を真っ赤にして叫ぶと周りに居た他の代表者が、「まぁまぁ」となだめてきた。

 ふん、少し熱くなってしまったわい。


「ゴホン! ゴードンのこせがれは、確かに頭もよく頼りになるのじゃが、1人とんでもない奴が村に身を寄せておるのじゃよ」


「身を寄せているって、あのドーソンさんとこの居候か? 確かに収穫を増やしたとは聞いたが、偶然じゃねぇのか?」


「うんだ。たまたま豊作の時に奴が来たのじゃろ?」


「あほ抜かせ、お主等こそわかっとらんな。ここ最近飯に困っとらんのは、狩人の腕が上がってそのおこぼれを貰っとるからじゃろが。麦の収穫は年々落ち込んどるわ!」


 これは、儂がある程度記録を付けているから分かっている事じゃ。

 もちろん村の代表者にも記録は見せているが、まともに字を読める奴も居らんし、覚える気もないから説明損を毎回しておる。


「それに、ゴードンを選んだのは、読み書き計算ができるからじゃが、そいつは出来るのか?」


 ゴードンを選んだのは、村長の仕事は文字を読んだり手紙を代筆したり、収穫量をしっかりと記録して比べる事だから、読み書き計算ができるという目安がある。


「それについては、安心せい。ドーソンの所に様子を見に行ったら、その小僧『かけ算』とか言うのを自分で考えておったし、字はしっかりと読めとるから書く事もできるじゃろうから、その点は問題ない」


「……で、そのドーソンさんとこの居候をどうやって、次期村長にする気じゃ?」


「うむ、これも何かの縁だろう。儂には子も居らんからあれを養子に貰おうかと思っておる」


「……じゃが、良いのか? 村の人間から選ぶのが習わしだろ? 他所の奴を入れたら……」


「安心せい、村の娘を嫁にすれば、村の血は守れるわい」


 まぁこれは、かなり方便だと思うがな。

 ただ、この事に誰も疑問を持っていないのか、考えるふりだけしておる。

 いつもの事ながら、考える事ができん奴らじゃ。


「となると、誰の娘を嫁に入れるかだが、候補は居るのか?」


「ゴメスんとこの娘が確か行き遅れておっただろ?」


「おめぇ、そら大年増 (30)も越えとるじゃろが」


 流石に、15くらいの若いのに大年増はあんまりじゃろうに。


「となると、ロリー婆さんの孫娘か、ドーソンさんとこのマリーかの?」


「……。マリーをやると未婚の若い衆が煩そうじゃの」


 マリーはこの村では珍しく、かなりの器量よしで、近隣の村の若い衆からも恋慕されとる。

 まぁ、超が付くほど間の抜けとる所があるんじゃがな。

 で、ロリー婆さんとこの孫は、確か数えでまだ7か8じゃったはずじゃ。

 

「とりあえず、村の内外で関係ある娘を嫁に迎えさせるというのでどうじゃ?」


「うむ、そうじゃの。流石にロリー婆さんの孫は若すぎるし、マリーは反対多そうじゃからな」


 そんなこんなで、ドーソンさんとこのロイドを、儂の養子に入れる件は了承されるのだった。

 

 本気で、嫁の件どうしようかの……。

前回の千岩黎明さんのイラストについては、みてみんにて公開中です。URLは下記の通りです。

http://mitemin.net/imagemanage/top/icode/218763/

是非お越しください。

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