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さぁ、戦争を始めよう。
戦闘の準備を始めて2週間ほど経ったある日、ドレストン男爵がこちらに向かってやって来たという報告が入った。
「ドレストン男爵の軍勢はおよそ100です。後2日でこちらに到着すると思います」
報告を聞いた俺は、後2日で何が出来るか考えた。
まず、ドレストン男爵は恐らく装備の優位を持ってこちらの村を占拠しようと考えるだろう。
敵は粗悪と言えど、鉄製の武具を揃えている。対してこちらの装備は主に木製の槍などだ。
ゴブリン相手なら、素肌が見えているので十分凶器になるのだが、相手が鉄製の鎧兜に身を包んだ騎士だとただの棒切れと変わらない。
所詮棒で殴っても相手は死なないし、気絶すらしてくれない。
下手を打つと相手の反撃でこちらが簡単に死んでしまうのだ。
これをどうにかする為にまず作ったのが空掘りだ。
堀は最初の頃に比べてかなり拡大して、縦5メートル深さは最深部で4メートルほどになっている。
そして特徴的なのが、真ん中にある畝だ。
これは山中城の空掘りにも用いられていた、格子掘りのできそこないだが、100人前後の騎士を相手にするには丁度良い。
また、門へと続く道は、前回までの真直ぐな道ではなく、筋違橋の様に若干斜めに作り直されている。
この橋のお陰で、矢が敵に当たりやすいと言う利点が生まれるのだ。
ちなみに、弓兵を指揮するのは、ライズの役割だ。
流民が流入して、猟師なども多数入ってきたが、彼が一番の使い手だと言う事は変わらなかったと言うのが一番の理由だ。
ここまで用意が出来ているので、後は武器作りに専念するだけだった。
敵はこちらに鉄器が無いと判断して、利点を最大限利用して一塊になって突っ込んでくるだろう。だが、こちらが鉄器を作れなかったのは流民が来るまでの話だ。
村によって様々な特産品を作っているのだが、工芸品などを手掛ける技術者主体の村からも流民が来ていたのだ。
そして、その流民たちは製鉄のできる技師が何人か混ざっていた。
お陰で、現在村の武具は武器を主体に鉄製品に切り替わっていっている。
武器を主体にと言うのは、鉄鉱石がまだまだ足りないのだ。
一応ドローナ経由で大量に買い付けているものの、産出量もそこまで無いので、弓矢の鏃と槍の穂先を優先的に鉄製品に変え、攻撃力を大幅に強化している。
だが、この鉄製品たちは本来なら農具になる予定だったのだ。
鉄製の鋤や鍬、シャベルなんかが作れたら今よりも遥かに作業効率は上がる。
そして効率が上がれば開墾が進み、収穫が増えるし、堀を作る作業ももっとはかどっただろう。
それを思うと、悔しくてならない。何を好き好んで武器にせねばならんのか。
そんなこんなを考えながら2日が過ぎた。
敵は報告通り約100名でドレストン男爵が先頭に立ってこちらに降伏勧告をしてきた。
「村の諸君! 我々は君たちを害しに来たのではない。我々は税を徴収しに来たのだ! 恐れ多くも王国の税制に対して君たちの村長は麦を隠し、我らに渡さなかった。その為、この様に懲罰として騎士団を率いて来たのだ! 君たちが大人しく村長を差し出すのなら、我らは君たちに危害を加えない事を約束しよう! さぁ! 大人しく開門するのだ!」
ドレストン男爵のあまりにも自分勝手な言いように、比較的のんびりしている村民達も流石に唖然としていた。
「よくあれで当主が務まるもんだな」
「所詮貴族は血統が一番ですからね」
俺の呟きにアンドレアが横から皮肉を入れていたのを聞いて、俺は不謹慎にも笑ってしまいそうになった。
ただ、このままドレストン男爵に言わせっぱなしではこちらの士気が落ちるので、笑うのを我慢して口上を述べる事にした。
「ドレストン男爵! 税の徴収と言われるが貴方は先日財務官を派遣して村のなけなしの食料を持って行ったでは無いですか! その上まだ持っていくのですか! 危害を加えないとおっしゃったが、これ以上税を取られては、村民は皆飢え死にしてしまいます! これを危害と言わずしてなんと言いましょうか! こちらは全員一致団結してこれ以上の税を払わない事を宣言します!」
俺の宣言にドレストン男爵は遠目にもわかるくらい顔を真っ赤にして怒っていた。
「えぇい! 儂の温情を無下にしおって! 者ども! 村の奴らに目にものを見せてやれ! 全軍前進!」
ドレストン男爵の号令一下で騎士団約100名がこちらに向かって整然と隊列を組んで進んできた。
「良いか! 敵を引き付けるのだぞ! 号令が出るまで一切の攻撃を禁じる!」
俺の制止の合図に村から選抜した射手10名が弓に矢を番えてジッと待っていた。
敵は盾を前に出したファランクスの様な陣形でこちらに向かって進んできた。
「以外にしっかりとした騎士団を持っているのだな、ドレストン男爵は」
「曲がりなりにも武門の家で、昔の戦争で勇名をはせて貴族入りした家ですからね」
騎士団はそのまま中央の橋に向かって突撃しようと橋の真正面まで進んだところで突然足場が消え、慌てふためく事になった。
「う、、うわぁ! と、止まれ! 足場が無いぞ! 落とし穴だ」
「ギャー! い、痛い! 落とし穴に杭が刺さっているぞ! これ以上落ちてくるな!」
「げぇ! この杭糞が塗ってあるぞ! おい! 誰か引き上げてくれ!」
騎士団が落とし穴で隊列を乱した隙をついて俺は射手に号令を下した。
「今だ! 撃て!」
ビュッ! という音と共に10本の矢が敵の頭上に降り注いだ。
「敵が矢を放ってきたぞ! どうせ大したことは無い! 受けてやれ」
敵はこちらの鏃が木か石だと思ったのか、兜や鎧に来る分を避けようとしなかった。
もちろん鉄製の鏃なので、そんな事をすれば大惨事になるのは当たり前だった。
「ぎゃ!」
「な、なんで奴ら鉄製の鏃を――ぎゃ!」
「見ろこの鏃! こっちよりも遥かに硬い鉄だぞ!」
「に、逃げろ! 一時退却だ!」
敵の部隊長が慌てて後退の号令をかけた事で、全軍が弓の射程外まで後退していったのだった。
攻城戦は難しいものです。(書くのもやるのも)
今後もご後援よろしくお願いします。ァィ(。・Д・)ゞ