1‐7
この世界についてです。
なお、後半に出てくる「ソルトシティ」は岩塩採掘場のある街の名前です。
村の特産品についてある程度案が固まった頃、マルコに依頼していた登り窯ができ上がった。
この窯で焼くものだが、まずは煉瓦と一緒に壺を焼く事にした。
なぜ壺なのかと言うと、最近ライズが山から持って帰ってきた木の実の中に梅らしきものが混ざっていたからだ。
この梅らしきと言うのは、実の色や臭いは梅に近いのだが、形がお尻の様な形ではなく、つるっとした丸なのだ。
なのでまずは試験的に梅干になるか試す為に作ってみようと考え、他の漬物を小売りできるのと、梅干用にもなる小さい壺を作る事になった。
壺作りだが、正直俺はど素人なので分からないが、村の中に陶器を昔作った事があると言う老婆が居たので、彼女に指導監督役を任せて陶器作りを始めてもらった。
その間俺は、やっと手持無沙汰になったので、アンドレアにこの世界について話しを聞く事にした。
「アンドレア、研究で忙しいところ今日はすまない」
俺が頭を下げてそう言うと、彼は気にしてないと首を振って話し始めてくれた。
「いえいえ、村長の頼みです。できる事ならさせて頂きましょう。今日はこの世界ができた起源について話したいと思いますが、それで良かったですか?」
「あぁ頼む」
俺が頷くと、彼は咳ばらいを一つして語り始めた。
「まずこの世界は、神話によると天空神ゼリアスとその妻である大地神ガリアの手によって創造されたと言われています。この2人が世界を創造した時、鳥や獣などの様々な生き物が生まれました。そして、人間もこの時神の似姿として誕生したのです」
うん、どこかの一神教で聞いた様な話が多神教とごっちゃになっている感じだな。
俺はそんな感想を抱きながらも彼の話をジッと聞いていた。
「この夫婦神の創造で大地は潤い、生き物は生を謳歌していました。ですがこの2人が作った世界に横槍を入れる者が居たのです。それは冥界神ハバスです。彼は元々大地神ガリアに求婚をしていたのですが、彼女は彼に見向きもせず天空神と一緒になり、ハバスは地下世界の神として扱われる様になったのです。この事に腹をたてたハバスは、彼ら夫婦が作った似姿である人間を誑かそうとしてきます。ある時は神にささげる供物を着服する様に、またある時は神が作りし他の生き物を大量に殺す様に囁きましたが、上手くいきませんでした。失敗続きに段々と嫌気がさしてきた冥界神は最後に彼らに知恵のリンゴを食べる様に囁いたのです。これには神の似姿と言えど人間として生まれた彼らは知的好奇心に勝てず、その実を食べてしまったのでした」
これは完全に失楽園の話が混ざっているな。
さしづめ冥界神は蛇と言ったところかな?
「この事をしった天空神と大地神は大いに怒り、冥界神を地下に閉じ込め、人間を楽園から追放したのです。この時大地には人間以外にも出てきた者がありました。それが魔物です。魔物は冥界神の恨みと邪気が大地に染み出る事によって生まれると言われており、それが始まったのがこの頃でした。この魔物には天空神も大地神も困り、どうにかしようとしましたが、夫婦神だけではどうしようにもならなくなりました。そこで二柱で考えた結果、人間に魔物を討伐する様に命じたのです」
おぉ、なんだかどっかのRPGの様な設定になってきたな。
ってかこれ天空神と大地神の失態を人間に押し付けた様な感じだな。
「そして、その選ばれた人間によって国が作られました。それがこの国であるハイデルベルク王国やニュールンベルク王国等5つの王国なのです。この5つの王国は、それから暫くの間は魔物討伐をそれぞれの地域で行ってきましたが、ある程度魔物が片付き人間が増え始めると、彼らは人間同士で争いを始めたのでした」
そこまで話すと、彼は俺に視線を合わせてきた。
「これがこの国の、この世界の起源です」
なるほど、恐らくこれは王国同士の正当性を担保するための神話なのだろう。
その証拠に最後に王国の事が話されていた。
これは神話によって王が政権を持っている事を正当化する為に創造されたもしくは、改編されたのだろう。
「ありがとうアンドレア。お陰で勉強になったよ」
「いえいえ、役に立てたのなら幸いです。では報酬として一日つけまわらせて……」
「そんな約束はしとらん!」
俺が喰い気味に否定すると、彼は若干しょんぼりした表情をしていたが、すぐに立ち直って話しかけてきた。
「ところで、マルコさんが山の近くで作っているあれはなんですか?」
「あぁあれは登り窯という窯の一種だよ」
俺がそう言うと彼の目が知的好奇心で光ってきた。
「ではそちらを詳しくお聞かせください」
それから俺は夜になるまで彼に登り窯について知る限りの説明をさせられることになったのだった。
次の日、俺は村で唯一読み書きができるゴードンに相談をしに行った。
「村長、今日はどうしたんですか?」
「やぁゴードン、申し訳ないんだけど、調べ物をしに行ってもらえないかな?」
「調べ物ですか?」
俺の言葉に彼は首を傾げながら聞いて来た。
「うん、実は今度特産品として漬物を売る予定なんだけど、この辺りでは野菜や塩の値段が分からなくて値段がつけられないんだ。そこで君に周辺の村や街を回ってどれくらいの価格か調べて欲しいんだけど良いかな?」
「う~んなるほど、確かにそれは必要かもしれませんね。ですが、うちの畑はその間どうなるのですか?」
ゴードンは読み書きが出来るが農家なので、麦などの世話をしなければならない。
「そこは安心してくれ、俺やアンドレアで君の畑の世話はするから」
俺の提案にゴードンは少し考えていたが、提案を了承してくれた。
「わかりました。そう言う事なら行かせて頂きます。どこを調べたら良いんでしょうか?」
そう言われて俺は持ってきた地図をみせながら説明を始めた。
「まず、ソルトシティでは野菜の値段を、それこから道伝いにアル村、カノ村と5つの村を廻ってきて塩の値段も聞いてきてほしい」
「ソルトシティでは塩の値段は良いのですか?」
ソルトシティとは、岩塩の採掘で大きくなった街の名前だ。
塩の売り上げで出来た街だからソルトシティという安直な名前だが、大抵の名前はそんなものだ。
「あそこで塩が安いのは分かっているから別に構わない。それよりも周辺の村での野菜と塩の値段を付けてきてくれ」
「わかりました。では準備して明日出発します」
そう言うとゴードンは俺から旅費と木の板を受け取って家に帰っていった。
さて、これでゴードンが帰ってきたら漬物の値段の設定など売り出す準備をしなければいけないな。
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