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ロイドの過去(上)

マルボルク伯(ロイド父)とワルター視点でお楽しみください。

 首都サントス奪還から早1ヶ月、どうにか2方面軍を編成する事ができるだけの兵力が整った。

 そんな事もあり、ウィンザー国から借りていた鉄砲隊なる部隊を帰す事になり、今後の戦について話し合う為、私は王に招集された。


「さて、私は明日から遠征に行ってこようと思う。そこでマルボルク伯、卿に首都防衛と留守中の国務の一切を任せようと思う」

「はっ! 身命をもって王命に服します。……ただ、王よ。遠征とはどこぞのピクニックではないのです。あまり軽々しい調子で言うものではありませんぞ」

「ハハハ、すまんな。ある程度兵力もできた事で少し余裕が生まれてきたのかもしれん。まぁ、油断にならないよう卿の言葉を肝に銘じておくとしよう」

「そう言って頂けると、幸いです。くれぐれもお気をつけて」


 王はそう言うと、隻眼をぎらつかせながら笑っていた。

 まるでかつての国王陛下を思わせる様子に頼もしく思うばかりである。

 まぁ、相変わらず女性好きは変わらないので、そこら辺で美女を見つけては連れ込んでいるようだが。

 

「ところで、マルボルク伯。ロイドには会わないのか? 何だったら2週間くらい留守にする時間を作ってやるが?」


 それは突然の申し出だった。

 確かに無事であった息子には会いたい。

 だが、向うは一国の主であり、記憶も失っている。

 以前、ボリスが「いつか一緒に酒を」と言っていたと言われたが、正直どうして良いのか私自身まだ分かっていないのだ。


「……いえ、それよりも今はこの首都防衛と人心を安定させるのが先決です。それもまた遠征をされるというのであれば、尚更」

「うむ、確かに今では無いか……。いや、すまんかった。また折りを見てこの話はしよう」

「はっ! 卑小なる我が身にありがたき言葉です」


 王は、そう言って自身の国務と軍の編成に取り掛かり始めたので私は退室した。

 

「……ロイドか」


 そう呟きながら、私は廊下の窓から丁度見える大聖堂を見た。

 確か、あの子が10歳になる年に王子と合わせるためにここに連れて来たのが最初だった。

 あの時は、大人しく真面目で、何よりも学者以上の頭脳を有していたので、将来を嘱望されていたのを覚えている。

 


数年前 大聖堂


「父さま、これから私は……」

「うむ、ロイド。お前にはワルター王子の付き人となってもらおうと思っておる」


 私がそう言うと、ロイドは本をギュッと抱きしめ頷いた。


「……わかりました。王子をしっかりとお守りいたします」

「そうか、そう言ってくれると儂としても安心できる。無いとは思うが、くれぐれも粗相のないようにな」

「はい」


 そんな事を話していると、王家ゆかりの装束を肩まではだけさせ、顔には化粧、体からは香水の匂いが漂ってきていた。

 彼は良く言って〝活発〟、悪く言うと〝粗忽もの〟という話だったが……。

 まさかあそこまで酷いとは想像していなかった。


「おう! お前が私の付き人のロイドか? ふ~ん」


 王子はそういうや否や、ロイドを値踏みする様にジロジロと見始めた。

 ロイドは王子に値踏みされている間もジッと見つめ続けていた。

 暫くそうしていると、王子は大きくため息を吐いて私の方に目を向けてきた。


「マルボルク伯、卿の息子。確か私と同い年だったはずだな?」

「え、えぇ。その通りです。若様」


 そう応えると彼は「ふーん」と既に興味無さそうな反応を見せる。


「ま、父王の言いつけでもある。ロイド、だったな? まぁ精々頑張ってくれ」


 王子はそう言うと、ロイドを置いてスタスタと歩いて行ってしまった。


「と、父さま。あれが王子で間違いないのでしょうか?」

「う、うむ。私も王城には出入りしているが、王子の姿は初めて見るからな……」


 王宮に出入りしているとは言え、私が居るのは政庁。

 対して王子が居るのは、王城の奥深く。

 基本的に幼い王子と会う機会はほとんどないのだ。


 その日からロイドは、毎日王子の付き人として過ごした。

 ある日は、王城を抜け出し川へ魚を捕りに。

 またある日は、王都の町娘に言い寄る為に護衛を撒く手伝いをさせられ。

 またまたある日には、遠乗りをしに馬に乗せられて国境まで。

 そして、今日は……。


「な! 街の変な魔術師を見に行っただと!?」

「はっ! 王子様がロイド様を連れて行ったと護衛が言っておりました」


 まったく! あの王子は一体何を考えているんだ!?

 仮にも自分の従兄弟をそんな怪しげな者の所へ連れて行くだなんて!


「で? しっかりと監視はできているんだろうな?」


 私がそう言うと、報告に来た兵はそっと目を逸らしてきた。


「おい、まさか……」

「……すみません。上手く出し抜かれてしまい……」


 そう言って彼が話したことをまとめると。

 一定の距離を保って追いかけていたのだが、人ごみに入った瞬間に脇道に逃げられ、しかもその後服まで着替えられたのでまったく追えなくなったそうだ。


 私はその報告を聞くや天を仰いでしまった。


「な、なんたることだ……」

「も、申し開きの仕様もございません!」


 そう言って彼は、私の目の前で平伏していた。

 ここで彼を叩き切っても意味は無い。

 だが、許してやるつもりもない。


「とりあえずお前のやる事は! 二人を探してきて確保することだ!」

「はっ! 直ちに!」


 彼はそう言うや否や飛ぶような勢いで出て行った。


「……ロイド、どうか無事でいてくれ」


 私はそう祈る事以外にできる事はなかった。

 それから数年後、私の懸念はもっとも最悪な形で現実のものとなった。

 


王都サントス郊外 ワルター


 さて、拙い事になった。

 私が誘って見に来た魔術師だが、どうも様子がおかしい。

 そして、そんな様子がおかしい魔術師となぜ一緒に居るかと言うと、深い訳がある。



 数時間前、私たちは魔術師を一目見ようと移動していた。


「王子、流れの魔術師とはどんな者でしょうな?」

「ハハハ、きっと小汚い恰好をした辛気臭い顔をした奴だろう」


 私がそう笑って言い放つと、少し後ろからボソボソと小さい声で分析する声が聞こえてきた。


「……なるほど、確かにその可能性は高いかも……」


 それを聞いた私は、ロイドの方を振り返ってジッと彼の顔を見た。

 私に見られている事に気が付いた彼は、少し驚いた様な表情をしてから私を見つめ返してきた。

 まったく、こんな反応可愛くない。

 たいていの奴は、私が見れば目を伏せたりジッと見ていると視線を外す。

 だけど、こいつだけは真直ぐ私の目を見続ける。

 まるで私の考えを見透かしているかのように。


「ロイド、何か言いたい事があるならハッキリと言え。そんな小さい声で辛気臭く言われても私たちには聞こえないぞ」

「え、あ、すみません」


 私が少し高圧的に言うと、やっと彼は私から視線を外して話し始めた。


「いえ、私が思うのは、この先の魔術師の容貌を予想していたのです」


 彼はそう言うとまた俺の方を見てきた。

 なんだ、こいつは私が合いの手入れないといけないのか?

 私はそんな事を思いながら、彼に対して嫌々合いの手を入れた。


「……で? お前が考える容貌は?」

「え、あ、はい。私が考えた容貌は、病的に痩せこけながらも目が何かしらの光を持っている者じゃないかと思ったんです」

「ほう、その光とは?」


 私がそう言うと、彼は少し考えてからまた口を開いた。


「……それは……」

「それは……」

「わかりません」


 その言葉を聞いた瞬間、周りに居た取り巻きも含めてずっこけてしまった。

 まったく、期待を持たせて「わからない」とはよく言えたものだ。


 そんな会話をしながら、私たちは魔術師が居ると言われている場所に来た。

 そこは、郊外の古びた教会である。

 真理の探究者たる魔術師が、真理とは真逆の神秘の場所に居る。

 なんとも滑稽な状況と言えるだろう。

 

「まぁ、そんな事はどうでも良いか……」


 私は1人そうごちると、扉を勢いよく開いて中へと入った。


「ここに魔術師は居るか!?」


 私がそう言うと、奥からスッと1人の男が出てきた。

 男は全身漆黒のローブに包まれ、頭から被っているフードで顔が見えないようになっていた。

 

「いかにもって感じだな……」


 私がそう言うと、周りに居た仲間が軽く頷いた。


「私たちは君と戦いに来たのではない。君に話を聞きに来たのだよ」


 私はそう言って、彼に対して敵意が無いと示す為、手を振って見せる。

 彼は少し警戒しつつも私の意図に気づいたのか、少しずつ寄ってきた。


「……話とは?」


 少し距離はあるものの、不思議とよく通る声で彼は私たちに話しかけてきた。

 まぁ、警戒心があるのは仕方ないだろう。

 会ってすぐの私たちを信用するなど、愚か者のする事だ。

 私たちは、彼に前報酬として用意していた食料の入った袋を投げて渡した。


「……これは?」

「まぁ、前報酬という奴だな。中には食料が入っている。だからお前の話を聞かせてくれ」


 彼は投げられたカバンの中身を確かめると、「フン」と鼻で笑ってから私たちの方を見てきた。


「で、何を聞きたいんだ?」

「おう、話が早くて助かるよ」


 それから私たちは魔術について色々と質問をした。

 魔術の上達のしかた、どうやったら強力な魔術を使えるのかなどたくさんの質問をした。


「で、人の性格を変える魔術はあるのか?」

「……まぁ、無い事はない。適正次第だがな」

「あるのか? お前はそれを使う事はできないのか?」


 私がそう言うと、彼はゆっくりと頷いてみせた。

 

「なんと! では、こいつの性格を変えられるか? 辛気臭くてかなわんのだ」

「……え? 王子それは……」


 私はそう言って、ロイドを前へと出した。

 普段ぶっきら棒なロイドが珍しく少し慌てている。

 そんな彼の様子が見たかった私は、悪戯が上手く行った事に内心気をよくしていた。

 そして、彼は私がロイドを差し出したのと同時に、スッと音もなく近づいてロイドの頭をがっしりと掴んだ。


「……なるほど、お前は」


 彼はそう言うと、ロイドの頭を掴んだままブツブツと何か言い出した。


「え? ちょ、ちょっとした冗談なんだ。ハハハ、もう良いぞ?」

「……世の中には冗談ですまない事もある。それを知る事だ」

「な!? やめろぉ!」


 私が叫んだ瞬間、彼は魔術を発動したのかロイドの体がガクッと崩れた。

 それと同時に、男はまたスッと影に消えるように居なくなり、声だけが響いた。


「ハハハハ! お前自身の迂闊さが招いたのだ。自分の馬鹿さ加減を呪うが良い」

「くそぉ! 出てこい! 叩き切ってやる!」


 だが、奴はそれっきり姿をみせなかった。

 私たちは、力なく倒れたロイドを担いで彼の屋敷へと運ぶのだった。

今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m


また次回分書けたらあげます。

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