表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/134

脱ニートです!父上!(下)

どうにか完結編です。二部構成で終われました。

 数日後、父上の所にアンドレアがロイド様を連れて来た。

 どうやら、一向に働かない父上の状況に危機感を抱いて相談したのだろう。

 

「お養父さん、良ければ3人で話でもしませんか?」

「話……ってロイド様! お願いします、貴族を貴族制度の復活を……」

「……はぁ、この国の成り立ちを貴方は知らなさすぎる。ここではなんですから少し場所を移して話しましょう」


 ロイド様の盛大なため息と、哀れみたっぷりの視線を受けながら父上は首を上下に振って着いて行った。

 正直、昔の威厳たっぷりの姿から今の姿は想像できない。

 もはや父上は、貴族ではなく乞食の様な状況だ。

 ただ、頭だけは悪くないはずなので、この話し合いで少しでも前を向いてくれることを祈るしかない。


 そう思いながら私が着いて行こうとすると、アンドレアとロイド様が黙って首を横に振ってきた。

 

「着いてくるな、とおっしゃられるので?」

「あぁ、今回ばかりは血縁の人間に聞かせたい話にもならんだろう。お父上の名誉の為と思って我慢してほしい」

「そうですよ、アニエス。男の矜持というのも少なからずあるでしょうから、お養父さんを信じて待っていてください」

「……わかりました。そうまで言われるのでしたらお待ちしております……」


 私がそう言うと、ロイド様とアンドレアはニッコリ笑って父上の背中を優しく押して行くのだった。



バー『花道』 ベルナンド・クラック


 ロイド様とアンドレア――いや婿殿か――に連れられて、私はバーへとやってきた。

 木造建築の建物に両開きの目隠し程度の扉。

 それを押して店内に入ると、そこは……。

 花畑だった。

 いや、綺麗だよ。綺麗なんだけど、花畑ってバーとしてどうなんだ?


 私が一抹の不安を抱いていると、ロイド様は店員に声をかけて奥の席へと案内された。

 そこは、完全個室で他からは一切見えない場所。

 私の事を考えてここまでしてくれたのか、それとも私はここで……。


「さて、とりあえずシラフでは聞けない話もあるでしょうから酒でも飲みましょう。ってベルナンドさんは既にお酒入ってますね」


 ロイド様はそう言って、私の方を見てきた。

 ここ最近の私は、何に対してもやる気が起きず、それを誤魔化すために必死になって酒を求めていた。

 軽蔑されて当たり前の状況なのだ。


「では、私は軽くビールにしましょうかね」

「そうだな。ベルナンドさんは何か飲みますか?」

「あ、いや、私は……」


 私は言い澱んでしまった。

 酒を飲むに値しないのに誘われ、一瞬嬉しくなった自分が嫌だったのだ。

 

「それじゃ、ビール三つと茹で豆1皿でよろしく」


 ロイド様は私のそんな気持ちも考えず、さっさと店員に注文をしてしまった。

 少しして、ビールと茹で豆が到着したのと同時に、ロイド様がガラスの器を持ち上げてきた。


「さ、乾杯と行きましょう。復興途中でまだ物資が少ないので贅沢できませんけど、これくらいなら大丈夫でしょう」

「えぇ、そうですね。ささお養父さんも持ってください」


 私は勧められるがままにそれを持ち上げると、2人が大きな声で「新しき仲間に乾杯!」と叫んで器に当ててきた。

 え? 新しい仲間?

 私が戸惑っていると、ロイド様はニッコリと笑いながらこちらを見てきた。


「ベルナンドさんの事ですよ。あれからクラック一族の方々の大半はアシュレイさんの所に帰りました。ですが、残っている方々は新しい生活をどうにかしようと必死にもがいています。そんな一生懸命な人たちを連れてきてくれた貴方は、俺は仲間だと思うんです」

「いや、しかし……、貴方は貴族を…………」

「えぇ、貴族は嫌いです。でもね、一生懸命働いている人たちは好きなんですよ。それが元貴族であろうとも。さて、ベルナンドさん。なぜこの国が貴族制度を辞めたかご存知ですか?」

「いえ、知りませんし、知ろうともしていません……」


 私が正直にそう言うと、彼はニッコリと笑ってきた。


「正直で良いですね。ではかいつまんで説明しましょう。実はこの国は元々農村でした。ここらの地域はドレストン男爵の領地で、彼によって搾取される土地でした……」


 聞いた事がある。

 その男爵に歯向かって撃退して、あまつさえハンニバルの若造さえも退けたと。

 エリシア王女と一緒に居る所は、私も何度も見た。

 そして、彼らに私たちが敗れたのも目の前で見ていたのだ。

 

「……そして、我々は自由と独立を勝ち取りました。そう言った歴史があったので、おいそれと貴族制度を作る事ができる国ではなくなったのですよ」

「……なぜ、貴族はそこまで嫌われてしまったのでしょう?」


 ロイド様の話を聞いて、私は素直に思った事を口にしてしまっていた。

 それを聞いたロイド様は、怒った様子もなくこう続けた。


「貴族が貴族足らんと努力していれば、嫌われなかったでしょう。ですが、貴族は傲慢になり、血によって優劣を決め、民衆を愚民と罵りました。それが、嫌われる所以です」


 ……それは、私そのものではないか。

 最初こそは父の背中を追いかけ、必死によき領主足らんと頑張っていたのに。


「そう言えば、クラック家の皆さんはどうして王弟派になられたのですか? 代々名門の出で、国王陛下の信頼も厚かったのに……」

「クラック家は、確かに王家の信頼厚い名門だった。だが、あやつが、国王が、キング・ハイデルベルクが我が娘をアニエスに呪術をかけて縛ったのが、そもそもの原因だ」


 そう、あれは今から6年前の事だった。

 当時ハイデルベルク国内でも1,2を争う名門としてクラック家の名前は轟いていた。

 だがそれは、同時にやっかみの種でもあったのだ。

 

 我がクラック家には代々、炎の魔術師が誕生する事が多かった。

 もちろん、才能のあるなしはあったが、そのお陰で王家から特別視されていたのも事実だ。

 クラック家の歴代当主には、多数の王家筆頭魔術師が居た。

 それは、初代から数えて10人は居ただろう。

 そして、その10人すら凌駕する実力者が誕生した。

 それがアニエスだ。


 アニエスの力は、父親である私でも恐ろしかった。

 生まれてすぐに蝋燭の火で遊び始め、4歳の頃にはほぼ自由自在に操っていた。

 そして、10歳の頃には誰にも負けぬ実力者となり、16歳の時の初陣では婿殿が知っての通り、恐ろしいまでの戦果を挙げた。

 父親の私ですらアニエスの存在は怖かった。

 彼女に対して私はあまりにも無力なのだから。

 もちろんそれは、キングにとっても、だ。

 彼は、私の娘に呪術をかけたのだ。

 それも私の目の前でだ。

 いくら恐れているとはいえ、私の娘に呪術をかけた。

 

 あぁ、君たちは知らないだろう、我がクラック家は王家に忠誠を誓うのと同時に、王家からは一切の干渉を受けない特権を有していたのだ。

 それをあいつは、キングは平然と破ったのだ。

 私はそれが許せなかった。

 そして、目の前で呪術をかけられる娘に対して何もできなかった事が!

 

 それから暫くして、国王と王弟が争い始めた。

 最初はどちらの味方にもなる気は無かったのだが、いつだったか忘れたがある日を境に私は王弟に与していた。

 もちろん気づいた時には驚いたさ。

 完全に国王に弓引く立場になっていたのだから。

 だがな、それと同時に私はひどく納得してしまっていた。

 あの国王に無意識のうちに反旗を翻していたのだと。

 自分はやはりあの国王が許せないのだと、そう思うと全てがしっくり来てしまったよ。


「それから先は、ロイド様もご存知の通りです」

「なるほど、それが王弟派に与した理由ですか……」

「えぇ、その時私は貴族としての矜持や努力なんかよりも、尊厳と血統と特権にしがみついたのかもしれません」


 そこまで話すと、ロイド様は少し深くため息を吐かれた。

 まるで私の、この自分勝手な話を心に落とす様に。

 そして、静かに目を開け、私を見据えて話し始めた。


「なるほど、良く分かりました。その辺りの話を加味した上で今度お仕事の話を持って来させて頂きます。良かったら一度ご経験になられてはどうでしょうか? これまで貴族としてやって来られた矜持も努力もきっと無駄にはなりませんよ。尊厳と血統と特権にしがみつきさえしなければ、ね」

「……ふ、ふふふ」

「ん? 何かおかしかったでしょうか?」

「あ、いえ、自分がおかしかったのですよ。言われてみればなぜそんなものにしがみついていたのでしょうね……。話したら少しですが、すっきりしました」

「えぇ、それは良かった」


 全くもって人生とはおかしい。

 息子程年の離れているロイド様に年下の子どもの様に諭されているのだ。

 それに、話して少し楽になれたのも確かだ。

 これまでは、自分が当主だからとか、貴族だからという自尊心だけで抱え込んでいたが、話してみるとなんとちっぽけな事か。

 矜持とこれまでの努力があればそれで良いではないか。



数日後 アニエス・クラック


 父上の表情が変わった。

 いや、元に戻ったと言うべきだろう。

 私や弟が幼い頃に見ていた、自身と自負と努力を体現した表情に。


 あの日の事は、アンドレアとロイド様は一切話してくれない。

 私が何度もアンドレアにせがんでも、彼は一言だけ「男同士の秘密です」とだけ言ってくるのだ。

 そして、2日後には父上の次の仕事が決まった。

 それは、教師である。


 父上は、確かに私と弟たちに字の読み書きや計算方法など、基礎的な事を教えてくれていた。

 もちろん厳しく、手加減なしでだ。

 幼少の頃は父上を恨みそうになるくらい厳しかったが、その分最後まで付き合ってくれる付き合いの良さもあった。

 大きくなるにつれ、父上が多忙なのも理解できるようになり、そんな中でも私たちにずっと付き合って教えてくれていたのだ。


 それを思えば、今は幼年の子ども達に字の読み書きを教えるくらいなんともないだろう。

 今では、アンドレアと2人で仲良く子ども達に読み書き計算と、魔術を教えている。


 最近変わった事と言えば、父上がアンドレアの事を「婿殿」と呼ぶようになったことくらいかな?

 まぁ、彼が重婚だと知った時の父上の怒りの表情も見ものだったけど。

 

 まだ、上手くいかない事もたくさんある。

 だけど、父上は少しずつ前を見て進み始めているし、国の再建も進み始めている。


 またいつか、一族の皆で集まれる日を夢見ながら。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m


辛い時は、身近な方に話すと良いです。居なきゃネットでw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ