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鷹さんの子育て記2

 その日の晩、俺は女王とルキウスの3人で食事をとっていた。

 多忙を極める女王もこの時間だけは大切にしており、ほぼ必ず一緒なのだ。

「ルキウス、爺や達に何か探す様に言ったそうですね」

「はい! 父上から許可を頂き、虎を飼いたいと言って探してもらっております!」

「と、虎?」

 ルキウスからのまさかの一言に王女が俺を睨んできた。

「あなた? ご説明をお願いできますか?」

「あ、いや、その多分ルキウスが言っているのは猫の事だと思う。虎柄の猫も世の中探せば居るやもしれんからな」

 俺は精一杯の誤魔化しをしたが……。

 ダメだ、疑っている。

 それに俺が猫と言った事でルキウスも俺の方を見て「何言ってんだ父さま!?」という顔になっている。

「そう、猫でしたら良いのです。ただ、もし虎などという猛獣を連れて来たら……。責任を取ってくださいね。あ・な・た?」

「は、はい。爺や達には気を付けるように言いつけます」

 結婚後、俺と彼女の上下関係はあまり改善していない。

 というか、これまで臣下として接してきた優しい部分が、身内になって無くなった気さえする。

 一応、旦那である俺の事を「あなた」とプライベートでは呼んでくれているが、今回のは本気で怖い。

 なにせ〝虎〟である。

 正直簡単に手に入るものでは無いだろうし、虎柄の猫も居るだろうと思うがさてはてどうなるか……。

 この後の閨での尋問が怖いものだ。



 そんなやり取りから数日後、爺やたちが最初の動物を持ってきた。

 持ってきたのは、虎柄の〝犬〟である。

「若様、珍しき動物がおりましたので、連れてまいりました。お気に召したなら買い上げてまいりますが、如何でしょうか?」

 爺やはそう言って、虎柄の犬を首輪と鎖でつないでいた。

 ん? 今買い上げるとか言ったな? って事は借りものなのか……。

 確かに無駄な金をかける余裕は無いが、だからと言って借りてくるのもなんだか貧乏くさい感じがしてしまう。

「まぁ、要らないものを買うよりマシか……」

 俺がそんな事を呟いていると、ルキウスは犬を間近で見るために駆けだしていた。

 彼は犬の周りをグルグルと廻り、やがて爺やに対して一言呟いた。

「爺、この犬を一度洗ってきてくれ」

「はっ、少々お待ちくだされ」

 爺やは犬を連れて出て行き、暫くすると慌てて戻ってきた。

「わ、若様! い、犬の毛が!」

 そう彼が叫びながら連れて来たのは、先程まで黄色と黒の縞模様だった黒い犬だ。

 もちろん、そんな犬をルキウスは求めていなかったので、即刻返された。

 返された時に分かったのだが、爺や達が虎柄の生き物を探しているという噂を聞きつけた奴が、黄色い塗料を飼い犬に塗りたくって渡してきたらしい。

「ほお、我が息子ながらしっかりと見ておるな」



 また数日後、今度は別の爺やが虎柄の生き物を連れて来た。

「これにありますは、虎でございます」

 そう言って爺やが檻に被せた布を取って見せてきたのは、虎である。

 ただし、普通の虎ではない。

 背中に蝙蝠の羽、尻尾に蛇、足は山羊……。

 これは確か〝キマイラ〟とかいう生き物じゃなかったか?

 俺がそんな事を疑問に思っていると、ルキウスは飛び出して檻の中の生き物をまじまじと見つめ、一言放った。

「魔物は無理だ」

 ごもっともである。

 俺としてもこれは討伐対象にせねばならない生き物だ。

 というかこれを商人が連れていたなら立派な犯罪である。

 後日、この魔物は殺処分されて販売していた商人もあえなく御用となった。

「以外にルキウスは常識家なのだろうか?」



 またまた数日後、今度は3人目の爺やが虎柄の生き物を連れて来た。

「恐らくと、これが虎でございましょう」

 彼が少し自信なさげに檻を指さすと、恐ろしい咆哮と共にまごう事無き虎が入ってきた。

 ただし、子どもの虎ではなく大人の虎である。

 流石に迫力があり過ぎたのか、ルキウスは俺の後ろに隠れてしまった。

「爺、せっかく探し出してくれたが、大人の虎は怖いようだから商人に返してきてやってくれ」

「……致し方ございませんな」

 爺やは少し肩を落としながら虎を返しに行った。

 その姿を見送りながら、背に隠れたルキウスに俺は話しかけた。

「なぜキマイラが大丈夫で、虎がダメなのだ?」

 俺の問いかけにルキウスは少し逡巡したような様子を見せてからゆっくりと答え始めた。

「キマイラは吼えませんでしたが、虎は俺を食おうと吼えておりました。それが怖くなってしまいました」

「……まぁ、そういう事なら仕方が無いな」

 吼えたからダメと言うのは良く分からんが、まぁ子どものいう事である。

 子どもなりの道理があるのであろう。




 またまたまた数日後、最初の爺やが虎柄の生き物を連れて来た。

「若様、こちらは子どもの虎でございます。如何でしょう?」

 彼がそう言って見せたのは、腕の中で眠っている子供の虎の様な生き物である。

 ルキウスは、その腕の中で眠っている虎を見て興味を持ったのか、近づいて触ったりしはじめた。

 そして、気に入ったのかその生き物を爺やから受け取り、俺に見せた。

「父上! 俺はこいつが気に入りました。こいつを買ってください」

「気に入ったなら良かろう。世話は自分で見るのだぞ?」

 俺が念押しすると、彼は元気に頷いて出て行った。

 〝優しく〟抱きしめながら。

 その様子を見ていた俺と爺やは、呆気にとられてしまった。

「なんだ、動物を与えずとも優しくできるではないか。なにやら俺が阿呆であった様な気がするの?」

「左様でございますな」

 俺の独り言に同じような思いであったのだろう、爺やは頷きながら同意してきたが、その直後に「ですが、」と彼は前置きを置いて話し続けた。

「恐らくですが若様は私たちに甘えていたのではないでしょうか?」

「甘えていた?」

「はい、私達なら何をしても怒らない、何も手加減は要らないと思っておいでだったのでしょう」

 なるほど、確かにそれなら納得がいく。

 俺も今は亡き親父や爺やには、全力で甘えていた時期があった。

 それを考えると、彼がこれまで全力を出していたのは、俺と爺やたちに甘えていたからなのかもしれない。

「ところで爺、あれは本当に虎か?」

「いえ、猫だと思いますぞ。虎とはもっと大きくて強いものでしょう?」

 確かにそうなのだが、なんとなく納得できない部分があるのが怖い所である。


 その日の夜。

 俺はそんな話を女王であるエリシアとした。

「……という訳でルキウスは、優しさも常識も賢さも身につけていると思うんだ」

「まぁ、そんなオチになりそうだと思いました」

「いやに冷静だな」

「そりゃ、ルキウスが誰かれ構わず暴力を振るう最低の男だとは思っていませんでしたからね」

 彼女はそう言うとニヤッと笑って見せた。

 全く、母親という奴はどうしてこうも息子を信じられるのだろう?

 時々俺とは別の種類の超人ではないかと思ってしまいそうになる。

「ところで、その虎の様な猫は本当に猫なんですか?」

「たぶん、猫だと思うが……」

 俺がそう言おうとした瞬間、遠くから大人の虎の遠吠えが聞こえた。

「……明日一応売ってくれた商人に確認を取るよ」

「えぇ、必ずそうしてください……」

 俺は、頭を抱えたいのを我慢しながら布団にもぐりこんだ。

 また、明日からもルキウスには悩まされそうだ。


一応完結です。

また後日思いついたら投稿するかもしれません。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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