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ハイデルベルク王国 ハンニバル・タラスコン


 帝国との戦が終わった。

 それは楽しい宴が終わったあとの様な何とも言えない寂しい感じだった。

 もちろん、平和になった事は俺にとっても国民にとっても良いのだが……。

 報奨がなぁ~。

 

「はぁ~、まさかこんな事になるとはな」


 俺が今日何度目かのため息をついていると、隣で立っていた騎士が話しかけてきた。


「一応、他の家臣の目もあるんだ。シャキッとしてくれよ〝国王様〟」


 そう言って俺をからかうように見ているのは、アスレイだ。

 彼とは王を通じて誼を結び、少し年の離れた戦友とも言うべき奴だ。

 そして、俺はというと。

 彼の言う通り国王となってしまった。

 と言っても、エリシア・ハイデルベルクの後ろで玉座に座っているだけのお飾りだが。


「なぁ~、これ俺は要らないよな? 要らないよな? 馬駆ってその辺走りたいんだけど……」


「ダメに決まってるだろ? 国王様・・・


 ぐぅ……、絶対にこいつ楽しんでいやがる。

 俺は今日何度目か分からない不貞腐れた顔をしながら、議会を眺めるのだった。



 あの戦争から10年以上経ち世界は変わった。

 いや、変わらざるを得なかったというべきだろう。

 鉄砲の出現は、それまでの防衛方法、施設建築方法を大きく変えた。

 特に城に近づかれる危険性と、城に籠っていても安全ではない事が証明され、各国は防衛施設の改築に余念がない。

 特に手本にされているのは、異質な建築物であるウィンザー城だろう。

 

 あの城の出現で、それまで平地に壁をドーーンと高く積み上げただけの施設から、山手に移動させ、堀をつくり始めたのだ。

 特に新築の城に関しては、あちこちで〝日本式城郭〟なる城の作り方が流行っている。

 ちなみにこの〝日本式城郭〟という名は、ロイドの命名したもので、各国ともにそれに倣っている。


「はぁ~あ、ロイドは良いよな~未だに気楽に外に出てるんだろ?」


「まぁ、あの国は防諜技術が発達したし、達人級の人材が大量に出たからな」


「あぁ~ハリスの坊やにメリアだっけ? あの子らはあの世代では別格の強さらしいな。一度手合わせしてみたいよ」


 ハリスは、要人警護に偵知、暗殺から武術系なら何でもござれのスペシャリスト。

 メリアは、武術だけでなく謀略にも秀でた文官から一軍の将になれそうなゼネラリスト。

 どちらもかつてあの国に所属したバリス、セバスと同等と言われている。


「セバスって言えば、俺が何度か戦場であったあの爺さんだろ? 多分俺が唯一何度も討ち漏らした奴だぞ。それと同等と言われているんだ。きっと楽しい戦いができるぞ!」


「……はぁ~。あのな、お前も腐っても王族になったんだ。軽々しく戦おうとするなよ」


「うぅ~、なりたくてなったんじゃない! 俺だって気ままに暮らしたかったけど、これ以上の報奨が無いからって……」


 そう、早期内戦終結を実現し、2度の帝国侵攻を阻止した俺は、それまでの功績も積もっていた事、戦争で暫く国庫が空になっているという事情、これ以上の昇叙が不可能な事もあって、エリシアの婿となって国王になる事になったのだ。

 まぁ、随分と昔にそんな話もあったのだが、何の事はない。

 元の鞘に収まってしまったという所だ。


「鞘も何もあった物じゃないと思うけどな……」


 俺達がそんな話をしていると、突然議会の扉が乱暴に開いた。

 全員が一斉にその扉に視線を送ると、豪華な衣装を着た5歳くらいの少年が立っていた。


「父上! 武術の稽古を所望します! いざ広場にもがぁっ――!」


「申し訳ありません! 申し訳ありません! さ、若様会議のお邪魔をせずこちらでお勉強を……」


「うぅぅ! 嫌じゃ! 俺は父上と武術の稽古がしたいんじゃ! 勉強などせん!」


 彼はそう大声で叫ぶと、嵐のようにすっ飛んでいき姿が見えなくなった。

 取り押さえに来た家庭教師の女も、困惑した表情をしながら議会に何度も頭を下げて出て行った。


「若様は相変わらずですな……。私の所は既に達観し始めておりますから、あの元気が半分ほど欲しいものです」


「あぁ、元気なら売る程あるよ。あいつは」


 先程の少年は俺とエリシアの子どもである。

 まぁ、どちらに似ても落ち着きが無くなるのは、わかり切っていたので、俺達は好きにさせている。

 好きにさせてはいるが、もちろんしめる所はしめている。

 

「まぁ、なんにせよあぁなったら、今日の勉強は無理だな。彼女が自信喪失しない事を祈ろう」


「そうですな。すでに今月2人目ですからな……」


 俺とアスレイは互いに見合わせてため息を吐くのだった。




 ハンニバル・タラスコンは、その姓を一生変えなかったという。

 一説には、彼自身が王族ではないという事を対外的にアピールし、政争の道具にならないようにする為と言われている。

 彼の類稀なる活躍は、未だに子ども達の――特に男の子の――憧れる英雄譚である。

 ただ、後世の歴史家からは「史上最も敵を殺した王」「戦争王」とも言われている。



ハイデルベルク王国 アドルフ


 戦争が終わり、主であるハンニバル様が国王になってしまわれた。

 その為、私も自動的に王国魔術師として返り咲く事になったのだが……。


「筆頭魔術師! ここはどうすればコントロールできるのでしょうか!?」


「それは修練あるのみだ」


「筆頭魔術師! また若様が来ております!」


「移動魔術で遊んで差し上げろ」


「筆頭魔術師! 国王様が……」


「追い返……っ! 失礼しました!」


「励んでいる様で何よりだ。すまんなアドルフ、人材が足りないのでもう少し頑張ってくれ」


「いえ、滅相もない。まぁ、忙しすぎて目が回りそうですがな」


 私はそう言って、彼に笑いかけると彼も優しい顔で応えてくれた。

 あの戦争で私はアニエスと一緒に戦い、敵軍を混乱させニャスビィシュ将軍に継ぐ第二の功績をあげた。

 ただ、その報奨の一つが筆頭魔術師という地位だったのだ。

 最初は断ろうかと思っていたのだが、何だかんだ長く使えていたのでハンニバル様に情が湧いてしまったのだろう。

 彼の誠心誠意のお願いに首を縦に振ってしまったのだ。

 そのお陰でこれである。

 先の3度の戦争で人的資源が枯渇し、筆頭魔術師であるアニエスはウィンザー国に亡命という名の移籍。

 アンドレアは王族嫌い。

 その他私と同じくらいの実力者は、国に仕えるよりもフリーランスの方が稼げるので敬遠する。

 と、色々な事情が重なって、筆頭魔術師をできるほどの人材が私くらいしか居なかったのだ。


 だが、ここまで魔術師の人材が枯渇しているとは思わなかった。

 今現在我が国では、早急に魔術師を育てる為に魔術学校を設立している。

 用地を買収し、建物も建て、後は開校を待つばかりなのだが、如何せん講師が足りない。

 主たる理由は、ウィンザー国である。

 彼の国は、以前から学校を設立し、将来ある若者を育ててきた。

 そして、特に魔術学校の設立が早く、弟子を育てるのに熱心な者が講師としてそちらに集まってしまったのだ。


「もう少しというのは、何か目処が経ったのでしょうか?」


「あぁ、やっと講師になってくれる者が出てきてな」


「ほぅ、どこの者です?」


「ウィンザー国の者だ」


「…………本気ですか?」


「うむ、致し方なかろう。誰も居ないのだから」


 恐らく国王同士の太いパイプから話を通したのだろう。

 ゴリ押しというパイプの通し方で。


「よくもまぁ、ロイド王も許可しましたね」


「いや、ロイドはすぐに首を縦に振ってくれたんだが、メリアとコーナーの2人が首を縦に振らなくてな、そのせいで苦労したよ」


「……、友好国と溝をつくる様な事はしないでくださいよ」


 私がジト目でそういうと、彼は驚いた様子で内政官にも言われたと言って大笑いしていた。

 うん、まぁ、ハンニバル様に政治は厳しいからな……。

 謀略までは得意なんだけど、政治力に直結してないのがなぁ~。


 私はそんな事を考えながら、書類に目を落とすのだった。



 アドルフは、その後もハンニバル国王とエリシア女王に仕え忠勤に励んでいた。

 その勤務年数は、約30年。

 彼が筆頭魔術師になったのが、40前後と言われているので、齢70まで働いていたことになる。

 彼は生前多くの魔術師に己の技を授け、魔術師たちにとってあこがれの存在として今なお輝いている。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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