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ウィンザー国 コーナー・グリプスホルム
帝国を撃退した翌日。
街はとんでもない状態になっていた。
「な、な、なんですかこれは!? 滅茶苦茶じゃないですか!?」
「コーナー戦争をしてたんだ。200人の被害ですんだだけマシだと思ってくれ。街は今後、ハイデルベルク国とワルターがニュールンベルク王国を復活させて報奨金とか払ってくれる約束だから、な?」
「それ一体いつの話ですか!? ハイデルベルクは前回の戦いで少なくとも5000人は死んでいるはずですよ? そこに今回の戦ですよ? どこにそんな金があるんですか!?」
私の頭の中には、今後の復興への道筋を立てるのと同時にどうやって他国から補償金という名の賠償を得ようかと算段していた。
ただ、どうあがいても賠償金が入るまでに真っ赤な数字がいっぱいになるのが予想されていた。
「それにここの住宅街! せっかく新築したのにすでに崩れているってどういうことですか!?」
私が指さしたのは、まるで何かの部品が抜けて崩れたかのような家だ。
家の下には、敵兵の死体もあったりと結構散々な状況となっている。
「あぁ、そりゃ〝抜いた〟からな部品を」
ロイド様は何を言っているんでしょう?
抜いた? 崩れたとか崩されたじゃなくて、〝抜いた〟と言ったのか?
「抜いたってどういう意味ですか?」
「え? 家の設計図渡した時に言っただろ? 非常時には〝これ〟を抜くと皆を守れるって」
彼がそう言って手に持っているのは、複数の木の杭だ。
確かあの杭は、家の土台部分の木の格子についていたものだ。
「まさか……、最初から崩す目的で作ったのですか!?」
「あぁ、そうなるな。代わりにこの家は、一瞬で建てられるから戦後復興が早くなるぞ」
いや、まぁ確かに戦後の問題となるのは食住である。
特に住居は早く復興すればするほど、人々に活気を与え、復興意欲をかき立てる。
「それにほら、あっちみてみろ」
そう言われて私が見た先には、すでに倒れた家の柱を一斉に起こして杭を入れ始めた姿だ。
多少壁や天井の板が穴あきになっているが、住もうと思えば既に住める状態である。
「いやいやいや! 早すぎるでしょ!? そんな簡単で良いんですか!?」
「今は、これで良いんだよ。自分だけの空間があるというのは、案外気持ちが楽になれるんだ」
全く聞いた事もない話ではあるが、ロイド様が言うのであればそれが正しいのであろう。
いやしかし! 疑う心も忘れてはならないのではないか? コーナー!?
などと自分に言い聞かせていると、ロイド様はとんでもない事を言ってきた。
「あ、あとコーナー。帝国がきれいさっぱり切り倒していった前の道の広場だが、開発はお前に任すからよろしくな」
「え゛!? あそこここよりも広い土地ですよ!? それを私一人の裁量に任せて頂けるのですか?」
「そりゃ、あそこが潤わないと意味ないだろ? 畑でも市場でもなんでも良いから作ってみろ。そこが成功したら、城の裏の開発も本格化するからな」
あぁ~、まるで夢のようです。
こんな、こんな鬼のようなご褒美があるなんて!
それからの私は、鬼のような形相で働いていたと後になって言われました。
まぁ、その甲斐あって、城の裏と表の広場の開発に成功したのですから。
コーナー・グリプスホルムは、ウィンザー国における最大級の功労者と言っていいだろう。
戦後あちこち荒らされた街を3年で回復させ、5年で開発を再開できる状態にし、10年で国家財政の基盤を作り上げたのだ。
その功績は、戦時勇戦したバリス、セバス(爺や)と並べて何ら遜色ないものである。
彼は、この後〝内政の父〟とあがめられた。
ニュールンベルク王国 ボリス
我が教え子でもあるワルター様が戴冠の儀を終えられた。
冠を手渡す役は、これまでのしきたりでは国王か女王のどちらかだったが、今回の戦争でお二人とも亡くなられた。
その為、急遽代役として血縁関係のある者が選ばれた。
「……何度目か分かりませんが。対外的にこれは、どうなのでしょう?」
「ん? 問題あるまい。一応ロイドは私の従兄弟なのだから」
「……いや、ワルター君がそう思っていても他の人がそう思わないぞ? 特に俺はこれでも一国の主なんだから、こんなことをしたら俺がお前より上になってしまう」
そう、ロイドである。
彼もまた私の教え子であり、先代国王の姉君の息子である。
一応は王族なので戴冠の儀の例外として認められているが、正直対外的にはあまり良くない。
戴冠の儀で冠を授けるのは、基本的に上位者である。
それが他国の国王であれば、我が国はその国の属国であると対外的に喧伝していることになる。
「私は蜜月っぷりを他の国に知らしめる好機だと思うが?」
「いや、まぁ、俺としてはそれでも良いのだが……」
「私は最後まで反対しました!」
意味ありげな視線を投げてきたロイドに私は冷たく言い放った。
正直妹君など、相手はそれなりに居ました。
ですが、確かにウィンザー国と蜜月関係をアピールするのもこれからの我が国にとっては必要な事と、妹君などを出してしまうと政治的不安の種を育てる原因になりかねなかった事。
その板挟みの中で、まだ利の方が多いと思ったのでロイドに任せたのです。
まぁ、新政権内からは不満の声が聞こえましたし、それを今回だけと特例で認めさせたり、何かしらの恩恵をチラつかせたりしながらしましたけど。
と、少し不満な心の声が溢れてしまいそうだった。
「では、ボリス。戴冠の儀に行ってくるぞ」
彼は私に満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。
その笑顔を見た瞬間、なんででしょうね。
どうにかなる気がしてしまいましたよ。
ボリスは、この後王の補佐役としての才を存分に発揮した。
特に作戦立案には必ず彼の策があり、ほとんどの策が採用された事から重用ぶりがうかがえる。
また、彼が生きている間に帝国からの再侵攻はなく、彼が死んでから領土争いが激化したことからも、彼の有能ぶりはうかがい知れる。
ただ、たまにトマトを投げ合う祭りを提案したり、大量の王の銅像をつくろうとするなど奇行の面でも群を抜いていたと言われている。
今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m




