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エピローグは、個人の視点での直近と3人称の話となっています。

ニュールンベルク国 サントス  ワルター王


 ロイドが帝国を退けてから2年後、ついに首都サントスの奪還に成功した。

 いくら帝国が分断されたとはいえ、これまでの道のりは消して楽ではなかった。

 まず、戦力が2,500名程度しか居らず、それだけの兵で攻略できる地点を順番に攻略した。

 最初こそ、ロイドからの支援を受けて鉄砲隊を少し借りていたが、ある程度の城を落としてからは、自力でしなければ意味が無いと考えて援軍を帰した。


「まぁ、その心意気は素晴らしかったのですがね……」


「ボリス、それ以上言うな。私だってあの判断を何度後悔したことか」


 私とボリスはお互いに見合わせため息を吐いた。

 鉄砲隊が居た時は、敵兵が鉄砲の音を聞くだけで降伏したと言っても過言でないくらいすぐに戦が終わっていた。

 だが、鉄砲隊が居なくなってからの攻城戦は、毎回死力の限りを尽くした戦いになってしまったのだ。

 その為、ニュールンベルクの半ばに位置する首都サントスを奪還するのに2年の月日がかかった。


「とりあえず、鉄砲は偉大ですな。今後の我が国の兵器開発は鉄砲開発を中心に行いましょう」


「あぁ、それについて異論はない。だが、鉄砲ができたとしても暫くはロイドに頼らないといけないな」


 鉄砲自体はそこまで複雑な形をしていなかったので、見よう見まねで作れるだろう。

 しかし、問題は火薬である。

 ロイドはこれだけは頑として作り方を見せようとしなかった。

 作る為の材料も暗号を使っているのか、重要な部分が分からないのだ。


「しかし、糞と硫黄と炭というのはどういう意味だろうな?」


「硫黄と炭はわかるのですが、糞は湿ったものですからね。干乾びさしてから使うのでしょうか?」


「ん~、だがそんな臭いにおいはしなかったがな」


 二人でひとしきり唸ったあと、結論が出ないと思い別の話題に入った。


「ところで、首都機能についてだが追々で構わないので防衛面での見直しを頼めるか?」


「堀や土塁での防衛施設の増設ですね。確かにあの城は恐ろしい程頑丈でした。吸収できるところは吸収しましょう」


 こういう時ボリスは頼りになる。

 彼は知識を得ればそれを応用する事が上手いのだ。

 きっと防衛施設もロイドの度肝を抜く素晴らしいものを作ってくれるだろう。


「では、差し当たって鉄を大量に輸入しましょう」


「……お前は一体何をつくる気だ?」


 まぁ、たまに暴走しておかしな方向に行くのが玉に瑕ではあるが。



 ニュールンベルク王国は、この後数年間帝国との間で領地奪還戦争を繰り広げる事になった。

 どの戦争も激しくも厳しいものであったが、ニュールンベルク王国は元の領地をほぼ取返したのだった。

 そして、その戦争では常に先頭に左目に大きな傷跡を持った王が立っていた。

 後の歴史家はその姿からワルター王を「隻眼の復古王」と渾名したと言われている。

 また、色恋沙汰の伝承も多い事から一部の研究科からは「夜の隻眼王」とも渾名されたのは、数世紀後の話である。




ハイデルベルク王国 ニャスビィシュ


 ハイデルベルクに無事戻ってきた俺は、女王様からお褒めの言葉を頂く事となった。


「アスレイ伯、卿の活躍は一際大きかった。ここに報奨を用意した好きに持っていくが良かろう」


 彼女がそう言って用意したというものの目録を読んで驚いた。

 国庫が苦しい中、多額の金銭に国有地の下賜、名工の作った武器防具に駿馬。

 そのどれもが私の物だと言うのだ。


「……ありがたきお言葉感謝します。なれど金銭は荒れた国土の復旧費にお使いください。私は、武人として武器防具と駿馬、そして提示して頂いた自領に近い領地から半分ほどで十分です」


「……卿は欲の少ない奴じゃの。では褒美を別の形で追加してやろう。卿の望みを一つ叶えてやろう」


 これだけの褒美でも俺自身は十分だが、ここで言わなければ女王様の面子を潰してしまう。

 そう思った俺は、彼女の顔を見ながら一言。

 心の底からの願いを伝えた。


「私が望むのは、意味のある戦場です。意味のない戦場をお創りにならないで頂ければそれに勝る望みなどありません」


「……全く、忠臣とはかくあるものと手本のようなだな。卿の言葉しっかと受け止めた。今後卿を使う事が無い様に私は努力する事を誓おう」


「お聞き入れ頂き恐悦至極にございます」


 こうして、俺の女王との会談は終了した。

 女王陛下から頂いた領地は比較的内戦の爪痕も薄い場所で、尚且つ今回の戦争から離れた場所だった。

 その為、飛び地だが統治にそれほど苦労をしなくて済みそうだ。


「まぁ、難を言うならクラック家が入っている事かな……。かの家には彼女の所在を伝えておくか……」


 俺は、その日のうちに手紙をしたため、クラック家に届けさせた。


 手紙の内容は、以下の通りである。

1、今後クラック家は、ニャスビィシュ家の家臣となる事。

2、クラック家令嬢のアニエスがウィンザー国に居る事。

3、望むものはニャスビィシュ家を辞退しても構わない事。

4、出て行く際に申し出て来た者には、路銀を渡してウィンザー国に紹介状も書いてやる事。

 以上の4点を書いて送ったところ、クラック家からは歴代仕えてきた家宰とクラック家の父、母、長男が出て行き、ハイデルベルクでの御家存続の為に次男が家督を継ぐそうだ。

 ちなみに、出て行く3人は元王弟派だった。

 まぁ所謂裏切り組であり、かなり肩身が狭いらしい。

 次男に関してはまだ幼く6歳になった所との事で、メイド長が世話をするそうだ。

 流石に親の都合で継がされる次男に関しては可哀想としか言いようが無いので、暫く俺が後見を務め、政務は代理の者を派遣して行わせる予定である。


「さて、これで後処理は完了したかな?」

 

 俺はやっと書類の山から解放されたので、久しぶりに訓練の為大剣を担いで庭に出た。

 この大剣も当初名前のないただの剣だったのだが、今では「皇帝殺し(エンペラーキラー)」などと大層な名前をつけられてしまっている。

 ちなみに、俺自身も救国の英雄だの聖騎士の鑑だのと言われている。

 いつの間にか聖人君子に叙されてしまいそうな勢いで、俺としては迷惑に思い始めてもいる。


「まぁ、後はなる様になるか……」


 俺はそう思いながら1人空を見上げるのだった。



 アスレイ・ニャスビィシュはこの後、大過なく過ごすことになる。

 クラック家の次男はアスレイに家族同然に育てられたこともあり、この後ニャスビィシュ家が断絶するまで歴代の忠臣として名を残すことになる。

 


エピローグはまだ続きます。


最後までご後援よろしくお願いします。m(__)m

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