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6-18

ハイデルベルク軍 アニエス


 帝国軍の本軍に突撃して1時間、いくら土砂降りの中とはいえ、私の攻撃が効かなさ過ぎる。

 さっきから何度も魔術を発動しているのに全く敵が止まらないのだ。


「あぁ~、もう! なんで私の魔術があいつらに効かないのよ!?」


「アニエス、イライラしてはいけません。それに魔術が効きにくいと先に言ったじゃないですか」


「うぅ、そんな事言っても効かないにも程がありますよ」


 私はそう言いながら今日何度目かの炎魔術を展開している。

 本来なら、敵は消し炭になるはずなのだが。

 発動して敵を見ても、軽い火傷ですんでしまっている。


「いやはや、魔術を封じる石があるとは聞いていましたが、散りばめるだけでも対魔術防御力が飛躍的にあがるのですね」


「いやいやいや、先生冷静に分析してる場合じゃないよ。どうにかしないと囲まれちゃうわよ」


 私たちの軍勢はたかだか100名。

 それに対して相手は約3000名。

 しかもその大半――2000名――が近衛兵で、先程の石を散りばめた鎧を装備している。


「数的不利……ですね」


 ここまで無謀な突撃をした割に囲まれずにすんでいるのは、偏に私の的確な牽制魔術と先生が兵を動かす事に慣れているからだろう。

 だが、それでも数的不利が顕著な状況下であり、徐々に私は囲まれ始めている。


「手はずではそろそろ城でアンドレアが天気改変魔術を発動するはずでしょ?」


「えぇ、ですが何かトラブルがあったのかもしれませんね。狼煙も上がっていましたから」


 それは、手はずにない事だから十中八九何かトラブルが起こった証拠だろう。

 

「敵軍! なおも圧迫を強めてきています! 隊長ご指示を!」


「右翼は少し下がれ! 左翼は前進して右翼が逃げやすい状況を作れ!」


 敵軍の突出を見逃さず、左右の兵を少しずつずらしながら後退を続けている。

 しかし、先程まで皇帝の居た場所の近くで戦っていたが、すでに300m近く後退させられたのは、痛い。


 そんな事を思っていると、城の方から突然大きな光が一筋天にへと昇っていった。

 光は雲にへと吸い込まれていくと、次の瞬間。

 一気に周囲の雲を消し飛ばした。


「雲が消え、雨が止んだぞ! アニエス!」


「わかっているわよ! これが私の極大魔術! エクスプロージョン!」


 私は天気が回復した一瞬を逃さず、最大級の魔力を込めて敵の周囲を炎の渦で埋め尽くした。

 そう、炎の渦で敵を覆ったのだ。

 瞬間的に地面の草木は乾き、私の炎によって燃え始め、そして魔術で出した炎の後押しをし始めた。


「はっ! 我らに効かぬから周囲に炎を展開して自らを守るつもりか?」


「者ども、すぐさまこのほの……ガハァ! の、喉が……」


 鎧を着こんだ敵が喉を抑えて倒れ始めた。

 それを見た歩兵たちは恐れて逃げ出そうとしているが、鎧が無ければ炎の壁を突破する事ができない。

 そして、なによりも動き回れば肺が焼ける。


「いくら魔術を防ぐ鎧でも温度の上がった空気は痛いでしょ? そのままそこで中から灰になりなさい!」

 

 敵兵士たちは、最初は走り回るもの、飛び出す者が居たが徐々にのたうち回る者が増え、暫くすると誰一人動かなくなった。


 そして、私の出した炎は敵が全く動かなくなったのと同時に消滅した。


「……先生?」


「はい、よく頑張りましたね。暫く後方で休んでいてください」


 私は持てる魔力の全てを極大魔術に叩きこんだので、もう指一本動かせない。

 先生もそれをわかっているのか、兵士の一人に私を護衛させながら、後ろに下がらせた。




帝国軍 アレハンドロ皇帝


 余の目の前で信じられない光景が突然広がった。

 そう、ファイヤーストームである。


「い、いかん! 本軍はすぐさま離れるぞ!」


 余の命令と同時に動き出したものの、周囲に居た兵にも多少の被害が出てしまった。

 まさかこの状況下でファイヤーストームが出てくるとは、誰も思わないだろう。


 不幸中の幸いは、ファイヤーストームが魔術の産物であった事だ。

 本人の魔力が切れたのと同時に巨大な炎の渦は消えた。

 だが、後に残ったのは悲惨な光景である。


「報告します! 敵援軍に対峙していた約3千、ほぼ全滅いたしました!」


 その報告と同時に余は天を仰いでしまいそうになった。

 精兵2千が一気に消えたのだ。

 しかも、彼らの鎧は例の石を散りばめた特注品。

 それをもってしても防げない事がある事がわかった。


 そして、もっと悪い知らせが余の元に届いた。


「陛下! 後方より近づく一団があります!」


「敵か、味方か!?」


 余の問いかけに見張りの兵は目を細めてその一団を観察しながら報告してきた。


「……ッ! て、敵の一団です! ニュールンベルクの旗を掲げております! 数、およそ1千!」


「1千!? 迎撃態勢をとれ! 前軍からの援軍は!?」


「前軍は、我らの後退にまだ気づいておりません! 今援軍要請の早馬を出します!」


 ま、拙い。

 このままでは、余がやられてしまう。

 余がやられれば、帝国は再び近隣諸国に蹂躙される弱国になってしまいかねない。


 こんな所で、こんな所で死ねない!


「敵軍の中に厄介なのは居らんか!?」


「……あ、あれは……ニャスビィシュです! ハイデルベルクの双璧ニャスビィシュが居ます!」


「な……。ニャスビィシュだと? 奴は死んだはずではなかったのか!?」


 信じられない。

 確かに奴は我が軍の兵が、崖に落ちたのを確認したはず!

 このタイミングで、ニャスビィシュまで居る軍勢を相手にしなければならないだと!?

 天は我を見放したか!?


「前軍からの救援が来るまで耐えしのげ! ニャスビィシュには100人がかりで圧迫しろ! 他の兵は少しでも足を止めさせろ!」


 余は、そう命じると共に早馬が走り去るのを見送るのだった。


さぁ、最後です。


次回更新で6部終了の予定です。


そして、物語はエピローグへ。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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