6-15
ウィンザー国 アンドレア
敵は私の術によってどうにか無力化できたが、後ろに下がり始めた。
どうやら私を相手にするよりも、ワルター王子の相手をする方が良いという判断をしたようですね。
「だが、それは浅はかですね」
私は、そう言うのと同時に、指先から一筋の魔術を高速で射出した。
指から出た魔術は、敵兵に当たるのと同時に瞬く間に腕を斬り落としていく。
「ひっ! な、なにを出したんだ!?」
「お、おい! こいつの腕の周りに水がついているぞ!」
「馬鹿な!? 水で人が斬れるか! 石盾隊! すぐさま防御陣形を取れ!」
私が射出したのは、水魔術です。
普通の水魔術は、農耕用ですが、今回の術は超高圧です。
エレーナの発明の為に編み出した金剛石すら切れる魔術ですが、今回は軍事利用しましょうかね。
一瞬混乱したものの、流石によく鍛えられている。
すぐさま石の盾を構えて防御陣形をとりだした。
しかし、石の盾を背中に担いで崖を登りましたか……。
それはそれですごいですね。
ですが、私の前では意味がないですよ!
城から隙間を狙う事もあるのです。
この距離で盾の隙間を狙えないわけがありません!
「そこ!」
盾と盾のわずかな隙間に魔術を通すと、敵は更に縮こまって盾を密集させてきました。
ですが、盾は精々上半身を隠すのがやっと。
移動しようとしたら……。
「足元が、がら空きです!」
そう、足を守り続ける事はできませんからね。
何人かの敵兵の足を切断すると、敵は移動する危険を感じたのか、その場で動かなくなりました。
「さて、そろそろ用意はできましたか?」
私がそう言って振り返ると、先程まで剣で戦っていた兵士たちが、鉄砲を構えていました。
「えぇ、アンドレア様のお陰で準備万端です! 下がってください!」
彼の合図に従って、私が射線から外れると命令が下された。
「一斉射後、銃剣で突撃を行う! 構え! 放てぇ!」
激しい発射音と同時に石の盾を構えていた敵兵が一気に倒れ、陣形が崩れた。
その崩れた穴に向かって、銃剣突撃を開始した。
「近接戦闘開始! 敵を殺しつくせ!」
銃剣隊の隊長の叫びと同時に、敵兵への攻撃が開始された。
先程の銃撃で息のある兵を筆頭に、混乱している敵兵から順番に突き殺されていく。
ここまでの乱戦になってしまうと、私の役目はほぼ無い。
ここから先は、彼らのサポートくらいしかできないだろう。
「まぁ、できるサポートも少ないんですが、そこは気にしないでいきましょうかね」
そう思いながら、私は後ろから戦場を観測するのだった。
帝国軍 若手将校
俺は一体何を間違ったのだろう?
最初は後方から突けば敵は瓦解するものと考えていたし、皇帝陛下もそれに納得しておられた。
だが、現実はどうだ?
我らの方が包囲殲滅の憂き目にあっている。
しかも、悪魔の術を使う奴まで出てきたのだ。
「両翼から敵の圧力が強まっています! 左翼には悪魔の術を使う者も居てとてもでは無いですが、抜けません!」
「えぇい! なら右翼側への圧力をかけろ! 敵を少しでも、少しでも減らすんだ! 俺達に逃げ場はないんだ! 帝国の勝利の為に戦い続けろ!」
俺の言葉に兵達は、悲壮な顔で頷きそれぞれの方向を向いた。
まさかここまで敵が硬いとは、思っても見なかった。
確かにこれまで敵に何度も痛い目を見せられてきたが、それもこれも防衛施設と武器の力とばかり思っていたのだ。
だが、現実はどうだ?
農民交じりの敵に対して精鋭ばかりのこちらがジリ貧なのだ。
「左翼の敵から謎の攻撃を受けました! 水で人が斬れたとの報告が――」
「馬鹿な!? 水で人が斬れるか! 石盾隊! すぐさま防御陣形を取れ!」
私の命令がすぐさま伝わり、左翼では石の盾を使って敵の攻撃を防ぎ始めた。
流石に石の盾相手では、敵も攻撃できないのか被害報告が一旦止まった。
そう、〝一旦〟なのだ。
〝一旦〟が〝一瞬〟になったのは、私が一息ついて情報を頭で整理しようとした時だった。
「石盾隊の足元が狙われております! 敵の攻撃が止まりません!」
「えぇい! なら左翼の石盾隊は密集陣形を取れ!」
俺の命令を聞いた伝令は、驚いた表情をしていた。
それもそのはずだ。
密集陣形を取るという事は、動けないという事。
敵中で動けなくなるという事は、死とほぼ同義なのだ。
だが、ここで我ら全員が倒れてはならない。
しっかりと敵陣をかき回さねばならないのだ。
「左翼密集陣形を取りました!」
よし、これで一息――。
そう思ったのもつかの間、敵は次の一手をすぐに打ってきた。
それは、一瞬の砲火の音でわかってしまった。
「い、石盾隊……全滅です」
俺は、その報告を受けた瞬間天を仰いでしまいそうだった。
そう、これで作戦は完全に失敗したのだ。
逃げようにも逃げられない場所で、悪魔の術師に迫られる。
全滅の未来しかなかった。
だが、ただで全滅する訳にはいかない! 少しでも多くの敵を巻き添えにしなくてはならないのだ!
「全軍! 右翼に向かって玉砕覚悟で突っ込め! 後方の部隊は敵の魔術師を抑え――」
次の瞬間、俺の視線は真後ろに居るはずの兵の顔を逆さまに見るのだった。
ウィンザー国 ワルター
時間稼ぎを始めて暫くした頃、敵の動きが変わり始めた。
先程までは反対側に向かって移動していた敵が、こちらに向かい始めたのだ。
「……こちらに来るという事は、反対側に何かしらの問題があるのだろうか」
考えられるのは、2つ。
1つは、大量の兵が投入された可能性。
そうなると分厚い方を破るより薄い方に向かう方が良い。
だが、そんなに大量の兵を投入する余裕などどこにもないので、これはあり得ない。
もう1つは、敵にとって面倒な相手が出てきた可能性。
この場合は、こちらが弱いと思われているという事だ。
しかし、1人で戦況を変える可能性のある人物……、アンドレアか。
あいつなら一人で十分戦況を変えるだろう。
「敵はこちらに向かってくるぞ! 絶対に抜かせるな!」
私が活を入れたのと同時に、敵はこちらに方向転換して迫ってきた。
わかってはいたが、屈強な兵が集団でこちらに向かって襲い掛かってくるというのは、怖いものだ。
だが、そうも言っていられない。
敵以上にこちらも必死にならなければならない。
ここを抜かれれば、アンドレアの助力が無駄になってしまう。
奴に借りを作って、私の国に引き抜かねばならいのだから、ここで借りを作る訳にはいかないのだ。
「いいか!? 1人1殺で十分だ! 武術に自身がないなら2人がかりで1人を殺れ!」
「おぉぉ!」
私は、目の前に迫る敵兵に対して剣を突き立て、斬り捨てながら命令を下した。
その姿を見た元ニュールンベルク兵達は、私の周りに陣取って敵に相対し始めた。
「若が奮戦しているんだ! 負けてられぬぞ! 死んでも若を守れ!」
「そうだ! 戦場で若に後れを取るな! 若よりも敵を屠れなかった者は、末代までの恥だぞ!」
いや、確かに私は臆病だったが、その言われようは納得いかんぞ。
まぁ、皆が奮起してくれるならそれでいいのだが。
そんな事を思いながら敵が1人斬りかかってきたので、避け様に首を斬りさき。
また一人来たので、そいつの胸に剣を突き立てて殺した。
突き立てたのと同時に、また敵が来たので剣を引き抜こうとしたが……、抜けない!
下に目をやると、先程突き刺した兵が私の剣をがっちりと抱え込み、笑いながら死んでいる。
「畜生!」
私の目の前に迫る剣と同時に、爺やたち散っていった者たちとの記憶が駆け抜けた。
今回は間に合いました。
今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m