6-14
何度かの敵からの攻撃を退けた俺の元にとんでもない報告が舞い込んできた。
「ロイド様! て、敵が、敵が裏の崖を登って攻めてきました!」
「何!? あの崖を登っただと?」
確かに裏の崖は、切り立ってはいるものの動物が下りれないわけでは無い。
特に鹿などの四つ足動物が崖を伝って降りて行くのを何度か見ている。
だが、人が登れるかというと正直無理だと言える。
まず、足場がかなり狭くなっている事、手を置く場所がほとんどない事が理由だ。
「……まさか、本当に崖を登ってくるとは思わなかったな……」
一応俺の頭の中には崖を登ってくるという可能性が少しはあった。
だが、そんなものは100%中の1%程度の低いものだった。
だからこそ、強く言っていなかったのだが……。
「ワルター王子から伝言です! 〝こちらは頑張って耐えるので、至急援軍を両側に送って欲しい〟とのことです!」
「了解した! こちらも今落ち着いて――」
「敵襲! 敵襲!」
……最悪のタイミングだ。
恐らく城の裏手から何かしらの合図を送ったのだろう。
まさか城をつくった事で裏手の敵襲を察知しにくくするとは思っても見なかった。
「敵がこれまで以上の攻勢に出てきました!」
悲鳴にも似た報告が次々に入ってきている。
だが、それらに目を瞑る訳にもいかない。
「良いか! すぐさま反撃しろ! 敵はこちらの中の様子は見えていない! 敵に斉射しろ! 内部の敵にはアンドレアを送る! 城の後ろ側を壊しても良いから一気に殲滅してこい!」
「し、しかし、現状で私が抜けたらここは……」
アンドレアは俺に意見しようとしたが、グッと言葉を飲み込んだ。
そう、日は傾き始めている。
敵の目的は裏手と正面での二正面作戦。
こちらがどれだけ早く裏の敵を撃破するかで勝負は決まる。
「頼んだぞ、アンドレア。お前に全てがかかっている!」
「はい。ここはお任せします!」
俺は彼の走り去る後姿を見送るのと同時に敵の方へと向き直った。
敵は正面二方向から攻めてきている。
ここから先は、恐らく我慢比べになるだろう。
これまでの敵の攻勢は、恐らく目をこちらに向けるための擬態。
敵は竪堀を必死になって登ってきている。
もちろんこちらは、それを銃撃と砲撃で防ぐしかない。
「後ろはとった! 敵は混乱しているはずだ! 攻めろ!」
「走れ! 走れ! 走れ! 敵の弾を避けるつもりで走れ!」
敵からの怒号が戦場の音に交じって聞こえてくる。
だが、俺もそんな事を気にしている余裕などない。
「いいか! 敵兵は走るしかない! 大砲はとりあえず早く撃て! 鉄砲隊も同じだ!正面の敵を少しでも減らせるようにするんだ!」
敵は相変わらず竹束を持って動いていたが、こちらも黙ってそれを見過ごすつもりはない。
「魔術師隊! 敵の先頭を狙って風魔術を放て! 弓兵隊はできるだけ遠くの敵を狙うんだ!」
ただ、魔術師たちの疲労もそろそろピークを迎える。
だが、ここで抜かれては意味が無い。
ここが最後の踏ん張りどころなのだ。
魔術師たちが必死になって、敵の前衛に風魔術を放っていた。
そして、その都度敵の竹束がバラバラになって飛び散っているのが見える。
「今だ! 鉄砲隊斉射3連! 一気に打ち崩せ!」
叫ぶのと同時に敵に向かって銃弾が雨あられと降り注ぐ。
だが、流石に敵も慣れて来たのか、少しでも弾丸を逸らそうと鉄の盾を斜めに構えて対処し始め、効果が薄くなってきた。
まぁ、大砲は防げないから結局ミンチになるんだけど。
「アンドレア……早い目に決着をつけてくれよ」
ウィンザー国 アンドレア
私がワルター王子の援軍に行くと、戦況は思ったよりも悪かった。
大多数の敵がこちら側――ワルター王子の反対側――に集中しているからだ。
「拙いですね……。火は建物の中では使えないですし、同じ理由で雷も無理。ロイドさんは一応壊してでも早期決着をと言っているのですが……」
壊すのは簡単だが、修復しようと思うとかなりつらい。
特にコーナーが既に禿げるのではないかというくらい頭を掻きながら戦後の賠償費用を計算している。
まぁ、終わっても居ないのにすでに戦後の賠償を計算しているというのは、ロイドさんに相当信頼を置いているのだろう。
「さて、どうしましょうかね……」
一応対応策としては風魔術、水魔術がある。
だが、この二つも全く破壊しないわけでは無いのだ。
「……そう言えば、以前ロイドさんが〝原子〟とかなんとか言っていましたね……」
確かあれは……、私たちが息をしているものの中に酸素とかいうのや他にも色々とあると聞いた事があります。
それを抜けたら……、敵はどうなるのでしょう?
「あ、アンドレア様?」
おっと、笑みがこぼれているのを隣の兵に見られてしまいました。
まぁ良いでしょう。
初めての実験とは、どんな歳になってもワクワクするものです。
「兵達に通達を、これから30数えたら息を止めながら下がる様に、言ってください」
「息を止めながらですか?」
私の言葉に首を傾げながらも隣に居た兵は、前衛として戦っている者たちに通達した。
もちろん兵達もにわかには信じられないだろうが、そこは仕方ない。
確かロイドさんの話では、一瞬なら大丈夫なはずなのだから。
私は、魔術式を考え即興で魔術を完成させた。
その名も〝空気魔術〟である。
「……2、1。開始!」
「全軍徐々に後退しろ!」
私が術を発動させると同時には何も起こらなかった。
敵兵が訝しみながら徐々に前に出てくる。
効果は、まだ表れない。
そして、後続の部隊とぶつかり、逃げ道が無くなり始めた頃、敵の兵士がバタバタと倒れ始め、動かなくなった。
だが、死んでいる訳では無い。
気絶しているだけなのだ。
なぜ彼らが気絶したのかというと、高圧力の酸素だけを吸っていたからだ。
空気中には、リンや二酸化炭素とかいう物質など、目に見えないものが沢山あるそうだ。
そして、その見えないものの中で、酸素だけを周りに集めて圧力をかけ、一定の時間が経過すると。
先程の様に人が倒れるのだ。
ロイドさんの話では、〝酸素中毒〟というらしい。
「いまだ! 気絶した敵から順に止めをさせ!」
先程まで隣にいた兵が後方から命令していた。
前衛が崩された敵は、その後慎重になり私が近づくと同じ距離を保って下がり始めた。
「……初見殺しでしかないですか」
だが、10人は潰せた。
後どれくらい残っているのかは知らないが、早く決着をつけねばなるまい。
先日はすみませんでした。
また、飛び飛びでお休み頂くかもしれません。
気長にお待ち頂ければ幸いです。
今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m




