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6-13

 敵の配置は、二方向からの攻勢を行なう様だ。

 ただ、三方の内の二方向なので、恐らく窮鼠にならないようにしたのだろう。

 〝囲む師は必ず欠く〟というやつだ。

 だが、残念ながらそれは士気の低い兵が逃亡しやすいようにする為の方法で、士気の高い兵達を倒すための方法ではない。

 しかし、気にはなる。

 

「……用心すべきか、放置すべきか」


 こんな時、爺さんやバリスが居れば相談できたのだが、現在生き残っているメンバーで話せる奴がアンドレアくらいしかいない。

 そのアンドレアも各所の準備段階をチェックしに回っているので、1人で悶々と悩んでいる。

 そんな悩んでいる俺に後ろから話しかけてきた人物が居た。


「そこは、裏手も含めて少数の兵を配置しておくべきじゃないか?」


 ワルターである。

 彼は爺さんの死をこの城で聞いてから暫く離れていたが、やっと心の整理がついたのだろう。

 以前の放蕩息子という印象よりも、しっかりとした王子といった顔つきになっていた。


「やはりそう思うか? ただ、数を決めかねていてな。即応出来て尚且つ主力に抜かれない」


「なら、私が200の兵で見張ろう」


 意外な申し出に俺は少しの間、思考が停止してしまっていた。


「……え? ワルター、お前が行ってくれるのか? だが、何があるか分からないぞ? それに助けに行けるかどうかもわからない。それでも良いのか?」


 俺が念を押すと、彼は黙って頷いた。

 爺さんが死んで自暴自棄になっているのかと思って、近くに居る様に頼んだ兵の方を見ると、彼らも頷いていた。

 

「……何かあったら、必ず知らせてくれ。俺はお前まで殺したくないからな」


「あぁ、元より私はニュールンベルクに帰るつもりだし、爺やの為にも生き抜かねばならない。だから死ぬつもりなんて毛頭ない」


 刮目して相待つとはよく言ったものだろう。

 ワルターの中に在った甘えや中途半端な部分が無くなり、責任感と厳しさの感じられる表情だ。


「わかった。ワルターに裏手の守備を任せる。あと、無いとは思うが崖下の警戒も行っておいてくれ」


「あぁ、任せてくれ」


 俺は、大急ぎでワルター率いる別動隊を編成した。

 数はおよそ200名。

 ニュールンベルク兵を100名と農民兵100名の編成だ。


 その編成が終わった直後、敵が動き出した。


「敵軍進軍開始! 竪堀を登って来ます!」


「全鉄砲隊を2段構えにしろ! 発射用意! 撃て!」


 敵の先鋒隊は、数の少ない竹束を効果的に配置してこちらの攻撃を避けていた。

 もちろんこちらもただ避けられているばかりではない。

 城の前に造られた竪堀は、坂と平らになっている部分が交互に組み合わさっており、平らになった瞬間に発射すると、竹束の後ろに居た兵達がバタバタと倒れる。

 

「犠牲に構うな! 走れ! 敵の懐に入れば終わりだ!」


 敵軍の指揮官の怒号がこちらまで聞こえてくるが、関係ない。


「砲撃用意! 放て!」


 ある程度近づいてきた敵をこちらの大砲で一斉に吹き飛ばす。

 大砲が発射されると、竹束も吹き飛んだ。

 身を守る物が無くなった敵兵は、後退を始めた。


「あっさりと退いていきますね」


「あぁ、ここまで力押しをしてきただけに気味が悪いな……」


 敵は、その後も散発的にこちらに攻撃を仕掛けては退くを繰り返してくるのだった。





ウィンザー国 ワルター


 ロイドから200の兵を預かって、空いている一方を守る事になった。

 だが、現在の所敵が来る様子は無く。

 正直暇な場所ではある。

 そんな事を思っていると、反対側から激しい銃撃の音と大砲の発射される音がした。


「ん? 戦闘が始まったのか? 爺……、いや副官」


「その様ですね。こちらも気を引き締めなくてはなりません」


 俺の隣で控えていた副官は、表情を変えずに対応してくれた。

 未だに爺やが隣にいる。そんな気がしてしまうが、彼はもう居ない。


「とりあえず、裏の崖側にも兵を配置しておくか?」


「……あまり必要ないかと思いますが。どうしてもと言われるなら10~20名程でよろしいかと」

 

 まぁ、あの崖を登るのは不可能に近いからな。

 副官のいう事が正しいのだろう。

 

「では、20名を選んで配置しておいてくれ。あと180名はここで待機、交代で見張りを立ててくれ」


 敵軍は恐らくこちらからは来ないだろう、というのがロイドの見立てだが……。

 本当にそうなのだろうか?

 相手はこれまでも常道を破ってきている。

 同じように二度も三度も真直ぐ突っ込んでくるだけだろうか?


「若様、兵の選別が完了しました。20名の部隊長はどうしますか?」


「一番経験の多いものを長にしてくれ。戦場は経験がものを言うからな」


 私の指示で、20名の別動隊が崖側の守備に移動していった。

 それから戦いは数時間続いていたが、私の守っている2方向では、全く戦闘が起きず遊兵と化していた。


「やはり、100名ほどを正面に移動させるべきでは?」


 今日何度目かの副官からの進言があった時、突然廊下の先から絶叫が響いた。


「て、敵襲!」

「敵が崖を登ってきたぞ!」


 崖だと!?

 一応用心のためと思って置いていたが、まさかそこから来るとは考えていなかった。


「100名はここの守備! 80名は私について崖側に移動するぞ! 侵入した敵を徹底的に叩くぞ! 副官! ここは任せた!」


「わ、若様!」


 副官の慌てる声が聞こえたが、気にしていられない。

 ここでロイドが負けたら、爺やたちの犠牲が無駄になってしまう!


 私は全力で廊下を走り抜けると、崖側の窓から入ってくる敵が見えた。


「敵はどれくらいだ!?」


「ひゃ、100名程かと思われます。ただ、こいつらものすごく強いです!」


 ちっ! 手練れが100はきついな。

 

「両側に命令! バリケードを作って対応せよ! 敵のこれ以上の進軍を許すな!」


 私の命令を聞いた兵達は、急いで手近にあった机などを自分たちの前に立てはじめた。

 もちろん、敵も黙って見ていない。

 敵兵の何人かが斬りかかってきたのをみて、反撃を試みる。

 だが、流石は突撃部隊である。

 こちらの反撃が出せないように上に下に、右に左にと目先を変えながら攻撃を繰り出してきている。


「こちらからも突撃するぞ! 私に続け!」


 私がそう言って敵に突っ込むと、傍に居た兵達は慌てて私を囲ってきた。


「わ、若様! 一人で出てはいけません! あぶのうございます!」


「何を言うか! 私はこれまで爺やに散々しごかれたのだ!」


 私が傍の者とそんな事を言い合っていると、1人の敵兵が斬りかかってきた。

 これまでの私なら、慌てふためき何もできなかっただろうが、今は違う。

 敵が頭を狙って斬りかかってきたのを見て、体を捻って避ける。

 それと同時に敵の腕を斬り落とすと、味方から感嘆の声が漏れた。


「な、なんと! 若様が活躍されているのだ! 我らも負けられないぞ!」


 私の活躍を見た兵達が勢いを取り戻し、敵に対して反撃を始めるのだった。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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