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6-12

 敵軍の謎の攻撃を退けた俺たちは、寝る事にした。

 もちろん外では、太鼓の音や敵兵の雄叫びが響き渡っている。

 向こうにしたら兵力は存分にあるので、嫌がらせをする余裕があるのだ。


「……流石にドンドン、ワーワー騒がれるときついものがあるな」


「それでも、ロイドが配らせた耳栓のお陰でだいぶましだと思うよ?」

 

 両側でマリーとドローナが横になりながら話しかけてきた。

 俺が緊急で全員に配布したのは、銃弾である。

 比較的丸い形の物を選び、全員に配布した。

 これがあるのと無いのでは、音の遮断率が段違いになる。

 もちろん、鉄アレルギーで被れたりする可能性があるので、綿を弾に巻き付けて使う様に指示している。


「とりあえず、寝るしかない。明日からは確実に決戦なのだからな」


「そうですね。このまま寝ないで戦えば、負けてしまいますからね」


 寝不足で負けましたでは、あの世のバリスや爺さんに合わす顔が無くなってしまう。

 そうならない為にも、今はしっかりと休まねばならない。

 

「……しかし、いくら部屋が無いからって所帯持ち全員で寝なくても良いだろうに……」


 現在城の一角に俺、ドローナ、マリー、アンドレア、エレーナ、バリスの未亡人と息子たちが寝ている。

 いや、別に一人とか3人にして欲しいという訳では無いんだ。

 ただ、なんというか。

 バリスの息子たちを見ていると、俺がいたたまれなくなってしまう。



 そんなこんなで、敵は騒ぐだけで何もしてくることなく、日付が変わった。

 俺は、早朝まだ暗い内から朝の食事の準備を指示している。

 今日の飯は、〝ほうとう〟である。

 かの武田信玄が考えたと言われる陣中食なのだが、味噌が無いので出汁で作っている。

 それも、干し茸の出汁だ。

 若干というか、かなり薄味風味なのが辛いが、あったかい飯を朝から食べるというのは、元気が出る。

 特に精神・肉体的に極限状態になる戦争では、温かい飯があるだけでもホッとするものだ。


「あったかい飯、またたらふく食いてぇな……」

「あぁ、早く戦争が終わる事を祈るで……」


 もちろん、副作用もある。

 農民兵中心の我が軍だと、厭戦気分になってしまう者が出てくるのだ。

 まぁ、この辺りは仕方ないとしか言えない。

 後で、演説でもして士気を盛り上げないといけないな。



 食後、片付けも終わってこれから戦支度という時に俺は皆を集めて話した。


「さて、みんな聞いて欲しい。今回の戦だが、恐らく後2,3日で決着がつく」


「おぉ、という事はこれが終わったらまた元の生活が?」

「後2,3日の辛抱だでな」


 街のみんなの顔に希望という名の光が灯った。


「だが、決着がついたからといって、全てが元通りにはならないだろう。家は壊され、畑は荒らされ、復興に時間がかかるだろうことは容易に想像できる」


 そう言うと、先程までの希望の光だったが、今度は復讐の光に変わった。


「敵は恐らくこの城を包囲してくるだろう! だが、屈してはならない! この城の外にはハイデルベルクと元ニュールンベルクの兵達が皇帝を撃つために狙いを定めている! 故に、我らはここで奴らをひきつけなければならない! ここが我らの死地であり、我らの守るべき場所だ! 敵を1人でも多く減らす事、その上で我らが生き残る事が大切なのだ! 最後まで諦めるな! 最後まで戦い、生き続けるぞ!」


「おぉぉぉ!」


 なんとか、兵達の顔に生気が蘇ってきた。

 家族の、恋人の仇を討つ為にも守り続けなければならないのだ。



帝国軍 アレハンドロ皇帝


 さて、どう攻めようかと考えていたら、敵陣から威勢の良い雄叫びが聞こえてきた。

 まぁ、城側は守るしかないのだ。

 こちらは逆に色々な攻め方ができる。


「さて、この城だが三方から攻める事ができる。だが、あえて一方向空ける」


「へ、陛下!? お気は確かですか? 敵を殲滅できる場面でみすみす逃げ道を用意してやるのですか?」


「お前はあほか? 城を三方囲ってみろ。敵は死にもの狂いになるだろう。死にもの狂いになったら面倒なのは知っておるだろう?」


 余がそう言うと、異を唱えてきた将官は恥ずかしそうに下を向いていた。

 そう、城攻めは心理戦なのだ。

 かの孫子も四方を囲まず、一方向空けなければ被害が大きくなると言っている。

 余が唯一孫子で覚えている所だ。

 

「さて、他には質問はあるか?」


 そういって辺りを見回すと、1人の若い将校が手を挙げていた。


「そこのお前は、何かあるのか?」


「はっ! 恐れながら陛下、私はその二方面の攻撃に参加せず、別の道を行きたいと考えております」


「ほう、別の道? それはどこだ?」


 余が問いかけると、若い将校は前に出て地図の一点を指し示した。

 そこは……、なるほど。

 確かに面白い場所だ。


「よかろう。お前に任せよう。兵は何人必要だ?」


「……手練れ100名ほど預けて頂ければ」


「ほう、それだけで勝算が?」


 若い将校は黙って頷いてきた。

 なるほど、まぁ確かに予期せぬ方向ではあるからな。

 

「では、編成から全てお前に任せる。好きなようにしろ」


 その後、特にこれといった作戦は出てこなかったので、軍議を終了した。

 さぁ、余の士載はしっかりと仕事をしてくれるだろうか? 楽しみである。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m



士載=鄧艾(三国時代末期の魏の武将)です。

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