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6-10

帝国軍 アレハンドロ皇帝


 当初の予定よりも酷い出血になってきた。

 その事に余は頭を抱えたくなったが今更後には引けない。

 なぜなら、この制圧戦は既にこちらの勝利が約束されているのだ。


「しかし、地形が悪いな。……いや、敵を褒めるべきか。自然とこちらの軍勢が中央に寄るようになっているし、そこに弾着する様に設定されている」


 まさしく人を殺す為の砦と言える。

 ただ、致命的な欠点を除けばと言って良いだろう。

 その欠点は、人の数だ。

 事前の調査でおよそ2千~2千5百程度と聞いている。

 多く見積もっても3千であれば、どれだけ頑張ってもこの砦で籠るには少ない。

 

 少なくても砦を利用すれば〝簡単には〟抜かれないと言うやつがいるだろう。

 だが裏を返せば、時間さえかければ抜けるという事だ。

 

「さて、敵の動きはどうなっている?」


「はっ! 敵は散発的に抵抗をしているものの、徐々に砦から逃げ始めました。また、大砲については、完全に沈黙しておりますので、もはや弾切れかと思われます」


 やはり、火薬か鉛の量が不足していたのだろう。

 余の考えが当たっていたという事だ。

 だが、一斉に退くのではなくなぜ徐々に退いているのだろう?


「おい! 敵の砦はどんな地形になっている?」


「敵の砦は二つの小山に兵が居りましたが、真ん中は丘状になっておりましたので、確認できておりません」


 真ん中が丘状?

 余はそう思って、実際に見に行くことにした。

 

「……なるほど、確かに遠目からでも丘状になっているのが、……ん?」

 

 ほんの一瞬、何か眩しさを感じた。

 余は目を細め、もう一度しっかりと見回す。

 すると、微かだが何かが光を反射しているのが分かった。


「……砦の真ん中だけに集中するな。あそこは恐らく敵兵が備えている」


「し、しかし、あんな所に備えては逃げきれないのでは?」


「お前は何を言っている? 前回その逃げれない兵達に手痛い一撃を喰らわされ、敵の布陣を完成させてしまっただろうが!」


 余が怒鳴ると、男は平伏しながら小刻みに震えていた。

 全くもって腹が立つ!

 こういった無能が居るから、いつまでも余が出張らなくてはならんのだ。

 早く4人の子供の誰かを皇太子として指名したいのに、一向に話がまとまらんのもそのせいだ!

 

「敵兵の裏をかくには、正面だけでなく左右側面からも攻撃しろ」


「はっ! では至急作戦を通達いたします」


 伝令の駆けていく姿を見送った余は、口の端が上がっていくのを感じた。





ウィンザー国 バリス


 さて、敵兵団をこの場で足止めする役を貰ったのだが、正面の敵が心持ち少ない気がする。

 というか、どうも攻めっ気が無い気がするのだ。


「……ん~、敵はこちらを一刻も早く潰したいはず。なのに攻め手の勢いがない……」


 明らかにおかしいのだ。

 だが、左右は森で森の中には多数の罠が仕掛けられており、進軍は難しい。

 時間を気にするのなら、ここは正面突破が一番なのだが……。


「敵の考えが変わったとか無いでしょうか?」


「考えが変わった?」


 副官がふと呟いた一言に俺が喰いつくと、彼は「憶測ですが……」と前置きをして話し始めた。


「時間をかけてでも我らを滅ぼす、という考えになったのではないでしょうか? これまで我らはかなりの出血を相手に強いていましたので……」


 なるほど、確かに彼の言う通りだ。

 我らがこれまで強いてきた出血が予想以上の量になっており、敵が作戦を変えざるを得ない状況を作りだしたのかもしれない。


「となると、考えられる事は何がある?」


「はっ! 愚考するに左右の森を走破しての迂回戦術ではないでしょうか? 迂回してから本軍を追う可能性が高いかと思われます」


 確かにこの状況を一日でも早く終わらせるなら、本軍急襲の一手は大きい。

 本軍が瓦解すれば、我らは抵抗する意味を失うのだ。

 だが、ここで我らが動いたら……。


「……副官、今この場に居る兵は何人だ?」


「はっ! 自警団員30名、元ニュールンベルク兵60名、街の有志10名の100名ほどです!」


「年の若いものを50名選定! 50名でここを死守し、分けた50名で迂回に備え後方に移動! 街での市街戦をするぞ!」


「はっ! では、私はこちらの死守部隊の指揮官として残ります」


「……、良いのか? 死ぬ事になるんだぞ?」


「何を言っておられますか、そちらだって市街戦で死守なさるおつもりでしょう? 遅いか早いかの違いだけですよ」


 そう言って、彼は涙を流しながら歯を見せて笑っていた。


「……全く。不細工な顔で笑うんじゃねぇよ。まぁ、なんだ。あの世でまた酒でも酌み交わそう」


「えぇ、文句を散々言わせてもらいます」


 そう言って、俺達は何度目かの戦闘を終わらせ、敵が退いたのと同時に後方へと走り出した。


「いいか野郎ども! 俺たちの仕事は敵の迂回戦術を警戒する事だ! 本軍さえ城に入れば後は降伏しても構わない! まぁ、敵さんが許してくれたらだがな」


 激しい雨の中、移動しながら兵達に作戦と軽口を言うと、大きな笑い声が響いた。

 そう、敵が許してくれる訳など無い。

 こちらが死ぬまで攻撃してくるだろう。

 そして、死んでも許してくれないだろう。


「街が見えました! 敵は……、まだ居ません!」


「よし! 街の各所に配置する! 俺に10名ついてこい! 狭隘な道で敵を散々に討ち果たすぞ! 残りの40名は射手を曲がり角に配置して、街に残していた柵を展開しろ! 武器の隠し場所くらいは覚えているな? よし! 散開!」


 俺の命令で部隊がそれぞれの役割を果たしに散っていった。

 俺は10名のうち屈強な3名を供に道を塞ぎ、残りの7名を脇道に配置した。

 7人には、俺達が戦い始めてから敵の脇を槍で突きさし混乱させる役目を担わせる。

 そして、最悪の場合には脇道を使って逃げても構わないと命令している。

 

 それから数時間後、敵が街に入ってきたのか各所で戦闘の音が鳴り響いた。

 雄叫び、絶叫、剣と剣がぶつかり合う音……。

 まさしく戦争音楽のそれである。

 

 それから数十分後、所々破られたのか徐々にこちらに兵が集まり始めた。


「さぁ! 楽しい殺し合いを始めようじゃねぇか!」

 

 俺はそう言って得物の槍をしごいてみせた。

 敵兵はざっと見えるだけで数千は居る。

 

 敵は俺達がたったの4人と見るや、襲い掛かってきた。

 1人目が剣で俺の頭を狙って切りかかるのを、体を捻って避けて拳で殴りつけて吹き飛ばし。

 2人目が拳を打ち下ろした俺の胴を払おうとするのを、槍で受けて柄で殴りつけ。

 3人目、4人目が一斉に来たのを槍の一振りで上下に切り分けると、敵から恐怖の声が漏れ聞こえてきた。


「な、なんなんだ、この国は?」

「化け物ばかりじゃないか?」


 化け物とは言ってくれる。

 正直俺自身としては、化け物という感覚はない。

 何せ、あの爺さんが強すぎるのだ。

 何度戦っても膝をつかせられなかったのだから、俺が化物のはずがない。


 俺は自分の周りから敵が退くのを見て、周囲を見回した。

 他の3人も多少の手傷を受けているものの、まだまだ余裕だ。

 というよりも、こんな最初のうちから1人でも減ったら洒落にならない。


「さぁ! 攻めて来いよ! ここを攻めなければ城にはいけねぇぞ!」


 俺がそう言って挑発すると、敵の何人かがまた襲い掛かってきた。

 その兵達が皮切りとなって再び一斉に攻めてきた瞬間。

 横合いから槍が一斉に飛び出したのだ。


「ぎゃ! な、なんで、横から?」

「こっちもだ!」

「脇道に敵兵が潜んでいるぞ! 注意しろ!」


 横からの一撃で、再び敵の勢いが死んだ。

 勢いが死んだ兵など怖くない!


「よそ見をしてたら、死ぬぞ!」


 俺が前衛の敵を一突きで3人串刺しにいすると、一斉に周りに居た5人の敵が襲い掛かってきた。

 避けれられるタイミングではない、絶妙のタイミングだが。


「させるか!」

「俺達を忘れるな!」


 俺の近くで戦っていた2人が俺に切りかかった5人のうち、左右2人を串刺しにする。

 俺は残った正面からの一人を、敵兵を串刺しにしたまま横薙ぎに払って吹き飛ばした。

 もちろん、その衝撃で先程まで刺さっていた3人も吹き飛び、敵兵に血の雨が降り注いだ。

 

「い、家を壊して脇道を潰せ! そうすれば――」


 敵兵が家を壊そうとした瞬間、脇道に居た兵達が元から細工していた家を敵に向かって倒し始めたのだ。

 これには敵も驚き、混乱していた。


 それから何度となく敵兵の突撃を潰していたが、徐々に兵が少なくなってきた。

 脇道の兵達は、家を何軒か倒してから逃げ出し、俺の隣で戦っていた3人の兵も一人減り、また一人と減り、先程最後の一人も死んだ。

 そして、俺自身も体中に無数の傷をつくり、血を流し、血を浴び、雨が降ってなければ、恐らく全身真っ赤だろう。


「あ、あとは奴だけだ! 奴を殺せ!」


 敵の指揮官が号令を発すると、俺に向かって多数の敵が走り出した。

 だが、俺もただ死んでやる訳にはいかない。

 一斉に飛びかかってきた敵を横薙ぎに払い、下段から攻撃を仕掛けてきた奴らを返す槍で振り払おうとした瞬間。

 力が抜けたのか、泥に足をとられてこけてしまったのだ。


「今だ!」

「戦友の恨み!」


 敵が口々に恨み節を言いながら、俺の腹、足、首、手を一斉にさしてきた。

 

「ゴフゥ! こ、ここまで、か……」


 思い返せば、不思議なものだ。

 貧乏貴族に生まれた俺が、農民だったロイド様に降り、守る為に死ぬ。

 貴族では味わえない人生……だ……った。


 俺が最後に耳にしたのは、敵兵の怨嗟の声と勝利の雄叫びだった。


前回は、お休み頂きすみませんでした。

詳しくは、活動報告をご覧ください。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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