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轟音が鳴り響くのと同時に、上空でバラバラになった弾が降り注ぐ。
それと同時に敵軍の兵士が、目視で確認できるくらい真っ赤な血を噴き出し倒れ、血の川をつくっていった。
「これは……、酷いとは聞いていましたが……」
俺の隣でアンドレアが言葉を詰まらせているが、俺にしたらまだこれは優しい方だという事が分かっているだけに、何とも言えない。
この大砲や爆弾が進化すれば、いずれ核爆弾ができ上がる。
核を使えば、それこそ死すらも感じる暇なく消え去るのだ。
「とりあえず大砲用の弾薬は、ある分だけここで使い切ってくれ」
「何故ですか? 今後後退する事がわかっていますし、城にも大砲があるじゃないですか? そちらの為に運べる分だけでも残した方がいいと思うのですが……」
「いや、火薬ならまだしも弾は要らない。重いだけに運ぶのに手間がかかるし、逃げ遅れる元になる。それくらいなら使い切ってしまう方がいい」
まぁ、弾を撃ち切る時点で火薬もなくなるんだがな。
とりあえず、敵軍の動きだが……。
こちらの大砲が連射できないとわかっているからか、さっきから引っ切り無しに攻め続けてきている。
「この調子なら、こちらの擬態を見抜けず城攻めでより一層の被害を出す事ができそうだな……」
「敵軍なおも進軍! 堀を渡って来ます!」
「よし! 有効射程圏内に入ったら各自撃ち続けろ! 敵はなりふり構わず数と勢いで攻めてくる。何度もたたいてやれ!」
これで、敵軍の動きは単調になる。
こちらでコントロールできる状況ができ上がれば、敵に大量の出血を強いる事ができる。
出血をさせながら追わせれば、敵は深入りせざるを得なくなるだろう。
なんせ追いかけなければ、それまでの犠牲が無駄になるのだ。
そして、仇討ちに燃える兵達はしばしば指揮官の統制から外れ、暴走する。
「暴走した兵に殺されたら目も当てられませんね……」
「まぁ、そこは敵の指揮官が優秀な奴である事を祈るしかないだろうな……」
そんな事を話しながら、俺達は戦場を見ていた。
この場所は、若干道幅の狭い場所が目の前にあるおかげで、広がって入ってきた敵軍が森に遮られて徐々に真ん中に寄せられるようになっている。
そして、その寄せられた先にキルゾーンが設けられているので、敵は自分からそこに飛び込まなければならない。
「密集してくれているから、撃つだけでどんどん倒れていく。しかもそこを抜けても丘状に盛った土で足を緩めなければならないから、弓兵の餌食になる」
「ここまで人殺しの機能が集約すると、もはや芸術の域ですね」
確かにこの施設の機能には穴が無い様に見える。
だが、それはあくまで〝見えるだけ〟だ。
実際に運用する人数が5千~1万居れば難攻不落となるだろうが、今いるのは、2千程度。
どうしても徐々に射撃間隔が空いてくるのだ。
射撃間隔が空けばどうなるかというと、抜け出してくる敵兵が多くなる。
敵は恐らく丘の方を目指して後ろに回り込もうとするので、バリス以下予備兵500でその侵攻を止める。
まぁ、数の不利を少しでも減らせるように、道を細くしたのだ。
その後はバリス次第だろう。
「敵兵更に増加! すでに土塁近くは敵兵で埋まっており、戦力を一気に投入してきています!」
「……ロイドさん? そろそろ私では?」
「いや、まだだ。アンドレアには最後の最後で活躍してもらわねばならない。ここで無駄に魔力を使うな」
少し不安そうな表情を見せ始めたアンドレアに、俺は力強く答えた。
ここで俺が狼狽えて先撃ちさせては、作戦が瓦解してしまう。
「敵兵なおも迫っています!」
「砲兵から伝達! 弾薬残りわずか!」
「よし! 砲兵隊! 残りの弾は間隔を空けて撃て! 敵にこちらの弾薬が尽きたと思い込ませるんだ! 撃ち切った隊から離脱して城の防衛に回れ!」
「はっ!」
「敵兵はこちらに誘引しろ! 鉄砲隊! 二斉射後砦の通路を使って離脱! アンドレアは頂上で魔術の準備に入れ!」
「わかりました!」
さぁ、これで敵はこちらが全ての策を使い切ったと思って突っ込んでくるはずだ。
そうすれば、そうすれば最後の楔が届く!
ハイデルベルク軍 アドルフ
さて、ニュールンベルク国の解放軍からの依頼を受けて僅かながらの援軍を率いて、ウィンザー国との国境付近にきました。
見たところ、やや変更点はあるものの、作戦通りといったところでしょうか?
なんにしても、たった100騎の援軍で何ができるんでしょう?
まぁ、その100騎に一人とんでもないのが混じっているんですけどね。
「なによ? 私がここに居るのがおかしいの? 先生」
「いえ、王弟派の君がこちらの手助けをするなんて驚いていましてね。」
それにしてもどんな風の吹き回しでしょうね。
はねっかえりのアニエス嬢がこちらの手助けをするなんて……。
まぁ、作戦指示書を持ってきたのと同時に「先生たち王女派の手伝いをする為に来たんじゃないですからね。あいつに借りを作る為に来たんですから」と、誰も聞いてない事をペラペラとしゃべっていたので大丈夫でしょうけど。
というか、私の前では未だに女言葉なのは、可愛いのですけどね。
それにしても相変わらずアンドレアの事を懸想しているんですね。
というか、彼が結婚したなんて聞いたらこの子、どんな顔するんでしょう?
……おっと、つい弟子として教えていた頃の苛め癖が出てしまいそうでした。
「ちょっと、先生? またニヤニヤしてたわよ。今度はどんな意地悪する気かしら?」
「いえいえ、仮にも私より高貴なクラック家のお嬢様に意地悪なんて、とてもとても……」
「……よく言うわよ。狸オヤジ」
何のことを指して言っているんでしょうね?
あれかな? 彼女を滝に落とした事でしょうか?
それとも、彼女が日夜隠しながら書いていた日記を朗読した事でしょうか?
いやいや、成人するまでクマの人形と一緒でないと寝れなかった事を大声で叫んだことでしょうかね?
いや~心当たりがあり過ぎるというのも、大変です。
「さて、そんな事は置いといて。どのタイミングで攻めるのですか? アニエス」
「……全く、本気で狸ね。まだだと思う。何せ敵の大半が土塁を越えて城を包囲し始めたら、って言っていたから」
「そうですか……。タイミングが難しそうですが、なんとか頑張らなければなりませんね。アニエス、頼りにしていますよ」
「えぇ、任せてください。先生」
そう言って、彼女と私は猛禽が獲物を見る様な目で敵軍を睨みつけるのだった。
そして、前回の更新で100話達成を全くもって書き忘れておりました!
皆さま、ありがとうございます!
今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m




