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また新キャラ登場です。
ゴブリンを撃退してから暫くは特に何もなく過ごす事になった。
もちろんその間も畑の整備と拡張を行い、堀を広く深くして整備していった。
ただ残念なことに、今掘っているこの堀はこれからも空掘りとして活用しなければならない。
本来ならこれを水堀として活用し、村全体の治水に活かしたかったのだが、現在の村の周辺の地形ではそれが不可能な状態なのだ。
まず川だが、村のすぐ横を流れているものの、そこが谷になっているせいでくみ上げる事ができないと言う事、次に川が下にあるせいで、地下水脈もかなり下がっており、村に点在する井戸もかなり深く掘って水を得ている状況なのだ。
日本の城は水堀が多く有名だが、空掘りもあった。
例えば有名な物なら小田原城の総構えなんかがそうだ。
現在は埋まっているものの、全長9キロは空掘りが続いていたという。
この空掘りは土塁とセットで建設され、かの武田信玄や上杉謙信も総構えを前にして攻めあぐね撤退したと言われている。
できる事ならそれくらいの規模で堀を作りたいのだが、現在の状況ではそれは不可能と言って良いだろう。
なにせ人手が足らないのだ。
そしてこれからやらなければならない事は山の様にある。
まずはさっきも言った様に利水を行い、村に水が行き渡る様にする事、次に農業改革、村民の誘致をして、最後に防御施設の強化だ。
現在の村の復興率はおよそ8割強と言ったところまで回復してきている。
基礎から立て直す家屋以外は簡単な修理で雨漏りを防いでおけば仕えたのが幸いしている。
また畑も踏み荒らしたり、作物を引き抜かれていたが、根菜があまり好きでは無いようで、それなりに残っていた。
そのお陰もあって次の収穫までは保存食で十分いけそうだ。
あぁ、それにこれからドローナの為に村の特産品も作らないといけない。
塩は近くに巨大な製塩都市があるので難しい、まぁ近くと言っても時間にすれば1日弱かかるのだが、塩では勝てない。
となると、森の中から特産品を見つけるしかないだろう。
森の探索は猟師であるライズに任せているのだが、この前、彼が赤松を見つけてきてくれた。
赤松がなんだよって感じだったのだが、確か気候条件さえ合えば松茸が出来るはずなのだ。
この世界でも茸などの菌類を食べる食文化はあるみたいなので、高級品として売れないかを検討しているが、正直これは時期物なのであまり期待ができない。
できる事なら通年で採算の取れる特産品を開発して、それをドローナ経由で各都市に売り、利益を上げて村の発展に繋げたいところだ。
しかしこればかりは一瞬で見つかるわけもないので、気長に開発するしかない。
俺が家でアイデアを纏めていると、マリーが俺を呼びに来た。
「ロイド?お客様なんだけど入れて良いかな?」
「ん?お客様?良いよ。どうぞ」
俺がそう言って促すとマリーの後ろにフードを被った旅装の男がついて入ってきた。
男は入ってくるとフードを取って丁寧な挨拶をしてきた。
「初めまして、私はアンドレア・ホーエンハイムと言う旅の者です。この度はお会い頂きありがとうございます」
アンドレアはそう言うと右手を差し出してきたので、俺は握り返しながら自己紹介をした。
「こちらこそ初めまして、私がこの村の村長をしていますロイド・ウィンザーです。どうぞおかけください」
俺が椅子を勧めると、彼はお礼を言って腰かけ、俺も対面に座った。
「本日はどういったご用件で私の元へお越しになられたのでしょうか?」
俺が質問するとアンドレアはにこやかに微笑みながら理由を話し始めた。
「私、先程も申しましたように旅をしておりまして、旅の途中に寄った街で貴方の噂を耳にして興味を持ち来させて頂きました」
「噂、ですか?」
俺が聞き返すと彼は瞳に好奇心を宿らせ、俺をジッと見つめてきた。
「えぇ、噂です。その噂ではなんでも50人の村人でゴブリンの群れを退治されたとか、また立ち寄った商人を相手に巧みな交渉で立ち寄る約束を取り付けたと言うのもお聞きしています。そして、ここへきて見て、私は感じました。素晴らしい長の居る村だと村民の顔を見てそう感じたのです。そうすると居てもたってもいられず、そこのお嬢さんに取り次ぎをお願いしたのです」
そこまで一気にまくしたてる様に話した彼は俺の手を握りながら恍惚の表情をしていた。
ハッキリと尻穴の危険を感じるくらいには危ない人の予感がしたので、手を引っ込めると、彼は名残惜しそうな目で俺の手を見ていた。
「えっと?それではその噂を確認する為だけにいらっしゃったのですか?」
「えぇそうです。そしてもしできる事ならこの村で一緒に暮らさせて頂き、貴方と言う人物をこの目でしっかりと観察させて頂きたいのです」
あぁ~この人単なる知的欲求に逆らえないマッドサイエンティスト系の人だ。
まぁ言葉の割に強引な事をしてくる感じも無いし、何かする訳でもなく観察って言いきっているから好きなだけ置いておくか。
「まぁ観察どうこうは置いておくとして、村に居て頂くのは大丈夫ですよ。というかむしろ歓迎させて頂きます」
俺が許可を口にした瞬間、彼は喜色満面の笑みで俺にお礼を言ってきた。
「ありがとうございます!これほど嬉しい事は無い!あ、ちなみに私、魔術を少々使う事ができます。もし何かお役に立てる事がありましたらおっしゃってください」
え?今この男なんて言った?魔術が使えるだと!?
この世界で魔法が使えるのは先天的な資質のある奴か、高等魔術教育を受けた貴族の子弟くらいだ。
これはとんでもない人が来たかもしれないな。
俺はそんな事を考えていたが、彼がもっととんでもない人物だと知るのはもう少し後の話だった。
アンドレア・ホーエンハイム
ご存知の方も多いと思いますが、某鋼のおちびさんの父のモデルになったパラケルススの本名から取っています。
錬金術=魔法として今回はこの名前を取らせて頂きました。
さて、彼は名前の通りの実力があるのかは、これからのお楽しみです。
お読みいただきありがとうございます。
今後のご後援よろしくお願いします。ァィ(。・Д・)ゞ




