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6-7

少し長めです。

またグロありです。ご注意を

「下がれー! 後退命令だ!」

「し、しかし、あの中にはまだ生きている奴らが!」


 少しずつ敵軍が引いていく中で、彼らの叫びがあちらこちらで響いていた。

 そして、崩した土塁の下からも助けを求める声が、亡者の叫びの如く聞こえている。


「ま、待ってくれ! 俺はここに居るぞ!」

「た、助けてくれ! 足が、足が折れて動けないんだ!」


 彼らの叫びも虚しく、被害の少なかった後方の部隊が徐々に後ろに下がり始めた。

 もちろん、俺達もそれをジッと見ているだけなどという事はしない。


「ありったけの弾をぶつけてやれ! 射程外に逃げたら土砂に巻き込まれた敵を射抜け!」


「おぉ!」


 号令一下、敵が秩序だって後退しようとしている所に銃撃が行われた。

 何度目かの斉射の末、主だった敵が射程外に逃げたので、目標を土砂に紛れた敵にへと移す。

 

「いいか! 土砂から顔を出した奴を矢で射掛けるんだ! 無抵抗でも必ず射掛けろ!」


 そう、ここで慈悲を見せる訳にはいかないのだ。

 窮鼠の気持ちで徹底的に敵を叩かねば、俺達が死んでしまう。

 堀があった所や土砂に弾かれ地面に叩きつけられていた兵に対して、斉射が開始されると、更なる地獄が目の前で繰り広げられた。

 

 ある者は足を抱え逃げようとする背中を射抜かれ、ある者は土砂からやっとの思いで顔を出した所を射抜かれ、またある者は、武器も鎧も脱ぎ捨てて投降の姿勢を見せている途中で射抜かれ死んでいった。


「ひぃぃ! や、奴ら俺達を皆殺しにする気アギャ!」

「に、逃げなきゃ……グフッ! あぁ……か、母さん……」

「や、止めてくれ! お、俺は投こグヒャ!」


 無事終わったら首塚を建てないと、俺は呪い殺されるかもしれない。

 今なら昔の人たちが、武人が、宗教にすがる気持ちが良く分かる。

 正常な人間であるほど、この地獄絵図で心が壊れてしまいかねない。

 精神の均衡を保つためにも、絶対に必要だと確信をもって言える。


「……アンドレア、堀を元に戻す事は可能か?」


「出来ます……、と言いたいところですが、連日の土木工事に今回の大規模な土砂崩れを起こしたことで、そろそろ魔力が危ないです。今後の事を考えるなら諦められるほうがよろしいかと思います」


「ん~、そうか……。致し方ないな」


 となると、今後は適時後退しながら抵抗していくしかない。

 特にアンドレアの魔術は、今後の展開次第では切り札になる。

 ここで無理をさせる意味はないだろう。

 それよりもまずは、目の前に埋まっている敵を殺しつくす事だ。

 出てくる奴は、全て射殺さなければならない。

 

 その後も、バリスとライズ指揮の元で残存する敵兵を徹底的に狩り続けた。

 

 この日の被害は、こちらは2,3人ほどドジな奴が土砂崩れに巻き込まれ行方不明になったくらいで、大きな被害は無かった。

 対して、敵軍の被害はおよそ2千~3千とかなり大きな被害を与えられた。


「これで敵軍は、およそ2万か……」


「まだまだ先の長そうな話ですね」


 今後の展開を考えると少し、いやかなり憂鬱だが致し方ない。

 殺らなければこちらが殺られるのだ。

 俺はそう思いながらも、この戦いが少しでも早く終わる事を願うしかなかった。



 翌日、敵の動きが変わり始めたのを土塁上から確認した俺は、土塁での戦闘の限界を感じ、後退を命令する事にした。


「さて、恐らく敵軍の動きだが、数にものを言わせた突撃で来る可能性が高い」


「このタイミングでですか? なぜもっと早く使わなかったのでしょう?」


 アンドレアの疑問はもっともだ。

 だが、その理由についてはある程度予想できる。

 

「おそらくだが、敵軍は堀と鉄砲というこの2つを一度に攻めるのを躊躇させていたんだと思う。それが、今回堀をこちらの手で埋めてしまったので、数にものを言わせた戦いに切り替えたのだろう」


「なるほど、こちらは防衛方法を徐々に削るのに対して敵は攻撃方法が増える、ということですね?」


 まぁ、増えると言っても戦場に左右されるので、選択肢をこちらが限定していけば問題は少なくなる。


「砦に後退をしたいのだが、こちらが引き始めたのを見れば、恐らく敵は準備が整う前に突っ込んでくるだろう」


「それは、下手をしたら全滅するのでは?」


「あぁ、そうなる。だからここで敵の進軍を阻む殿を誰かにしてもらわなければならい」


 殿と言えば聞こえは良いが、要は死ねという事だ。

 今回の作戦上、どうしてもここで犠牲が出てしまう。

 

「なぜ昨夜のうちに移動しなかったのですか?」


「移動したかったのだが、砦がその時は未完成だった。昨夜最後の仕上げをしてどうにか入れるようになったが、朝から攻められていたら間に合わない可能性があったんだ」


 砦は大規模な土木工事を行っていた。

 一応形は整ったが、最後の仕上げをしておかなければ意味が無い。

 その為移動できずにいたのだ。


「でだ、誰が残るかだが……」


 現在俺の中で候補となる人物は、2人。

 バリスか爺さんだ。

 爺さんは前回の戦争で片足を悪くして輿に乗っているものの、それでも未だに強い。

 そして、その爺さんと同じくらい個人の武があるバリス。

 どちらも失うには痛い。

 爺さんは間諜のまとめ役、バリスは自警団の精神的支柱でもあるからだ。


 俺が考え込んでいると、1人声を挙げる者が居た。


「……ここは私でしょうな」


 そう、爺さんだ。

 足の状況、歳、色々な条件を勘案すると、爺さんが適任になってしまうのだ。


「……頼めるか?」


「えぇ、若には怒られるかもしれませんが、仕方ないですな」


「必要な物はできる限り集める。また人員も指揮しやすい者を選んでくれて構わない。ただ……、100人以上は出せない」


 そう、犠牲が100を越えてしまうと、こちらの継戦能力が極端に落ちるのだ。


「なに、問題ありますまい。歳のある程度いっている子持ちの親を指揮下に頂ければ十分です。後は――」


「わかった。こちらでそれについては用意しよう。人員の選出をコーナーにさせろ! 今すぐにだ」


「はっ!」


 その後、コーナーによって選出されたのは、40~50代の男女で子どもがいる者たちと、ニュールンベルクの元兵士から同様の条件で選出された100名。

 それと、彼が欲していた物品の中で用意できるもの全てだ。


「すまない、言っていた物の中でこれだけが一袋分しか用意できなかった」


「いえ、これだけあれば大丈夫でしょう。後はお任せください」


 俺が申し訳ないと差し出した袋を彼は笑顔で受け取ると、後退を始める様に促した。


「敵軍行動を開始しました!」


「鉄砲隊は一斉射の後、後退! 歩兵隊は砦に向けて物資の運搬を急がせろ!」


 俺が全軍に命令を通達すると、爺さんが俺の方を向いて呟いてきた。


「では、ロイド様。若によろしく」


「あぁ、そっちは任せろ。必ず奴は生きてニュールンベルクに帰ってもらう」


 そう言い切ると、爺さんは慈愛に満ちた笑みを浮かべながら頷いた。


 敵軍は、こちらが埋めた堀を乗り越え走ってきていた。

 そこに一斉射当てるも、前衛が少し乱れただけですぐさま持ち直し、突撃を続ける。


「よいか! 私たち100名がここで粘る事が後の勝利を手に入れる事に繋がるのだ! 全員奮戦せよ!」


「おぉぉ!」


 父が、母が、友が、恋人がそれぞれの思いを抱え、自分の大切な人を守る為に気勢を発していた。


 その間も、敵は徐々に我が軍の土塁を登り向かってきている。

 そして、ある程度登ってきた所で、爺さんは号令を下した。


「奴らに食らわせてやれ!」


 そう言って、彼らは瓶の中の物を敵軍へとまき散らすのだった。



帝国軍 前衛


 敵軍は少数の部隊を残して後退を始めた。


「よし! 敵は逃げているぞ! このまま続け!」


 これでこの砦を攻める戦いが終わる。

 そう思って走っていたが、突然ヌルッとした物が空から降ってきた。


「た、隊長! 敵は何かぶちまけてきました!」


「ん? こ、これは油? しかしこの雨だ! すぐに流れるぞ! 気にせず進め!」


 そう、今は雨期。

 それもそれなりに激しい雨の中である。

 油を撒いた所で、我らの進軍を止められるわけもなく、火種も無いので意味が無い。


「前方! 左右から悪魔の術が発動! あぁ! 味方が火だるまになっています!」


「なに!? どうしてこの雨の中で燃えているんだ!?」


 今は激しく降る雨の中攻めている。

 だが、そんな雨の中味方にかけられた油が燃えているのだ。

 それも、勢いよく広がりながら。


「た、隊長! 一旦後退すべきではないですか!?」


「馬鹿者! それこそ敵の思う壺だろうが! 地面が燃えている訳では無いのだ! つっこめ!」


 私は、常識的な判断をしたはずだった。

 なにせこの雨の中での火攻めである。

 基本はすぐに鎮火し、意味の無いものになるはずだった。

 だが、炎は勢いよく我が軍の中を駆け巡り、我らを覆っていく。


「ぎゃぁぁ!」

「な、なんで炎が消えないんだ!?」

「ひぃぃぃ! 助けてくれ!」


 な、何が起こっているんだ?

 私の目の前で、消えない炎が巻き起こっている。

 いや、勢い自体はそこまで強くはない。

 だが、この雨で消えないという事が、私たちに予想以上の恐怖を持たせているのだ。


「ひ、火の勢いは弱い! 我が隊は火の中を突っ切るぞ!」


「な!? ぐ、了解しました!」

「こ、こうなったら自棄だ!」


 部下たちの不平不満が聞こえるがそんな事にかまっていられる状況ではない。

 ここをいち早く突破して、敵に打撃を与えなければならないのだ。

 そう思って炎の中を、肌を焦がしながら走り切ると、何とか炎の先に出る事ができた。


「よし! このまま敵軍に向けて突っ込むぞ!」


「おぉぉ!」


 炎を突き抜けた勢いのまま、敵の土塁の頂上に辿り着いた瞬間。

 私は自分の体を見上げ、そして倒れ行くのを見るのだった。




ウィンザー国 爺や


 さて、炎の壁の中やはり何部隊か突っ込んで来ましたな。

 思いっきりの良い奴がいる隊は、いつでも咄嗟の窮地に生き残れる。

 だが、それはその炎まで。

 私がここを守る限り、敵は通すわけにはいかない。


「良いか皆の者! 敵は我らの後ろにいるお前たちの家族を、殺そうと殺到している。だが! 我らがここで踏ん張れば、家族が生き残る可能性があがる! 良いか! 死守だ! 何としてでもここを命果てるまで守り切るのだ!」


「おぉぉ!」


 私はそう演説しながら輿を降り、一番槍で登ってきた敵兵の首を一閃ので切り落とし、後続の兵達を相手に戦い始めた。


 ちなみに敵の大多数は、炎の壁に遮られて停滞しているものの、徐々に混乱が収まってきている。

 炎がこの雨で消えないのは、予想していたとはいえ信じがたい光景である。


 なぜ炎が消えないと予想していたかと言うと、以前ロイド様から聞いていた、魔術で物を燃やす仕組みを応用したからである。

 魔術の火が燃えるのは、目に見えないリンというものを燃やすからだそうだ。

 そして、リンは見えないながらもこの空気の中に大量にあるらしく、簡単には燃え尽きない。

 だが、リンで燃やす火は弱く湿気にも弱い。

 しかし、油の場合ならどうか?

 答えは簡単だ。

 油は水を弾く。

 この事から私は、油を魔術の火種にしたら雨でも燃えるのではないかと考え、実践してみたのだ。

 ただ、思い付きから実践までの間に実験を一切していなかったので、本当にできるかどうかは、確証が無かった。

 そういった意味では、上手く行って一安心と言ったところだろう。


 さて、そんな事を考えていると、先程斬り殺した敵の部下だろう者たちが一斉にかかってきた。

 しかし、指揮官を失ったのか、はたまた怒りで冷静に鳴れていないのか連携がなっていない。

 私は、左から突出してきた者を一太刀で斬ると、そいつの体を盾にたの攻撃を防ぎ突き返してやった。

 味方の体とあって、思わず受け止めてしまった兵の首を一閃。

 その後に続いた敵兵の腹を躱しざまに一閃と、一太刀で一人屠るように動いていた。


「……、一太刀で1人とは……。怪我はしたくない物ですな」


 そう呟きながら、次に来た敵兵の攻撃を横に反らし、一緒に突撃してきた奴を殺させ、延髄を切る。

 昔であれば、一太刀で二、三人は一気に殺せていたし、一息で一閃と言わず三閃はしていた。


 そんな過去の事を考えながらも、目の前の敵を屠るが、切った敵が百を超えたあたりから形勢が悪くなってきた。


 右翼、左翼共に敵の手に落ちましたか……。

 後ろは、あと少しで終わりますね。


「最後の、突撃です!」


 私は、最後の気合を振り絞って、敵の中ほどに居る指揮官らしき男を目掛けて動き出した。

 


「と、止めろ! そいつを止めろぉ!」


 敵の指揮官の叫びが聞こえる。

 今の私は相当えげつない顔をしているのでしょう。

 しかし、ここで手心は加えられません!


 私はそう思って、勢いよく飛ぼうとしたのですが、ついに体力が尽きたのでしょう。

 ガクッと足元が揺らぎ、一瞬バランスを崩してしまったのです。


 その瞬間を見逃さなかった敵兵が、私に切りかかると、それを合図に周囲に居た敵兵に四方八方から串刺しにされ、その場に膝をついて倒れ込みました。


 もう、流石に動きませんか……。


「あぁ……、若。そんな悲しい顔をしないでください……」


 私は、最後の力を振り絞り、ロイド様から渡された袋の紐を引き抜くと同時に、激しい爆発音が最後に聞こえました。


先日はお休み頂きすみませんでした。

体調は回復傾向にありますので、多分大丈夫です。

次回更新は明後日28日を予定しています。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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