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森を無理矢理伐採した1日目以降は、特段何も起こらず1週間が経過した。
敵の動きは前面から後ろの森へ広がり、今では森があった場所に敵の一大拠点ができ上がっている。
「……見渡す限りテントの海ってのも風情が無いな」
「まぁ、戦争ですからね」
それを言ったらおしまいだろうと思ったが、特に言わず頷くだけにした。
なにせこの1週間、敵後方に徐々に広がっていくテントの海をみるだけの毎日だったのだ。
こちらから何度か攻撃をしようかと思ったが、残念ながら敵は完全に射程外に移動して無理で、こちらが仕掛けられるのを待っているだけ、というのが現状だ。
「完全に主導権があちらですね」
「……うん、まぁ籠城戦って結構そんなもんだから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどな」
敵の狙いが完全に雨期である事は分かっているので、こちらとしてはその対策を進めている。
1つは堀と土塁の増築である。
現在の我が軍の土塁は、最前線の土塁の次が土塁の迷路になっている。
この迷路を現在解体して、新たな土塁と堀を新築しているのだ。
土塁は、今ある土塁の真後ろに造られている。
堀は、増築した土塁の後ろに膝丈くらいの深さで造られている。
そして、もう1つが第二の砦の築城である。
堀と土塁の後ろに小山を2つ、それぞれが守り合えるように造っており、ちょっとした細工もしてある。
また、大砲はこちらの山の頂上に移動させている。
理由は、現状では大砲を使うのは雨期が過ぎてからになるからという事。
敵がある程度密集している必要がある事。
この2つが理由だ。
砦の築城を今回始めた理由だが、これは敵軍の動きに対応するためだ。
敵がなりふり構わず森を伐採して攻撃できる部分を増やしたことで、こちらはその穴埋めをせざるを得ない。
その穴埋めが、戦線をいつでも後退させられる砦の築城なのだ。
「砦の築城の進捗状況は?」
「現在竪堀も掘り始め、堅固な要塞となり始めております。また、ご指示通り中央を少し空け、山を盛っております」
「では、そのまま魔術小隊を指揮して作業を完了させてくれ。アンドレアはすまないが、後ろの土塁の水分を少しずつ抜いて、固めてくれ」
「はっ!」
さて、築城は順調。
後は、敵がどう攻めてくるかである。
現在の状況は、全面を封鎖され敵による森の開拓作業が進んでいる。
それと並行して敵は、塹壕を掘りだした。
塹壕とは、人為的に作り出した溝をもってして敵銃撃を回避するための仕組みだ。
ただ、塹壕自体は古くからあって、古代~中世中東でも幾度となく敵を撃退している資料がある。
ここまで似通った知識をこの世界に持ち込むって事は、敵の皇帝も恐らく転生、もしくは転移した者だろう。
「問題は、敵がどこまで知識を持っているかだよな……」
そう、敵が塹壕を出したという事は、退避壕もできていると考えるのが妥当なのだ。
退避壕は、砲撃戦が主流になった第一次世界大戦~第二次世界大戦で出来たもので、あれを造られては大砲の効果はかなり限定的になる。
「それ次第か……、いや何か俺は忘れてないか?」
敵が現代人である可能性が高くなったのだ、現代戦をしっかりと作戦に練り込まねばならない。
除外できる可能性は……、散兵くらいだ。
あれは高度に訓練した兵が無線通信によって統制を保ちながら前線を押し上げるのだ。
簡単にできるものではない。
「だが、相手は歴史ある帝国。それを思うと一応警戒をしておいた方が良いだろうな……。誰かあるか? ライズを呼んでくれ」
その後、呼び出されたライズに俺は命令を通達し、前線を離れさせた。
「これが杞憂なら、こちらが散兵を仕掛けられる。予感的中なら、ライズの健闘を祈るしかない、か……」
帝国軍 アレハンドロ皇帝
さて、対峙して1週間。
敵の動きは予想外に遅く、こちらが森を広げて一大野営地を建設しているのを、指をくわえて見ているだけだ。
なぜ砲撃して来ない?
恐らく射程ギリギリにあるはずの前衛が、全く砲撃されていないのだ。
効果が限定的だから?
それとも特殊な弾を使うからか?
いや、そうじゃない。
敵は恐らく塹壕に退避壕があると警戒しているのだろう。
では、なぜ退避壕がある事を警戒している?
「なんだ、答えは簡単じゃないか」
余は思い到った答えに、思わず笑ってしまいそうになるのを堪えていた。
そう、敵は砲弾を量産しきれなかったか、火薬の絶対量が足りないのだ。
だとしたら、こちらは攻めては引くを繰り返すだけで良いのではないか?
「いや、焦りは禁物だ。前回は焦ったが為に主力軍を壊滅させてしまったのだから」
ただ、敵の現状をある程度予想できたのは、幸いと言える。
現状を維持しつつ、塹壕を掘り進めながら地固めをすべきだろう。
塹壕がある程度出来上がったら、煙を焚いて一気に……。
「全くもって、これで終わるなら拍子抜けも良い所だな。ロイド・ウィンザー」
さぁ、どうでる? どうやって余の攻撃を躱す? どうやって余を楽しませてくれる?
余を滾らせてくれ、余を満足させてくれ。
お前と戦っていると、自分が若返るようだ。
「さぁ、楽しい戦争をしようじゃないか?」
今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m




