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6-4

 1日目の戦闘は、地味な攻防に終始することになった。

 この戦闘でこちらは被害0に対して、敵軍は被害およそ5千。

 だが、そのほとんどは女子供の非戦闘員である。

 

「何とも言えないな」


「えぇ、勝利したと言い難いですし、味方の中にも何人もの兵が精神的に参っていますね」


 それはそうだろう。

 第二次世界大戦などでも、非戦闘員を殺す事で精神を病んだものが居たのだ。

 この世界で人の精神構造が違うなんてことは無いだろう。


「少し精神的に参っている奴らを集めてくれ。今日はもう戦闘も無いだろう」


「わかりました」


 それから少しして、兵達を集めた部屋に俺は入った。

 入った瞬間、後悔と懺悔の空気が充満しており、彼らの精神的負荷がうかがい知れるというものだ。


「さて諸君。本日の戦闘ではご苦労だった。俺の〝命令〟により君たちは武勲をあげた。これはあくまで戦争だ。武勲をあげた事を誇りたまえ」


 俺の言葉に兵達は、唖然とした表情をしている。

 それはそうだろう。

 我が軍は、軍というにはあまりに規律も訓練も中途半端な状態にある。

 それは、半農半兵の軍だからだ。

 そんな彼らに武勲だの命令だの言っても、意味は薄い。

 

 だが、これは責任を転嫁させてやらなければ、彼らの精神が先に参ってしまうのだ。


「何を驚いている? 君たちは、俺の〝命令〟を聞いて実行したのだ。責任は命令者である俺だ。もし死んで地獄に行くとしたら、俺一人だろう。そして、俺はそこで地獄の鬼たちを相手に、天下統一を目指してやるだけだ」


 俺はそう言い切り、これでもかと笑いかけてやった。

 異常者に見える様に、彼らが責任を転嫁しやすいように、自分自身の罪を知る為に。


「村長は、変わった……」

「おら達は、無理矢理……無理矢理させられた」

「う、うぅ……」


 何人かの兵が、俺の方を睨んできた。

 そう、それでいい。

 その憎悪を胸に精神の均衡を保ってくれ。

 そうする事で、君たちは生きていけるのだから。


「さぁ、これで話は終わりだ。束の間の休息を楽しみ、明日も俺の〝命令〟で沢山の武勲を挙げてくれたまえ」


 俺はそう言うと、部屋をあとにした。

 そう、これで、これで良んだ。

 だけど、自分の胸が痛いのだけは、治りそうにないな。


「ロイドさん、良かったのですか? 彼らに本当の事を伝えなくて」


「アンドレア。そんな事をしたら、あいつらの何人かは遠慮して俺を恨めないじゃないか……。それじゃ、ダメなんだよ」


「そう、ですか……」


 そう、俺の役目は彼らの心の負担を減らす事。

 根本的な治療ができないのだから、これ以外にないのだ。


「それよりも、敵の今後の作戦に合わせてこちらも状況を変えていかねばならない。内側に広げていた土塁の迷路だが、変更する事は可能か?」


「明日以降も同じような感じで攻めてくるのでしたら、2,3日でどうにかできますが?」


「では、土塁の形を――」


 その後、俺たちは土塁の形をどうするか、について話し合った。




帝国軍 アレハンドロ皇帝


 敵が用いたのは、やはり火縄銃だろう。

 何発かそれた弾や人体から摘出したもので確認がとれた。

 火縄銃であれば、確か熟練した射手でも10秒ほどかかるはずだ。

 

 だが、早合だったか? あれを持ち出されると、何秒かかるか余には判断がつかない。


「陛下、倒木隊の被害状況が判明しました」


 そう言って兵が報告書を持ってきたので目を通すと、中々の人数になっていた。


「ふむ、1万のうち7千程が死傷か……。存外少なかったな」


 心の底からそう思って出た言葉を聞いた兵は、一瞬驚愕の表情をした。

 まぁ、この作戦については作戦参謀も反対したくらいだ。

 知らされていなかった末端の兵達にとっては、目の前で繰り広げられる虐殺はさぞ驚いた事だろう。

 

 だが、この虐殺を今度は余の手腕で兵達の戦意に変換せねばな。

 その為にも、傷つき傷心した女子供を比較的良心的な兵達に委ね……。


「失礼します! 参謀長殿が作戦をお持ちになられました」


「うむ、通せ」


 余の許可と共に頬のこけた不健康そうな男が入ってきた。


「余は、〝参謀〟が来たと聞いたのだが? それよりも良くも余の前に姿が現せたな、ダラス」


 余が皮肉を言うと、ダラスはフンと鼻で笑いながら話し始めた。


「なに、お前が知りたがっていた情報を持ってきてやったのだ。少しくらい目こぼしをしても良いのではないか?」


「……まぁ良かろう。どうせお主は死なんのだからな。で? 情報とは?」


「敵の君主が秘匿していた火薬とかいう薬の材料だ」


 〝火薬〟という単語が出た瞬間、余は飛び上がりたいのを必死にこらえた。

 声も出さなかったのは、自画自賛したいほどである。


「ほう、火薬の材料だと? だが、それがわかったといえど我が国で作れるか?」


「…………」


「だんまりか、まぁ良い。命と引き換えにしてやろう、言え」


 余がそう言うと、奴は渋々といった様子で話し始めた。


「火薬の材料だが、糞と硫黄、それに少量の木炭だそうだ。配合の比率などは分かっていないが、これだけの情報があれば作れるだろう?」


「……糞? それは人糞か? 家畜の糞か?」


「そこまでは知らん。私はあくまで情報を収集してきただけのことだ。後はお前でどうにかしろ」


 余にどうしろと言うのだろう?

 人糞を混ぜて本当に火薬ができるのか、そこについてはまだまだ疑問の余地があると言える。


 しかし、これまで全く情報が無かったのだ。

 その点については評価せねばならないだろう。


「まぁ良い。後はこちらで研究を重ねる故、お主はどこぞへ消えろ」


「せめて路銀くらいくれんのか?」


「がめつい奴だ。まぁそのまま放り出すのもなんだ。持っていけ」


 そう言って余が近くにあった金貨1枚を奴に放り出すと、受け取った奴はスーッと消えて居なくなっていった。


 さて、森も広げられた。

 後は雨期を待つばかりだ。



今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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