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6‐3

「これはまた……、壮観だな。アンドレア」


「えぇ、ここまで良くもまぁ集めてきましたね」


 あれから一か月、予想通りの時期に敵軍は攻めてきた。

 季節は既に夏に差し掛かり、春麦を収穫し終わったのとほぼ同時である。

 今、俺たちの目の前に広がっているのは、人、人、人の海だ。

 そして、それが全て敵だと言うのだから、質が悪い。


「ところで、敵はなぜ攻めてこないのでしょうか? すでに布陣して1日は経過していますが」


「さぁ、そればかりは敵に聞かねばわかるまい。もしかしたら降伏勧告でも用意してくれているかもしれんからな」


 まぁ、一応国際的に言い訳をしようとするなら、降伏勧告拒否につき占領した。

 というのが良いのだが、今の帝国に外聞も何もあった物では無いだろう。

 

「もしかしたら敵は何かしら待っているのかもしれん」


「待っていると言いますと?」


「うむ、考えられるのは、雨だな」


「雨……ですか? まさか! 鉄砲の弱点を知っていると!?」


 そう、可能性として考えられない事もないのだが、俺と同じ転生者だとしたら、鉄砲の存在を知っていておかしくない。

 だが、そうなるとなぜ皇帝は、前回攻めてきた将を敗戦の咎で処断したのかが分からない。

 もしかしたら、俺が鉄砲の弱点を知らないと高を括って失敗するのを期待しているのだろうか?


「しかし、この屋根付きの壁には意味が無いのでは?」


「いや、雨を待つなら意味はある。何せ奴らは竹束を持っているんだから」


「また、竹束ですか? 私には、あのような塊で鉄砲を防げるのか疑問です」


 俺も実際に見た訳では無いので断言できないが、戦国期には竹束が銃撃を逸らす役割を持ち、実際に使用して効果があったとなっている。

 ただ、竹束は銃撃に強い代わりに、火に弱くすぐ燃えるそうだ。

 相手が竹束を持っているという情報を得てから、俺としてもその辺の用意はしたが……。

 無駄になるかもしれない。


「雨を待つのはそれだけでは無いだろうな……」


「と、言いますと?」


「大砲だよ。これの存在を警戒している可能性がある」


 現在持っている大砲は、残念ながら野戦砲なので雨に弱い。

 特にこの季節は雨期に入ってしまうと、例年激しい雨になるのは分かっている事だ。


「大砲は、何門かは置いといて城に下げるか……」


 俺がそんな事を考えていると、伝令の兵士がいきなり大声を張り上げ、敵襲を告げてきた。


「敵襲! 敵前衛部隊が動き始めました!」


「各部隊に通達! 火縄銃の火ぶたを切って狙いをつけろ! 合図とともにいつでも打てるようにするんだ! 砲撃隊は、そのまま待機! 弓隊応戦しろ!」


 俺の指示と同時に、空を何百という矢が飛び出した。

 矢と同時に連弩も発射を開始したのか、杭も弓隊に一歩遅れる形で発射された。


「あの杭が飛んでいく様は、何度見ても違和感があるな……」


「敵も驚くでしょうね。まさか杭が飛んでくるとは想像しますまい」


 俺たちの予想通り、敵の前衛の一部に杭が直撃すると、絶叫が響き渡った。

 俺が指揮をしていても違和感を感じるのだ。

 敵兵からすれば悪夢のような光景だろう。


「連弩弾着! 敵前衛多数死傷し混乱しております!」


「矢も届いております……、ん? 敵が木を伐り始めた?」


 木を伐り始めた?

 まさか、森で狭くなった道を広げる気か?

 確かに攻めるにも陣を敷くにも狭いが、今それを犠牲を出してまでするのはどういう意味があるんだ?


「ロイドさん。敵ですが、どうやら攻めているのはニュールンベルクで徴兵した女子供のようです」


「女子供? まさか奴らは自分たちの軍を傷つけずに場所を確保する気か?」


 これは、ちょっと計算外だった。

 森が邪魔をしているが、この世界では森に深く入る事、森を切り開く事は魔物との距離を近くするという事もあって忌避されていた。

 その為、今あるスペースで戦うものだと思っていたので、予想外な事態である。


「どうしますか? またワルター王子が泣き叫んできそうですが……」


「いや、ワルターには城の防備をうちの老人と子供達と行ってもらっているから、大丈夫だ。だが、無抵抗な人たちを撃つのは、気が引けるが……。鉄砲隊! 気にせず撃て! 責任は俺が取る」


 俺の言葉を聞いた兵達は、再び射撃を開始した。

 少し距離があるので、命中率は落ちる。

 だが、ライフリングを施したお陰で、全く的外れな状態では無いのが、救いだ。

 

「雨期を待つのかと思ったら、強硬。それもかなり無謀で非道なやり方だな……」


「ですが、黙って見ていてはこちらの戦略・戦術が崩壊してしまいます」


 そう、俺たちの役目は敵を引き付け、誘引して撃滅する事。

 できる限り相手をひきつけられるようにしなければならないのだ。

 その為にも、森を切り開かせる訳にはいかない。

 こちらが主導して敵を誘い込まねばならんのだから。


「作戦上まだ問題はない。ただ、女子供が戦場で倒れるのは、見てて良い気分じゃない」


「全くです」


 その後も暫く、敵の無謀な突撃とこちらの射撃で倒れていく女子供を見る羽目になった。

 倒れ行く最中、我が子に覆いかぶさる母や、年下の兄弟を守ろうとする兄・姉も居れば、自分が助かろうと他者を盾にする者と千差万別の地獄絵図。

 

「皇帝は、何を考えているのだろうな?」


「えぇ、人は石垣とロイドさんがおっしゃっていますが、彼にとって他国の人は路傍の石以下なのかもしれません」


 俺達がそんな事を話していると、諜報部の兵がとんでもない報告を持ってきた。


「報告します! 敵指揮官が判明しました!」


「誰が指揮官だ? 主要人物だとは思うが、参謀長か? 騎士団団長か?」


 俺が訊ねると、そのどちらにも兵は首を振り、声を張り上げて報告した。


「敵指揮官! アレハンドロ皇帝!」


「なに!? 皇帝自らこっちに来たと!?」


「ロイドさん、これは好機なのでは?」


 確かに好機ではある。

 こちらの張り巡らした罠にかかれば、皇帝は倒せるだろう。

 だが、ニュールンベルクで解放軍として動いている奴らがこのままでは、無駄死になる。


「諜報部から1人足の速い者を解放軍へ! 皇帝はこちらに居ると伝えろ!」


「はっ!」


 さて、皇帝が前に出ているのは、吉と出るか凶と出るか。

 どちらに転んでもこちらは、相応の被害を覚悟しなければならない。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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