表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/134

6-2

戦支度の詰めの話です。

 さて、帝国が攻めてくると言っても時間がある。

 合計十万と号しているが、恐らく数字としては半分~良くて7万程度だろう。


「……それでも7万なら、最低3万はこっちに向かってきますよね?」


「……言うな、それは俺も分かっているし、どう対処しようか悩んでいる所だ」


 俺の目下の悩みは、砲兵である。

 それも大砲の方の砲兵だ。


 大砲自体は、エレーナの設計図もあって順調に弾を量産しているが、砲撃がかなりあぶなかっしいのだ。

 特に訓練中は弾がどこに飛ぶか分からない。

 どこに飛ぶか分からない原因は分かっている。

 それは、観測士が居ない事だ。

 現在の我が軍では、観測ができるだけの算術技能を持ったものが居ないのだ。

 何とか子ども達ができるようになってきたが、まだまだ数が足りず、正直観測士にまで人が回せないのが現状だ。


「とりあえずだ、砲兵の問題は教育の問題だから一朝一夕には解決しない。他の手段、道具で補うしかないんだ」


「しかし、そう簡単に解決できますか?」


「それができないから、頭を悩ませているんだろうに……」


 その後、俺とコーナーはどうやったら簡単に測量できるかと、2人して頭を抱えていると、誰かが勢いよく執務室に入ってきた。


「できたよ! これで観測士の悩みは解決できるよ!」


 そう大声で叫びながらエレーナが見せたのは、黒板用サイズの分度器である。

 そして、分度器にはそれぞれ文字が書いてあり、「森」「道」「堀」となっていた。


「これを大砲に固定すれば、砲兵が見て、角度を調整するだけで間接砲撃ができるよ」


「おぉ! これは良いな。よし! 今すぐ大砲にとりつけて実験するぞ!」


 俺たちは、エレーナの発明を持ってすぐさま射撃場へと移動した。



「ロイド様~これは何だべか?」

「んだんだ。見た事ねぇ形の板切れだな」


 俺達が分度器を持って行くと、大砲の練習をしていた兵達が口々に質問してきた。


「これか? これはお前たちの砲撃をより精度の高いものにする道具だ」


 そう発表すると、砲兵たちは一様に「おぉ」と喚声をあげ、期待に目を輝かせている。

 なにせ、これまであまりにも角度がバラバラで、どこに飛ぶかは天のみぞ知るという状態で危険極まりなかったのだ。

 そんな状態の彼らには喉から手が出るほど欲しいであろう、命中精度を高める道具を持ってきたのだから、期待したくなるというもの。

 

「で、それはどうやって使うんだべ?」

「んだんだ。儂ら難しいのは無理だんべ」


「安心しろ。この道具にはちゃんと〝文字〟が書いてある」


 俺がそう言うと、さっきまで期待に膨らんでいた目が一気に興味の色を失った。

 俺達三人が突然興味を失われた事に戸惑っていると、1人の男がおずおずと意見を言ってきた。


「……色々考えてくれてうれすぃんだがな。ロイド様、儂ら元々農民ですだ。なもんで、文字さ読めねぇんだが……」


 その意見を聞いた瞬間、俺は自分たちの見落としに気づいた。

 そう、分度器に書かれているのは、文字と数字なのだ。

 そして、彼らは文字も数字も読めないものが大半で、この道具があった所で、全く無意味なのである。


「えぇ!? 文字が読めんー! んー!」

 

「まぁ、兎に角道具が出来たのだ。これからみんなが使えるように改良を加えるから、期待して待っていてくれ。今日は最初の試しだからな。さっき意見を言ってくれた者もありがとうな」


 エレーナが失言しそうだったのを寸での所で止めて、誤魔化しながら退散した。

 もちろん、その後彼女を叱ったのは、言うまでもない。


「しかし、困りましたな。文字が読めなければこの発明は……」


「文字を覚えるいい機会と捉えるか?」


「あと一ヶ月で習熟しないといけないのにそれは無理でしょ?」


「だよな……」


 この発明の肝でもあるどこに修正したら良いのか、がわかりにくくては正直意味が無い。

 俺たち三人は知恵を絞ったが、文殊にはなれず、その日は解散する事となった。


 その日の夜。

 今日は、マリーと一緒に寝る日だったのもあって、彼女に今日あった事を話してみた。


「――という訳で、砲兵もマリーの連弩も角度調整用の道具は、間に合いそうにないよ」


 俺がそう話し終えると、彼女は小首を傾げて質問してきた。


「ん~、私には難しい事は分からないんだけど、絵とかではダメなのかな? 文字で無いとダメなものなの?」


 そう言われた瞬間、俺は自分の思考が凝り固まっていたのを痛感した。

 それと同時に、マリーの言った一言が解決方法だとわかったのだ。


「いや、ダメじゃない。というか、なんでそんな簡単な発想が無かったんだろう? ってなってしまうくらいだよ」


「私ね昔字が読めなかったでしょ? 勉強する時、実物や絵と字を見比べて覚えていたから、できるかなって。良かった、ロイドの事を助けられて」


 そう言うと、彼女はニッコリと笑っていた。

 

 次の日、マリー考案の絵を描いた分度器を砲兵に渡すと、「これは良い」「見やすい」と絶賛され、角度制御も今までよりもスムーズにできるようになり、砲撃速度、精度ともに以前よりも良くなった。


 まぁ、本番ではブドウ弾モドキを撃つので、正直あまり細かい精度は必要としていないんだけどね。

 無くて味方に鉄の雨を降らせるよりは、という所だろう。



今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ