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6-1

帝国 アレハンドロ皇帝


 あれから1年、工作員として派遣した奴は戻って来ず、瞬炎と言われた魔術師も失ってしまった。

 全くもって余の失策ではあるが、準備は整った。


「陛下、全軍城外に参集しております。ご命令を」


 そう言って、余の足元に平伏す参謀に鷹揚に答え、兵達の前に立ち、語りかけた。


「我が親愛なる兵士諸君! そして、我が敬愛すべき国民よ! これまで虐げられてきたニュールンベルクに対し我らは、怒りの鉄槌を振り下ろし、叩き潰す事に成功した! だが、我らはそのニュールンベルクと友誼を結んでいたハイデルベルクにあと一歩という所で阻まれた! この屈辱を今! この時より返しに行こうではないか!? 敵は恐らく我らの数に驚き! 慄き! そして跪くだろう! そうして我らは、初めてこの大陸で! この世界で! 強国と言われるのだ! さぁ、兵達よ、進め! さぁ国民よ、怒りの矛を振り下ろせ! 奴らを、敵を徹底的に潰すのだ!」


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

「アレハンドロ皇帝、万歳!」


 余の演説に兵達はおろか、城内の国民からも大きな拍手と歓声が響き渡り、雄叫びが天にこだまする。

 これ以上ない士気。

 これ以上ない兵数。


 この日の為に、余はあの屈辱を晴らすために耐えてきたのだ。

 兵達の数は、総勢4万。

 ニュールンベルクでの現地徴兵が2万。

 合わせて6万の大軍である。

 まずもって、数で負ける要素はない。

 

 もちろん、数だけに頼ってはおらぬ。


 敵に火縄銃がある事は分かり切っているので、その対策として竹束を持たせている。

 

「陛下、あのような竹束が役に立つのでしょうか?」


 これは、以前作る様に命じた時に参謀が漏らした一言である。


 竹束は、戦国期に日本で作られた鉄砲から身を守る防具だ。

 そこまで歴史に詳しい訳では無いが、かつて見聞きしたマンガなどの知識でも使わねばなるまい。

 

 この世界に来てすでに40年。

 たかだかぽっと出の若造に何度も負けてやる訳にはいかないのだ。


 

 余がこの世界に来たのは、40年前だった。

 当時弱小国家だったこの国の王子として生を受けたが、正直絶望しかなかった。


 その当時の余の食事は、マメのスープに黒いパン、カラカラに乾いた魚の燻製だけで、とても王族の食べる物とは思えないものばかり。


 そんな貧しい国で少しでも食べられる様にと、トウモロコシの類似品を探し出して普及させ、ジャガイモを見つけて普及させることで、徐々に国力を上げてきた。


 兵士は当時1万も居らず、年中ニュールンベルクからの侵攻に怯え、隣国を頼って外交しながら耐え忍んできたのだ。


 そのお陰もあって一昨年には念願の宿敵を倒し、天下統一への道が見えた矢先に敗北。

 天下統一が一旦は遠のいてしまった。


 だが、今度はそうはいかん。

 敵が火縄銃を持ち出すなら、こちらは徹底的に防具を開発して、威力を削ぎにかからねばならぬ。


「……また、阻まれてなるものか! 必ずや、必ずや天下を統一してやる!」


 



ウィンザー国 ロイド


 ついに帝国動くという報告が、俺の元に届いた。

 報告の中で気になったのが、敵の持っている竹束だ。


 竹束は戦国期に開発された盾で、火縄銃の弾丸を逸らす役割を持っている。

 もっとも、火縄銃の弾に施条ライフリングがされていないことで、貫通することなく防げたのが普及の大きな要素だ。

 

「まぁもっとも、うちの弾もまだ文字通り、弾丸なんだけどね」


 もちろん、この1年を漫然と過ごしていた訳では無い。

 発明における素晴らしいものとしては、早合が開発された事が1つある。

 早合とは、紙の包みに弾と火薬を詰めたもので、個別に入れるよりも遥かに速く弾込めができる。

 

 そして、もう1つは褐色火薬が開発できた事だ。

 従来の黒色火薬は、威力は高いものの、少しの衝撃で暴発する危険性があったので、扱いが非常に難しかった。

 それに比べて褐色火薬は威力こそ少し落ちるが、暴発する危険性が格段に下がったもので、扱いやすい。

 この褐色火薬を作った事で、俺としては後装式銃、所謂リボルバー式の銃を作りたかったのだが、薬莢と椎の実型の銃弾が上手く作れずとん挫している。


「はぁ~リボルバー式があれば、敵の竹束も貫通できたんだが……。まぁクヨクヨしても仕方ないか」


「それよりもロイド様、こちらの設備の点検の依頼を」


 そう言ってコーナーが出してきたのは、超巨大連弩の資料だ。

 あれから色々と試行錯誤――主に森林破壊――が繰り返され、当初5本の杭を発射する装置は、3本の杭を発射する装置になっていた。

 この変更の主たる理由としては、5本も杭をセットするのは時間がかかり過ぎて意味が無い、という事。

 3本セット型でないと、設置するのが施設の大きさ上不可能という事もあっての事だった。


「これもなぁ、使えるのがマリーとドーソンさんだけってのもな……」


 この連弩、その巨大さ故扱える人間を限定し過ぎており、現在我が国で扱えるのがドーソンさん、マリー、バリス、マルコの4人だけなのだ。

 まぁ、マリーが入っているのが一番訳がわからないが、扱えるのだから仕方が無い。


「とりあえずで作るからこうなるんです。次からは計画的にですね――――」


 と、コーナーに言われると「ごめんなさい」としか言いようがないのが現状である。


 ただ、威力は折り紙付きで、以前そこそこの集団に成長していたゴブリンの団体を一射で混乱させ、二射で壊滅させていた。

 その事から考えても、使い方次第では頼もしい兵器と言える……、はずだ。


「兎に角だ、敵がこちらに南下してきているんだ。準備は最大限整えるぞ」


「……はぁ、また財政が悪化するのですね」


「あぁ、特に今回はかなりの打撃を被るだろうな」


 俺の一言に、コーナーはより一層大きなため息を吐きながら政務に励むのだった。


本日から第6部です。

これがこの物語の最終章です。(エピローグは除く)


最後までご後援よろしくお願いしますm(__)m

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