1‐3
今回は各人物の思惑です。
物語は徐々に加速していく・・・はずw
ハイデルベルク王国 ドレストン男爵領 ドレストン男爵邸
先日、領地の端にある名前も忘れた村から援軍要請が来た。
家宰が言うにはなんでもゴブリンの群れに襲われたとか。
現在のわが国は、隣国ニュールンベルク王国と一触即発の緊張状態が続いており、各貴族にも参陣の命令が届いていた事もあり、打ち捨てる事にした。
そんな事もあり、居留守を使っていたのだが、あまりにもしつこく懇願してくるので、家宰に命じて領内の新兵と使えない老兵20名を援軍名目で貸し与える事にした。
それからニュールンベルク王国との緊張も緩和し参陣命令が取り消されたので戻ってきたが、家宰から衝撃的な報告を受ける事になった。
「なに!?たった50人程度の村でゴブリン100匹を撃退しただと!?」
「はい、兵を貸したゴードンという村の者が言うには援軍は必要なくなったのでお返しすると言って先日連れ帰って来ました」
う~む、あまり使い物にならず、領内でも面倒事の種になりそうなのを選んで送り付け、あわよく死んだらその分税をふんだくってやろうと考えていたのだがお釈迦になってしまった。
「ところで、その村は今年の税は収めていたか?」
「はい、ギリギリではありましたが、麦で納税しております」
「……そうか、流石にそれ以上やっては寄り親に怒られてしまうな」
「はい、これ以上搾取すれば恐らくウォートン伯爵様にお咎めを頂くかと」
家宰にそこまで言われてはどうしようにもなく、ドレストン男爵はロイドの村については棚上げにするのだった。
ハイデルベルク王国国境付近 街道
ロイドの村を出発してから3日後、国境付近の街の近くまで来たスフォルツァ商会の隊商は、ロイドの話でもちきりだった。
「しかし、姐さんよくあんな辺鄙な村に行く事を了承しましたね」
「ん?あぁまぁ足元見られたからね。それにあいつの交渉上手いのよ、最初に無理な要求してきて後でギリギリ飲めそうな要求を出してきてどっちかだけだって言ってくるのよ?そりゃ後者を取りたくもなるさ。……って姐さん言うな!番頭と呼びなさい!」
そう言うと、姐さんと言ってきた男の頭をドローナは拳骨で殴った。
「うぇ~そりゃかなり悪辣ですね。けど知恵の回る男みたいですね?」
「あぁ、知恵はかなり回るみたいだ。しかもあれで年が16,7だろ?将来絶対化けると思うから、今から唾付けとくのもありかもしれないね」
「そうなると、今回の手形が役に立ちそうですね」
そう言われてドローナは手形を見ながらニヤリと笑った。
「確かにそうだな。あの村がこれから発展していって、上手くいけば御用商人とか店舗出せるかもしれないからね。よ~しそうと決まったら頑張るわよ~!」
「へ?頑張るって何をです?」
いつもなら理解の遅い部下に苛立つドローナだが、今回は自分の発想に得意満面になりながら教えた。
「あの村への支援よ!必要そうな物を仕入れて売りさばいてこっちもあっちも得するWINWINの関係を築くのよ」
「なるほど、確かにあの村何もない感じでしたからね」
男たちは村ののどかさを思い出していた。
「そうと決まったら!みんな頑張るわよ!」
ドローナの掛け声に部下の男たちは声を合わせて気合を入れるのだった。
ハイデルベルク王国国境付近 酒場
ハイデルベルク王国の国境の街の酒場で一人の男が酒を飲んでいると、悪酔いして管を巻く女が仲間と一緒に大声で話していた。
「くそ~あの村の村長!なんだって私があんな辺鄙な所に2ヶ月に1回も行かなきゃならんのよぉ~」
「まぁまぁ、姐さんそんなに言わないで、さっきまで傑物だって褒めてたじゃないですか」
「そうですよ、村人たったの50人でゴブリンの群れを撃退したすごい奴だって言ってたじゃないですか」
「うぅ~確かにそうだけど、でも思い出したらくやしぃのよ~それにあんた!姐さんて呼ぶな!番頭って呼びなさい!番頭って」
男は彼女たちの話に興味を持ったのか、酒瓶を持って近づいて話しかけてきた。
「お姉さんたち、その話くわしく聞かせてくれないか?」
「あんた誰よぉ~」
突然割って入ってきた男に彼女は怪訝な表情をした。
「ん?俺?俺は旅の者だよ。次に行くところを考えてたんだけど、お姉さんたちの話が面白そうだから聞きたくなってね。教えてくれない?教えてくれたらこの酒瓶の酒残り全部あげるよ」
男はそう言って酒瓶をみせると、少なくとも銀2枚はする高級酒が半分以上残っているのが見て取れた。
「あぁ!これロマネスクの酒じゃな~い。もらえるの?やったぁ~」
「あ、ちょ番頭、良いんですかい?話すって事ですよ?」
「んぁ?良いの良いのどうせ今はあそこ大したもの無いしぃ~」
完全に酔っている女番頭を尻目に男は隊商の男たちに話を聞いた。
「へぇ~って事はあれかい?柵とその堀?とかっていうのだけでゴブリンリーダーの率いる100匹の群れを撃退したのかい?」
「おう、そうらしいぜ。そこの村長がまた若いんだが、疑うなら村から少し離れた所にある石碑を掘り返したら分かるって言ってたし、村も襲撃にあったみたいであちこち壊れている家が見えたよ」
「それは興味が出て来たな。よし、ありがとうな酒は……」
お礼を言って酒を男たちに振る舞おうとした彼は女番頭の方を見ると、彼女がラッパ飲みして最後の一滴を口に入れるところだった。
「残念ながら彼女の胃の中だな。まぁこれで適当に食うか飲むかしてくれ」
そう言って懐から銀1枚をテーブルに置いて出て行くのだった。
隊商の男たちは、出て行く男の後姿を見送りながら、気前のいいやつもいるもんだと感心しながらも、床に寝っ転がって潰れてしまった彼女をどうしようかと悩むのだった。
評価、感想、ブックマークをよろしくお願いします。
今後もご後援よろしくお願いします。