キツネのヨメイリ
キツネのヨメイリだ。
そう、君が笑う。
僕には何がおかしいのか分からない。
「お嫁に行く狐は、
悲しいのかな、嬉しいのかな。」
そう、君はたずねる。
知らない。と、僕は言った。
そんな時、
軒下に雨宿りする僕とは違って、
君は、狐の嫁入りになると、
子供のようにはしゃぎ出す。
揺れる木々も、
白く光るアパートも、
うるさいはずの蝉時雨も、
その時だけ、全てが君のものになった。
そうなった君は美しい。
世界で1番美しい。
唯一、それに気がついている僕の胸が高鳴っている。
そんな君自身に気がついていない君は、
すごくタチが悪いと思うよ。
こんなありふれた瞬間に、
僕は幸せなんだ、と心から思う。
だけど、この幸せが10年、20年先も今みたいに感じることは出来ないのだろうと思うと、今をずっと僕のものにしたくなる。
わがままだって分かるよ、
でもどうにもならない。
だって、君はこんな雨の中でも、
すたすたと歩いて行ってしまうけど、
僕はいつまでたってもこの傘の下だ。
追いつけないよ。
今日、7月7日 晴れ
誰かの心に雨が降る。
「悲しいのか、嬉しいのか」
なんて、決まっているじゃないか。