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廃校へ

 警視庁のとなりに警察庁と総務省の庁舎があり、その二階にラウンジがある。同じフロアに公安があって、公安と警視庁の捜査一課とは仲が悪いのだが、おかげでこのコーヒーラウンジには警視庁関係者が来ないらしい。

 奈央に呼び出された、根岸の階級は警部。

 誘拐を扱う特殊犯捜査第一係第三班の班長らしい。ボクは警察の組織がいまいちよくわからないのだけど、この複雑な機構も勉強しないといけないのだろうね。

 どんな、強面の男が来るのかと思ったら、スリムな体型の優しげな風貌のメガネ男子だった。

 堅苦しい髪型に撫でつけているが、後れ毛が額に垂れ下がっていて、ちょっと男の色気を感じさせる。

 水商売の女性にモテるタイプだ。

「忙しいのに、ごめんね」

 奈央が、ちっとも申し訳ないという様子も見せないまま、棒読みで謝る。

「今、事案抱えているわけじゃないから、いいですよ」

 爽やかにそう答えながら、ウエイトレスにアイスコーヒーを頼む。

「彼が、新しいパートナーですか? はじめまして、根岸です」

 席に座るなり、彼はボクをみて笑った。

「山本です」

 ボクはそう答えて、握手するために差しだされた手を無視した。利き手を預ける握手の習慣は、拳銃使いとして教育を受けたボクにはない。

「ゴルゴみたいですね」

 根岸が、気を悪くした様子もなく、手をひっこめて笑う。ゴルゴとは、あまりコミックスを読まないボクでも知っている、架空の狙撃手スナイパーのことだ。

 へらへら笑っていやがるけど、こういうやつは信用できない。何か、悪意のようなものがあって、いくら爽やかな笑顔を振りまいても、苦みのようなものが舌に残るのだ。

「例の『児取鬼』の事案。これ見て」

 いつの間にとったのか、動画でメッセンジャーとなった男がしゃべっているのが、スマホで再生されていた。

 根岸の顔が、一瞬で犯人を追跡する猟犬の顔になった。

「また、『信奉者』ですか」

 この男は、奈央が取り扱う特殊な事案の事を知っているみたいだった。

「確保したけど、多分叩いても何も出ないと思うよ。そして、これ……」

 メッセンジャーから受け取った封筒を、差しだす。

「フェイクかもしれないけど、ひょっとしたら本当に誰かを誘拐しているかも。だとしたら、猶予は一週間。また、子供が一人食われるよ」

 闇色の眼で、淡々と真央が言う。

 根岸は、配膳されたばかりのアイスコーヒーを一気に飲んで、席を立った。

「了解です。行方不明の事案がないかどうか、片っ端から洗ってみます」


 奈央がその後向かったのは、信濃町にある廃校になった小学校だった。

 東京の中心部はドーナツ化現象の影響で、昼間人口は多いが夜間人口は少ない。つまり、人が住んでいないのだ。したがって、いくつか小学校が廃校になっている。

 その一つが東京都の管轄になっていて、取り壊されることもなく、誰かに売却されることもなく、放置され、忘れさられた空間になっていた。

 奈央が手袋を外した右手で触れると、門を塞いでいた南京錠が音もなく外れる。

 我々は、廃校の中に入っていった。

 内部は、全く荒れておらず、侵入者による落書きや破壊の跡もない。埃だけが静かに降り積もっているだけだった。

「無意識に人が避けている場所が、あるんだよ。今、いろいろ話題になっているパワースポットの逆バージョン、負のパワースポットみたいなものだね」

 奈央が地下に向かうドアに手をかける。ロックは音もなく外れた。

「ここが、そうなんだよ。山本は、究極の霊的不感症みたいなものだから、何も感じないかもしれないけど、普通の人はここに来ただけで、吐き気や得体の知れない恐怖感に襲われるの」

 恐怖は、人間の防衛本能に直結している。

 この場所は、その防衛本能を刺激する何かがあるということなのか。

「これが、その正体。ここに封印されているのが、これ」

 奈央の右手が、何の変哲もない壁面を撫でる。

 すると、さらさらと砂が流れるように、壁面が溶けて行く。

 そこには、黒檀製の扉が現れたのだった。

 そして、硫黄のような匂いも、急に漂う。

「気を強く持ちな。取り込まれたら、死ぬよ」

 何の説明もないまま、奈央が扉を開ける。

 硫黄の匂いが強くなった。

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