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新宿御苑

「御苑に向かってますけど、どうやって中に入るんです?」

 念のため、ボクは姫様に聞いた。

「乗り越える」

 相変らず怒りながら奈央が答えた。やっぱりね。そんなことじゃないかと思ったよ。

 ボクは支給されたスマホを取り出し、検索をかける。新宿御苑の管轄は環境省だ。

 ボクは登録されていた斎藤の電話番号にかけ、いかにも眠っていたらしい斎藤に向かって、環境省経由で新宿御苑の管理事務を呼びだして、開けるように指示するよう依頼した。

 現場から逃げて消えてしまうような奴は、こき使ってもいいだろう。

「まったく、勤務時間外なんだけどね」

 斎藤が文句を言っていた。

「偶然ですね、ボクもですよ」

 そう嫌味をひとくさりして、電話を切る。

 ジャングルブーツの足音も高く、憤慨しなら歩く奈央の背中にボクは話しかけた。

「左手骨折してるんで、柵よじ登るとか勘弁してもらいます。正面玄関のカギを開けてもらえるようにしましたので、そっちに向かいましょう」

 返事は「ニャア」だった。

 何事かと、目を向けると、いつの間にかあの真っ黒な猫が奈央の肩に乗っていて、いかにもボクを見下したような目で見ていた。

 斎藤伝鬼坊とかいう偉そうな名前をつけられた猫だ。今までどこに行っていたのか、そしていつ現れたのか、ボクには分からなかった。


 肩に黒猫を乗せた怒れる姫様は、いかにも押っ取り刀で駆け付けたような、公園事務所のおじさんが待つ正面玄関に到着した。

 ボクのような死刑囚を、生きたまま連れ出すような連中だ。公的機関にコネクションがあるのだろうと踏んでいたのだが、その通りだった。環境省までその力が及んでいるかどうかわからなかったのだけど、結果オーライだ。

「ご苦労様です。時間外にごめんなさいね。私たちが出るのを確認しないと帰れないなら、ここから最低でも二キロメートル以上離れた場所に避難していてね。鍵をあずけてくれるなら、その方がいいのだけど」

 えらく優しい声だ。ボクとの会話では聞いたことがない声だった。

 何事かと脅えていたおじさんは、安堵のあまり泣きそうな顔になっていた。何を、上司に言われてきたんだろうね。

「お帰りを、お、お待ちしています」

 震える手で、メモに電話番号を書く。

「これが、私の携帯の番号です。お電話いただければ、十分以内にここに戻ってきます」

 奈央はそのメモを受け取り、おじさんの背後を指差した。

「はやくお行きなさい。こっちを振り返ってはダメよ」

 我々は御苑に入り、おじさんは、入り口の鍵をしめた。

 そして、言われたとおり、足早に立ち去ってゆく。

「いくよ、山本。銃を抜け。撃鉄を起こせ」

「イエス・マム」

 ボクは思わずそう答えたが、帰ってきたのは小ばかにしたような斎藤伝鬼坊の鳴き声だけだった。


 全く人がいない夜の公園に、美女と二人っきり。本来なら、夢の様なシチュエーションだが、この闇のどこかに殺人鬼が潜んでいるのだ。

 それも、初めての特殊案件の臨場で出会ったような化け物だとすれば、月光に揺れる影もなにやら悪意に満ちているかのようだ。

「山本。『鬼憑き』と言われる者は、今日見たでしょ? アレがこの世界を自由に動き回るためのアバターなのよ」

 奈央は、斎藤の様に敵の存在を『鬼』とは呼ばない。

 まるでそれが『忌み言葉』でもあるかのように、『アレ』という抽象的な言葉を当てはめている。

「アレはアバターを操って、自分の願望を代行させるのだけど、アバターは自分が持ってるポテンシャルを超えることは出来ないの。だけど、潜在能力は最大限に発揮できる。人間が持ってる特殊能力、見たでしょ」

 バーテンダーの石田の探知能力は見た。最初の臨場の際の小さなガラス片が舞ったのも見た。あれは『念動』とかいうやつか。

「私たちが追ってる『児取鬼ことりおに』だけど、『鬼火』を使うわよ。触れられてはダメ」

 まぁ、最初の臨場がなければ、今の奈央の注意も「何言ってるのやら」だったけどね。『鬼火』が何かわからないけど、とにかく触られちゃダメなんですね。了解です。

 

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