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第五話「繋いだ手の、火傷してしまいそうな程の熱は」

 まだ元気だった中学生の頃。一人で下校している時に変質者にあったことがある。

 その変質者も見た目は、スーツを着ている普通のサラリーマン風の人だった。

 あたしに道を尋ねてきて、人が懇切丁寧に説明している目の前でおもむろにベルトを外し、ズボンを下ろしたのだ。

 初めて目の当たりにした、大人の男の人のそれを見たあたしの感想は「さつまいも!」だった。

 人ってそういう時に、意外と冷静になってしまうものである。

 ただ、それ以来さつまいもはあんまり好きじゃないけれど。

 そんな感じで、突然の出来事に身動き取れなくなっていると、にやにやとそれはそれは嬉しそうな笑顔でサラリーマン風の男が近寄ってきた。さつまいもをブラブラとさせながら。

 やばい、と思った時には既に両腕を掴まれていて、これは覚悟を決めて、この丸出しのさつまいもに蹴りをいれるしかないなー。うう、嫌な感触とかしそうだなー。とか考えていると。


「なにしてんだっ! このやろおおお!」


 という叫び声と共に、さつまいも男、もといサラリーマン風の男が凄い勢いで真横に吹っ飛び、道の脇の側溝に頭から突っ込んだ。

 一体どこからやってきたのか。

 それは彼が放ったドロップキックだった。

 さすがあたしの手下一号だけあって、それは中々華麗な一撃だった。……うちの流派にドロップキックなんてないけれど。

 ただ、それだけならかっこいい話で終わるはずだったのに。

 変態戦士サツマイモマンに両手を取られていたあたしは、そのままそいつに引っ張られる形になり、一緒に側溝に突っ込んでしまった。

「ああ! ごめん! ……その、大丈夫だった?」

 助けてもらっておいてなんだけど、恐らく、その時、あたしは物凄い形相で彼を睨んでいたのだと思う。

 さっきまでヒーローのようだった彼の顔が、みるみるいつも通りの情けない顔に変わる。

「えっと……。その……。怪我とか、ない?」

 そう言って、おずおずと手を伸ばしてくる。

 むすっとした表情のまま、彼の手を掴んで起き上がる。

 っと、見せかけて、

「どうりゃあああああ」

 奇声をあげて、彼を側溝に勢いよく落っことす。

 結果。見事あたしの不意打ちが決まり、体勢を崩した彼もサツマイモマンと同じように、べちゃっと嫌な音をたてながら側溝に頭から突っ込んだのだった。

 

 今、振り返ってみると。

 あれは、きっとあたしなりの照れ隠しだったのだと思う。うん。

 小さい頃から、犬のようにあたしの後ろをついて来ていた彼が、初めて男らしいところなんて見せたものだから、動揺して、あんなことしたのだ。うん。

 なーんだー。昔のあたし、可愛いところあるじゃーん。

 ……彼は泣いていたけれど。


 結局あの後、二人して泥だらけになりながら、泣きべそをかいている彼の手を握って家に帰った。

 一体、どっちが変質者に襲われたのか分からない。

 サツマイモマンは、あのまま泥に帰ったのか、あたしの奇声に恐れをなしたのか、気づいたら居なくなっていた。

 流石に中学生にもなって泣くのは情けないのか、彼は子供の頃のように大声をあげて泣く事はなかった。

 それでも、時折「っぐ……」と嗚咽を我慢しているような声が聞こえてきた。

 あたしは変質者に襲われたことよりも、彼が今まで聞いたことのない大声をあげて助けに来てくれたことや、その後のあたしのよく分からない行動や、それで結局いつも通り泣いている彼や、そういったさっきの出来事が頭の中でぐるぐる、ぐるぐるとしていて、なんだかイライラしていた。

 それと同時に、なんだか凄く恥ずかしくて、後ろを振り返って彼に文句を言ってやることも、いつもみたいに泣いていることをからかうことも……「ありがとう」と、ただその一言を言うことも、また出来なかった。


 ただ。

 

 繋いだ手の、火傷してしまいそうな程の熱は、死んだ今でも鮮明に、覚えている。


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