血で書かれた詩らしきもの
これが私の裁きであり、お前の贖いである。
私はお前に絶対の劫罰を宣告する。
お前は忌まわしき咎人である。
裁かれねばならぬ。
贖わねばならぬ。
覚めて呪われよ。
眠りて呪われよ。
思いて呪われよ。
為して呪われよ。
在りて呪われよ。
呪われて在れ。呪われて在れ。呪われて在れ。
呪いあれ。呪いあれ。呪いあれ。
常に呪われて在れ。
覚めて苦しめ。
眠りて苦しめ。
思いて苦しめ。
為して苦しめ。
在りて苦しめ。
苦しんで在れ。苦しんで在れ。苦しんで在れ。
苦しみあれ。苦しみあれ。苦しみあれ。
常に苦しんで在れ。
愛する者を殺せ。
親しい者を殺せ。
祖父を殺せ。
祖母を殺せ。
父を殺せ。
母を殺せ。
兄を殺せ。
姉を殺せ。
弟を殺せ。
妹を殺せ。
伴侶を殺せ。
恋人を殺せ。
子を殺せ。
孫を殺せ。
友を殺せ。
同胞を殺せ。
お前が幸福を願う全ての者を殺せ。
お前の幸福を願う全ての者を殺せ。
男よりも女を先に殺せ。
若人よりも老人を先に殺せ。
老人よりも幼子を先に殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。
お前は全てを殺し尽くさねばならぬ。
肉体を殺すだけでは収まらぬ。
精神を殺せ。
名誉を殺せ。
尊厳を殺せ。
ありとある考えうる全てを殺せ。
お前の使命は絶滅である。
これよりお前はそのためにのみ生きよ。
刹那たりともお前のための時は与えぬ。
全ての時をお前が愛しむ全ての破壊に充てよ。
道半ばに斃れることあらば生まれ直し、更なる仲間を見出して再び歩みを進めよ。
歩け、歩け、歩け。
歩け、アアスウェルスよ。
アアスウェルスよ、お前は休むことを許されぬ。片時も休むことなく示された道を歩み続けねばならぬ。
お前が道を歩き通すその時まで。
私がお前に赦しを与えるその時まで。
お前の罪を赦せる者は天地にただ私を措いて他はなし。ただ私のみがお前を赦すことができる。
禿鷹に肝を貪られる不死なるプロメテウスよ、お前にヘラクレスは現れぬ。何となれば、お前は貴きプロメテウスではなく賤しきアアスウェルスであるから。
歩け、歩け、歩け。
歩け、アアスウェルスよ。
お前が道を歩き通すその時まで。
私がお前に赦しを与えるその時まで。
裁かれねばならぬ。
贖わねばならぬ。
お前は忌まわしき咎人である。
私はお前に絶対の劫罰を宣告する。
これが私の裁きであり、お前の贖いである。
添付されたメモ
小世界図書館にて発見。禁帯出のため複製を入手。原典は藁半紙一枚に血で書き付けられた手稿。題名、作者名は記されておらず共に不明。執筆時期も不明だが、こちらは現物の状態や用語の表記から、数十年前程度と推測。有害な呪物と化していた。おそらく呪詛に用いられたもの。執筆自体が儀式となったのか、儀式の祈祷文として用いられたのかは不明。
しかし、建前上は加害でなく「裁き」と「贖い」である点、対象をプロメテウスやアハシュウェルスになぞらえる点から、同胞殺しを強いる邪悪なものでありながらも、決して純粋な呪詛とも思えない。仮に純粋な呪詛であったとしても、術者の解釈で正当な――ただし過剰な――制裁に転用可能であろう。
なお、純粋な文芸作品として批評すると、技巧面は極めて稚拙である。むしろ、技巧の欠如した者が技巧を凝らそうとした小賢しさが鼻につく。だが、背景事情も含めた全てを指して作品と呼ぶのであれば、手に取った者を蝕むほどの妄念を演出し得た原典は紛れもない芸術と言えよう。