HL短編 とある園芸部員と変態少女のおはなし
私は気が弱く引っ込み思案で、さらに人見知りなこともあって友達を作るのがとても苦手だった。
小学校でも中学校でも友達は片手で数えるくらいしかおらず、仲のいい友達は居ても親友と呼べるほど仲のいい人はいなかった。
言いたいことを上手く言えず、優柔不断で鈍くさい自分がいけないのだから、それも仕方ないことなのだろう。
だから高校に入学しても親しい人は出来ないだろうと思っていたのだが、幸いにも入学初日に同じクラスの友人が出来た。
やっぱり上手く溶け込めているとは思えないけど、それでも話すことのできるクラスメイトがいるのは大きい。
目立つようなことはせず、自分の意見を主張するようなこともせず、全て友達に合わせるような付き合いでも、構わなかった。
だってひとりは寂しくて嫌だから。そんなの、弱い自分には耐えられない。だから、これでいいんだって思いながら毎日を過ごしていた。
ある日、友達と一緒にお昼を食べていると、彼女がとある少女のことを話し出した。
なんでも女の子なのに同じ女の子にセクハラをするとんでもない人が同学年にいるらしい。
根も葉もない噂かと思いきや、その人は中学時代からセクハラをする変態女子として有名だったらしい。
被害者は数えられないほどいるらしく、胸を触られたとか、スカートをめくられたとかの軽いものはもちろん、
口にするのも憚られるようなこともしているらしい。あまりにも酷い行為を繰り返すから、その人は大勢の人から疎まれているそうだ。
友達は近寄らない方がいいよ、と忠告してくれたけど、その人とはクラスが違うし、選択授業も違うものをとっている。
階も違うから接点がないし、話しかける度胸もない。だから、万が一会うことがあったとしても、会話することなんてないだろう。
そう思っていたけれど、偶然にも彼女と会う機会が訪れてしまった。
初めてあの人と出会ったのは、一年生の時の、秋のはじめ頃だっただろうか。
小さき頃から花が好きで園芸部に入った私は、校舎裏にある小さな花壇のお世話をしていた。
校庭やグランドには立派な花壇があるけれどそっちは先輩たちがお世話をしていて、園芸部でただひとりの一年である私はこの花壇を任された。
任された当初は荒れていたこの小さな花壇も、今では見違えるように綺麗になって、美しい花をたくさん咲かせている。
この花壇の面倒を見ているのは私ひとりだけだし、校舎裏にわざわざ花を見に来る人はいないから、この綺麗な花たちを見てくれる人は誰もいない。
花を見るのなら立派な花壇がある校庭やグラウンドに行くだろう。わざわざここまで来てちっぽけな花壇を見ても虚しいだけだ。
でも、わたしにとってこの花壇は大事なもの。他の人がちっぽけだと思っても、私はそう思えない。だって、大切に育ててきた花たちだから。
だから毎日お世話をしていた。肥料を撒いて、水をあげて、雑草を抜いて、大事に大事に育てていた。
「……花」
「えっ?」
いつものように花に水をあげていたら、後ろから声が聞こえたので驚いて振り返った。
校舎裏にはいつも誰も来ないから凄くびっくりしてしまったけれど、その人は私の驚いた様子を気にも留めず近づいてくる。
そして私の傍に落ちていたプリントを拾い上げて覗き込んだ。あれ、私の傍になんでプリントがあるんだろ……全然気がつかなかった。
「この辺にもう一枚プリントがあるはずだけど、知らない? 風に飛ばされて探してるんだけど」
「ええっ、あ、ごめんなさいっ! ぷ、ぷぷプリントだよね、えっと、えっと……っ」
「いや、知らないんだったらいい」
「ご、ごめんなさい」
「べつに謝らなくていいよ」
無愛想な表情と、冷たい声。機嫌が悪いのか、それとも私が邪魔なのか。
彼女は私を責めているつもりはないんだろうけど、それでも気の弱い私は勝手に落ち込んでしまう。
少しでも役に立とうと思い彼女の探しているプリントを探すために周りを見渡してみたら、花壇の向こうに白い紙が見えた。
「あっ、あった! ちょっと待ってて、と、取ってくるから!!」
「え、ちょっと」
慌てて取りに行ったのがいけなかったのかもしれない。
急に駆け出した私は見事に花壇のレンガに足を取られてしまった。勢いがあった為か、簡単に身体が傾いてしまう。
目の前には大事に育ててきた花たちがある。そこに、私が突っ込もうとしていた。頭の中には、絶望の二文字しかない。
自分の身体よりも、目の前にある花のほうが心配だった。ずっと大切に育ててきたのに、自分の手で踏み潰すなんて、そんなの――!!
(嫌っ!!)
耐えられなくて、目を瞑った。
けれど突き出した手は地に着くことなく、ふわりと浮かんで止まる。
恐る恐る目を開けると、花壇の花は変わらず綺麗なままでそこに咲いていた。自分の身体も、どこも痛くない。
「あ、れ……?」
「……っ」
私の身体は誰かの手によってしっかりと支えられていた。これ以上、花壇の花に近づかせないように、がっしりと私の身体を掴んでくれている。
でも、掴まれているところが私の胸だったので、思わず大きな悲鳴をあげてしまった。
たいして大きい胸ではないけれど、それでも女の子にとって大切な部分なので。
「あ……ご、ごめん」
「だ、だだだだだ大丈夫っ! 私、むむ胸、小さいからっ!!!」
胸が小さいから何だというのか。そんな言い方じゃ、なんのフォローにもなっていない。
せっかく助けてもらったのだから、気まずい思いはさせたくなかったのに。ああ、だから、私は駄目なのだ。
「こ、ここここれっ! はひっ!」
「ありがと」
とにかく当初の目的であるプリントを取ってきて彼女に渡す。その時、プリントに書かれていた名前が見えた。
「天吹千晴、さん?」
「……そうだけど」
彼女は素っ気無く返事をして、私が差し出したプリントを受け取る。
私は、呆然とその様子を見ていることしか出来なかった。だって、彼女の名前を聞いたことがあったから。よく、耳にした名前だから。
そう彼女こそが、友達が近寄るなと言っていた、あの噂の有名人『天吹千晴』だったのだ。
女の子にセクハラをする変態な女の子。今だって、支えてくれたとはいえ胸を掴まれたのだ。もしかして、助ける振りをしてセクハラされた?
で、でも助けてくれたのは事実だし、セクハラされたとしても構わないというか。それに、わざとって感じでもなかった気がする。
もし意図的にされたとしても、臆病な私は何も言えないのだから同じことだろう。
「じゃあ、お邪魔しました」
「へ? え、あっ!?」
天吹さんはもうここに用はないと言わんばかりに背中を向けて立ち去ろうとする。
けれど、何かを思い出したように立ち止まった。
「そのオキシペタラム、綺麗だね。他の花も綺麗によく咲いてる」
「……っ!?」
こちらを振り返らずに独り言のように呟いて、彼女は帰っていった。
オキシペタラムは私が大好きな花で、この花壇の中で最も自慢の花だ。その花を綺麗だって言ってくれたことも、花の名前を知っていたことにも驚いた。
もしかして彼女は花のことに詳しいのかな。好きだったり、するのかな。
正直に言うと、天吹さんの第一印象は『不気味な人』だった。冷たい目をしてたし、素っ気ない態度は怖いし、相手を気遣うような口調でもない。
それに加えあの噂もあったから、みんなが彼女を遠ざけるのも頷けた。
けれど、彼女がくれた一言だけで、私はとても嬉しくて、ああ彼女は悪い人じゃないんだって思ってしまった。
噂どおりセクハラはされてしまったが、わざとではない気がするし、彼女はちゃんと謝ってくれた。
あの短い時間だけで印象が変わるなんて、単純かもしれないけど。
それでも、みんなが噂するような酷い人には全然見えなかったのだ。
それからしばらく彼女とは会うことも話すこともなかった。
もともと会う機会は殆どなかったのだ。以前のように偶然出会うか、どちらかが意識して来ない限りは会えないだろう。
あいかわらず私は目立たないよう誰かの陰に隠れて過ごし、波風を立てない友達付き合いをし、誰も来ない校舎裏の花壇をひとりでいじる日々を送っていた。
――あっという間に時は過ぎて、2年生になった。
これまた運よく中学時代にそこそこ仲のよかった子と同じクラスになれて、またこれで一年は穏やかに過ごせると安堵した。
新入生が入ってきて園芸部にも何名か後輩が入部したけれど、校舎裏の花壇は今まで通り私がひとりで世話をしている。
最初は寂しいと思っていたこの場所も一年経てば慣れてしまったのか、今では寂しいどころか心が落ち着くようになった。
この場所を、自分だけの楽園のように思っているのかもしれない。
「あっ、お水足りない……」
花にあげるお水が足りなかったみたいなので、もう一度近くの水道まで行くことにした。
水道のある校庭に入ると、園芸部の後輩たちが楽しそうに騒ぎながら花壇の世話をしている。
どうやら水やりをしているみたいだけど、たくさん水をあげてるみたいで花の周りに水溜りが出来ていた。
湿らせる位にしないと花が枯れてしまう恐れがあるので、それ以上は水をあげないほうがいい。
ちゃんと教えた方がいいのだろうけど、私は何も言えず、ただじっと見ていることしかできなかった。
楽しそうな雰囲気に水を差したくなかったから黙っていた。ううん、違う……出しゃばって、うざいと思われるのが怖かっただけだ。
後輩たちが帰ってから、あとでこっそり土を足しておこう。この場はひとまずそのままにして、水を汲みにいこうとすると――
「それ、水やりすぎ」
随分と前に聞いたことのある、冷えた声。
私ははっとして慌てて声が聞こえた方を向くと、思ったとおり、そこには久しぶりに見る天吹さんの姿がある。彼女を見るのは、何ヶ月ぶりだろう。
声を掛けられた後輩たちは、怪訝そうに天吹さんを見ていた。そして何かに気付いたのか、後輩の一人が「あ!」と声をあげる。
「この人知ってる! あのセクハラする先輩だっ!!」
「え!? もしかして、あの先輩たちが話してた人っ!?」
「ね、ねぇ、やばくない? 先輩たちがいるグラウンドに行こうよ……」
「う、うんっ」
後輩たちは彼女から逃げるようにこの場所から去って行った。もちろん、花壇の周りにあるジョウロやスコップは置いたまま。
もしかしたら後で戻ってくるのかもしれないけれど、そのままにしてはおけないので片付けることにした。
わ、ジョウロやスコップはいいとして、重たい肥料を袋ごと持ってきてる……これを抱えて倉庫まで運ぶのは大変そうだ。
二回に分けて運ぼうと考えて、まずは先にスコップなどの小物を手に取ると、花壇の傍においてあった肥料をなぜか天吹さんが持ち上げた。
「え、うぇええ!? あ、あ、天吹さん!?」
私が名前を呼ぶと、彼女は首をかしげて変な顔をする。
あ、もしかして私と会ったこと覚えてないのかな。どうして名前を知ってるのか不思議がってる、そんな顔だ。
会うのは2回目だし、初めて会ったのはだいぶ前だからしかたないけど、ちょっと寂しい。
「手伝う。私のせいみたいだから」
「そそそそんな、い、いいよっ、天吹さんのせいじゃ、な、ないからっ!」
「……迷惑なら捨ててそのまま帰る」
「めっ、迷惑なんかじゃないです! た、たた助かりますぅ!」
「ん」
天吹さんは肥料を抱えてさっさと歩いていったので、私も慌てて彼女の後を追う。
あまり力は強くないのか、肥料を抱えた腕がぷるぷると震えていたので持ち物を交換しようかと提案したけれど、却下された。
意地でも重たいほうを持ってくれるようだ。天吹さんって、意外と意地っ張りだったみたい。微笑ましくて、こっそり笑う。
彼女は相変わらず無愛想で、素っ気ないけれど……やっぱり、優しい人なんだなって、思った。
実際にこうして彼女と会ってみると、どうしてみんなが彼女を避けるのかわからなくなる。
セクハラをしている噂は本当みたいだけど、強引にやってるのではなく偶然のものなんだろうし。
2度目の出会いもあっけないものだったけど、私はどんどん彼女に興味を持っていった。
彼女のことが知りたくて、彼女の話題が出れば懸命に耳を傾けて情報を得ようとした。
勉強ができないとか、運動ができないとか、本当に些細なことばかりだったけど、それでも彼女に関わるものだったら嬉しかった。
次第にまた会って話したいと欲が出てきたけれど……それでも、自分から会いに行くようなことはしなかった。
なにしろ救いようの無いほど気が弱く消極的な人間だったので、そんな勇気は微塵も無かったのだ。
でも一年の頃に比べてクラスが近くなったおかげで、たまに彼女を見かけることがあった。会えた日は不思議と幸せな気分になれる。
天吹さんは同じクラスの円堂さんと仲がいいらしくよく一緒にいるのを見かけるが、一人でいることのほうが圧倒的に多いみたい。
ひとりが好きなのだろうか? ……寂しくはないのだろうか?
ずっとそう思っていたけれど、夏休みが終わって2学期に入り、少し経った時期に変化は起こった。
なんと彼女の周りに、人が増えたのだ。
傍にいるのはいつも円堂さんだけだったのに、もうひとり、金髪で青い瞳の少女が彼女に寄り添うようになった。
天吹さんは嫌な顔をしていたけれど、その少女はおかまいなしに彼女の傍にいた。嫌がられても、少女はいつも嬉しそうな顔で、幸せそうだった。
さらに少し経って、またひとり増えた。背は小さいけれど、とても胸の大きな女の子。その子も、天吹さんを慕っているのか、一緒に居るようになった。
その後に、同じ中学で同じクラスになったことがある平さんが、よく天吹さんと喧嘩しているのを見るようになった。
……あっという間に、彼女の周りは賑やかなものに変化していた。それだけじゃなく、彼女自身も変わっているように見えた。
以前は棘のあった冷たい声が、穏やかになっているのだ。無愛想な顔は変わらないけれど、たまに笑顔を見られるようになった。
彼女が変化したのもあってか、避けていたみんなの反応も以前と変わっていた。噂はそのままだけど、悪意のある悪口とか、かなり減った気がする。
まだまだ刺々しいけれど、みんなの天吹さんに接する態度が明るいものに変わっているようだった。
(良かったね)
友達囲まれている天吹さんは、遠くから見てもとても楽しそうに見えた。
(羨ましいな)
私にもっと勇気があったのなら、あの輪の中に入れただろうか。
もし入れたとしても、やっぱり今と同じように薄っぺらな友達付き合いしか出来ないのかもしれない。
隠れて、媚びて、言いたいことも言えないズルい私は、彼女の傍に寄る資格さえない。
(いいなぁ)
羨ましいのは友達に囲まれて楽しそうな天吹さんか。それとも、天吹さんと一緒にいる周りの人たちか。
どっちなんだろう。そんなの、どっちでもいいよね。どうせ私には、不相応なものなんだから。
何も考えないようにして、今日もいつものように花たちの世話をする。
水をあげて、肥料をあげて、生えてきた雑草を取り除いていく。だれもいない、校舎裏で……ひとりで。
「………っ」
どうしてだろう。
急に…寂しいって、思ってしまった。
ここ来てひとりで作業するのはもう慣れて平気になったはずなのに。
私には友達だってちゃんといる。薄っぺらい友達関係だとしても、ずっと前から続けてきたことなんだから、今更寂しいなんて思うはずないのに。
どうして。どうして、こんな虚しいの。こんなに、寂しいんだろう。
(寂しいよ)
誰か、と誰もいないのに、助けを求めた。
私をこの寂しさから助けてくださいって、そんな身勝手な願い、聞き届けてくれる人なんていないのに。
ほんと、救いようがない――――
「やっぱり、綺麗に咲いてる」
「え?」
いつ、来たのだろう。
伏せていた顔をあげて隣を見ると、天吹さんが花壇に咲いている花を眩しそうに見ていた。
どうしてここに…と聞こうにも聞けなくて、呆然と彼女を見つめていたら、天吹さんは私のほうを向いて微笑んだ。
「一年前と変わらず綺麗に咲いてるね、オキシペタラム。去年より増えてない?」
「えっ、え、えっと」
「覚えてない? 一年ちょっと前くらいに、ここで初めて会ったんだけど。その時も綺麗なオキシペタラムが咲いてて、印象に残ってたから」
「お、覚えててくれたんだ……」
「うん。この花、好きなんだよね。それにここまで綺麗なこの花を見られるのは、ここしかないから」
「わっ、あ、私もオキシペタラム、好きで……」
「そっか。実は、たまに見に来てたんだよね。ここの花壇」
「ええっ!? ぜぜ、ぜ、全然、気付かなかったっ!」
「あー、それは邪魔しないように……っていうか、ひとりになりたくてこっそり来てた訳で」
言われてはっと思い出す。
いつだったか、家の用事が忙しくて、数日ほど雑草を抜いてあげられなかったことがある。
用事が終わってからまとめて抜こうと思っていたので、しばらく雑草を放置していた。
そしていざ抜こうと校舎裏に行くと、雑草はほとんど生えておらず不思議に思ったことがあったのだ。
まさかあの時のことは、彼女がやってくれたんだろうか。
「しっかり手入れされてるから、他の花もすごく伸び伸びと育ってる。すごいね」
「そっそそそそそんなこと、ないよ!」
「あるよ。だって、この花まだ全然元気じゃん。普通だったら、もう枯れ始める時期なのに。
ほら、この花も。真っ直ぐ育てるのは難しいのに、しっかり上を向いてる。花びらだって多いし、色も鮮やか」
「う、うぅ」
「一生懸命育てたから、こんな風に育ってくれるんだよ。貴女のおかげで、この花たちは元気に咲いていられる」
「そう、かな」
「そうだっての。ちゃんと育てれば、花はちゃんと応えてくれるよ」
「……応えてくれるかな」
「当然」
私の言葉に、天吹さんは頷いてくれた。それから、すごく優しい瞳で私の作った花壇を見てくれている。
この人は、こんな優しい瞳をするんだって、初めて知った。あんなに冷たかった目が、まるで嘘のように、今はとても温かい。
口調だってずっと柔らかくなっているし、しっかり私のほうを見て話してくれる。
それはきっと、私ではない、誰かのおかげなんだろう。そう思うとちょっぴり苦しいけれど、今の彼女が幸せそうに見えるから、その誰かに感謝したい。
「あ、天吹さんって、お花好きなの?」
「好きだよ。自分で育てたりはしないけれど、無駄に知識はある、と思う」
「そうなんだ。あ、じゃあ、この花の花言葉とか、知ってる?」
「えっと、キンレンカは“困難に打ち克つ”かな」
「わ、すごい。じゃ、これは――――」
誰かと話すのがこんなに楽しいだなんて思わなかった。
いつも友達の話を聞いてばかりで、自分から話しかけることなんてなかったからドキドキするけど、すごく楽しい。
こうやって自分から言いたいことを話したら、友達はちゃんと応えてくれるかな。
息苦しかった友達との対話も、こんな風に楽しくなるのかな。
(頑張って、みよう)
上手く話せるかわからないけど、それでも伝えるんだ。
一回目が駄目でも、二回目を頑張って、それが駄目でも、諦めたりしない。何度でも、やるんだ。
そして、私も変わるんだ。誰かに必要とされる、そんな強い自分になりたいから。
貴女に見られても、恥ずかしくないように。
「あ、あのっ! わ、わ、私と、友達になってくれませんかっ!」
「え? それはいいけど……ま、いいか。それにしてもまたその台詞を聞くことになるとは……」
「?」
「こっちの話。で、そっちは私の名前を知ってるみたいだけど、私は知らないんだよね。友達の名前は覚えておきたいんだけど」
「あわわ、あ、ありがとうございますっ! 私の名前は――――」
ようやく踏み出せた第一歩。
それでも、大きな一歩だ。
「これからも、見に来ていい?」
「うんっ! もちろん!」
今はまだまだ始まったばかりだけど、一歩づつ、進めていこう。
そして
彼女がこの花壇の世話を手伝ってくれるようになるのは――――もう少しだけ、先のおはなし。