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WP&HL短編集+スピンオフ  作者: ころ太
WPスピンオフ
20/45

WPspinoff05 青春を謳歌する若者


私はごく普通に生きていると思う。

どこにでもある一般家庭に生まれ、優しい父と厳しい母に愛されて、時には怒られながらも何不自由なく暮らしている。

学校では多少問題を起こすものの良好な友人関係に恵まれ、勉強や運動の成績もそこそこいい結果を出し、楽しい学校生活を過ごしている。

悲しいことも、辛いことも、大変なことだって何度もあったが、それでも今の人生はとても普通で、ありふれたもののひとつだと思う。

他者は普通の日常より刺激のある波乱万丈な日々を好むのかもしれない。

繰り返される平凡な日常を変えたいと望んでいるのかもしれない。

それは、いいことなのだと思う。


けれど私は変化を望まない。今の平凡な日常がいい。親に呆れられ、先生に説教され、友人と馬鹿騒ぎしたりする毎日。それがいい。

誰もが意識せず毎日を過ごしている中、私は一日一日を噛み締めるように生きている。それは、普通の日々が何よりも大切で価値のあるものだからだ。


何気ない毎日を『普通』と認識し大切だと思えるのは、皮肉にも私自身が『普通』ではないからだろう。


普通ではない理由。それは、私が一度死んでいることだ。

正確には今の私ではなく、全く違う人間だった時に一度絶命している。

私……今ここにいる『椎葉光希』は、その死んだ人間の記憶を引き継いで転生した、生まれ変わりだった。

生まれた時から前世の自分がどのように生きてきたのかを知り、その全てを覚えている。

ゲームで例えるのならば強くてニューゲームといったところか。

普通なら空っぽのはずの頭に、前世で得た知識、技術、体験を持ってこの世に生を受けたのだ。

そのおかげで何をどうすれば上手くいくのか手に取るように分かり、要領よく生きてこられたわけだが……

それでも私は記憶なんて引き継いで生まれたくなかったと思っている。

みんなと同じように、一から記憶を蓄えていきたかった。ただの子供のように、何も考えず無邪気に生きたいと願っていた。

でも、生まれ変わって前世の記憶を宿しているせいで、記憶喪失にでもならない限り、その願いは叶わない。

どう足掻こうと、私の本質は変わらない。死んでも、簡単に治るものじゃない。それほどまでに私は醜く歪んでいる。

愛される喜びを知ったとしても、くだらない遊びがどんなに楽しいことか知っても、私の中の前世の自分は消えてくれない。

他人を見下し躊躇なく蹴落としてきた、そんな腐った人間の記憶を持つ私では、無邪気を演じることしかできないのだ。


それでも……それでも幸せだった。

普通ではない自分が普通の一部になれたことが嬉しくて、この生活がたまらなく愛おしい。

昔はあんなにも侮蔑し忌み嫌っていた生き方のはずなのに、今では、何に変えても守りたいと思っている。

だから、私は前世の自分に関係する全てのものと関わらないようにしていた。

ろくでもないものばかりだったから未練などなく、興味もないので断ち切るのは容易いことだった。

私はもう椎葉光希というひとりの女子高生だ。

前世の自分との関わりなど必要はなく、この第二の人生を邪魔されたくもない。


(――だから)


植田先生が言った人物の名前を聞いた時、危ないと思った。

彼女が婚約者だと口にした男の名前は、前世の私に深く関わりのあるものだったからだ。

……これ以上、先生の婚約の問題には踏み込まない方がいいだろう。

踏み込んでしまえば、底の深い泥沼に埋まって、そのまま沈んでしまうかもしれない。

自分だけならまだいいかもしれないが、私の周りを巻き込んでしまう可能性だってあるのだ。

今の日常を失いたくないのならば、このまま黙って見過すしかない。

けど、このまま先生があの男と結婚するのなら……きっと彼女は、幸せになれないだろう。絶対に。

鹿島のことをよく知っているからこそ、断言できる。


(他人の人生に口出しするのは、おこがましいことだ)


そうやって自分を納得させるしかない。納得できないとしても、強引に飲み込んでしまうしかない。

もう二度と関わりたくもないし、今の自分にできることなど限られているのだから。

植田先生はいい人だし気に入っているから出来れば幸せになってほしいけれど、リスクが怖くて手を出せそうにない。


(ほらね)


こうやってすぐ損得を計算して自己保身に走っている。染み付いて取れない、昔からの癖。

あーあ、吐き気がする。



「みっちゃん?」


プールサイドに座っていた私の元にあゆが泳いでやってきた。

ちなみに魚の鮎ではなく友人のあゆである。なんと彼女は泳ぎが苦手らしい。あゆなのに。

今日の体育の授業はプールであり、タイムを計り終えた後は自由にしていいと言われていたので、

私はプールサイドでのんびり物思いに耽っていた。

プールに浸けていた足を動かして水面を蹴ると、傍にいたクラスメイトたちが「ひっどーい」と可愛い悲鳴をあげる。うむ、余は満足。

先日テストが終わったばかりで開放的になっているのか、みんないつもよりはっちゃけているようだ。


「珍しいね、みっちゃんが真面目な顔してるの」

「そんな顔してた?」

「うん。それに大人しく座ってるから気分でも悪いのかなーって。ほら、いつもなら自由時間になると騒ぐじゃん。だからちょっと心配しちゃった」

「え? まじめに女子高生の水着を観察していただけですが何か?」

「心配して損したぁ!!」

「見てごらん。最近の女子高生は育ちが良くて実にけしからんね。年齢詐称してんじゃないの?ってくらいのダイナマイトボディ! やっべぇ!

 あーデジカメか携帯があればなーみんなの成長を撮るのになー残念だなー。あ……あゆはもう少し頑張りましょうね」

「先生――! ここに変質者がいます――!!」


む、失礼な。節度をわきまえる純粋な淑女に向ってなんてことを。

ほらーあゆの叫びを聞いて27歳独身Eカップ恋人なしの体育教師が律儀にもやってきたじゃないか。


「もう、また椎葉さん? 今日は何をやらかしたの?」

「またって酷い。今日は何もやってないですよ? 真面目に女子の水着姿を舐めるように観察してただけです。ね、健全でしょう? おっぱい」

「健全ではないと先生は思うの」


先生の胸も健全ではないと思うの。これみよがしに大ぶりの胸を揺らしおってけしからん。揉むぞコラ。


「やましい気持ちで眺めていたのではありません。みんなの成長をこの目で確かめ、心のフィルムに焼き付けていたのです。

 そう、これは言わば親心のようなもの。純粋に相手を想うがゆえなのですおっぱい万歳」

「よく分からないけど、最後に本音が漏れてるわよ」

「すみません、先生。みんなの素晴らしい水着姿を見せ付けられたせいか興奮しちゃって大変なんで保健室いってきますおっぱいおっぱい」

「もっとマシな理由は思いつかなかったの!? あと語尾におっぱいつけるのやめなさい!!」

「はーいサボり行ってきまーす」

「正直に言えばサボっていいわけじゃないのよ!?」

「ここで高まった興奮を処理しろと!? 公開プレイとか鬼畜ですね興奮します! あ、まさか先生…手伝って…くれたり……?」

「早く保健室に行きなさい。もう病院にいきなさい」

「はーい♪」


先生の許可も無事に取れたのでプールから脱出する。

泳ぐのは楽しいし心置きなく騒げる授業だから好きなんだけど、今日はみんなと一緒にバカ騒ぎする気分じゃない。

保健室に行って、少しだけ休ませてもらおう。そして、いつも通りの自分に戻るんだ。余計なことは、忘れてしまえ。


制服に着替えてから、そのまま保健室へ向う。

あ、保健室にドライヤーないかなぁ。タオルで拭いただけでまだ髪が濡れてるから結べないし、後ろ髪が気持ち悪い。

なんでうちの学校は更衣室にドライヤーを置かないんだろう。年頃の女の子のことをもう少し考えて欲しいよね。

学校の問題点を考えているうちにいつの間にか教頭先生の頭皮の心配していたら保健室に着いていた。わぉミラクル。


「先生~っ、胸が張り裂けそうなのでベットで休ませてくださ―――」


ガラガラーっとドアを開けて、そのままガラガラーっと元通りに閉めた。

だって意外な人が中にいたんだもの。やべぇ帰ろう。


「椎葉さんっ!!」


踵を返して逃げ出そうとしていたら、保健室の中から植田先生が出てきた。なんでこんなところにいるんですかね。


「体育の先生から保健室に行ったって聞いたから、迎えに来たの」

「いや~ちょっと性的な熱があって、火照った身体をやらしい養護教諭に慰めてもらおうと……」

「椎葉さん。聞きたいことがあるの」

「はい?」


いつもならプリプリと可愛く怒って窘めてくるはずなのに、今日はやけに真剣な表情で見つめられる。

ただ事ではない空気を感じたので、ふざけるのを止め聞く姿勢を正すことにした。


「その、さっき職員室でちょっとした会議があってね。その中で、貴女の名前が出たの」

「まあいつものことだよね。サボりまくってるから」

「うん……でも、今日はその件じゃないの」


私、何かしたっけ?

保護者呼び出しならわざわざ会議で取り上げないだろうし……退学はないだろうけど、ついに停学の処分でも出たとか?

今まで散々好き勝手やってきたから自業自得なんだけど、厳しい処分を受けるような酷いことはやってないはず。


「椎葉さん、よく第二棟の外階段の踊り場でサボってるよね」

「そだね。お気に入りの寛ぎスペースだけど」

「そこで……煙草の吸殻が見つかったの…だから――」

「なるほど。で、私がよくそこにいるから疑われていると」

「椎葉さんは確かによく問題を起こすし注意も聞いてくれないけど、それでも隠れて煙草を吸うような子じゃないもの。

 他の先生に何度も言ったんだけど誰も聞いてくれなくて、みんな貴女を疑ってるわ」

「普段の素行が悪いんだから、他の先生が疑うのは無理ないよ。むしろ私を信じてくれる先生がおかしい。ベストオブ変」

「え、ええっ!? そんなぁ」

「それで、こわーい先生方が職員室で待ってるんだよね。呼びに来たんでしょ?」

「う、うん」

「じゃあさっさと行こうか。うひひ、なんて言われるのか楽しみだね」

「……椎葉さん」


おろおろと心配している先生と一緒に職員室へ向う。

植田先生のお説教は聞いてて心地いいけど、他の先生方のお説教は正直あまり好きじゃないんだよね。普通、お説教は誰でも嫌だと思うだろうけど。

そんなわけで、つまらないなことはさっさと終わらせて早く自分のクラスへ帰りたいので、早足で歩く。

職員室の扉をノックしてから開けると、部屋の中央に教頭先生と2年の学年主任の先生が立っていた。げ、呼んだのは口煩いあの2人か。

これは面倒な話し合いになりそうだなと思いながら部屋に入ると、彼らは私に気付いて憤った表情を隠す気もないのかこちらをきつく睨んできた。


「椎葉! お前はまた授業をサボったそうだな!!」

「気分が優れないから保健室に行っただけですよ。それにこれから話すことは煙草の件なんでしょう?」

「ああそうだ! 未成年なのに煙草を吸うとはいったいどうゆうことだ! 停学ものだぞ!!」

「やだなぁ教頭先生。私まだ一言も煙草吸いましたなんて言ってませんよ」

「お前はよくあの踊り場にいるそうじゃないか!」

「あそこは日当たりがいいので、昼休みとかよく日光浴してるんです。それだけで喫煙していたなんて強引じゃないですか?」


あの場所は滅多に人がこない。だから頻繁にうろついてる自分が疑われるのは当然のことだろうけど。


「それに私は煙草を吸っていません。今まで一度も、吸ったことがありません」


煙草を吸ったことがないのはもちろん本当のこと。

前世で一度だけ試しに吸ってみたことがあるが、美味しいと感じなかったのでそれっきり。

これから先も煙草に手を出す予定はない。不味い上に身体にも悪影響だから、法律を犯して吸う意味がない。


「ふん、嘘をつくなよ椎葉! お前が喫煙しているところを目撃した生徒がいるんだぞ!!」

「それはびっくりですね。吸っていないのに吸っているところを誰かが見ていたなんて不思議です」

「不思議でもないんでもないわ! 目撃したのはお前と違い真面目で優秀な生徒だからな! 問題児のお前よりも信用できる証言だ!」

「はい、教頭先生。私も真面目で優秀だと思いますっ」

「成績は優秀だが真面目ではないだろうが! 忘れたとは言わせんぞ、過去にお前が起こした騒動の数々を!!

 頻繁にサボるのを筆頭に、お昼の放送ジャック事件! 体育祭での意味のわからん応援合戦! 去年の文化祭での火炎放射事件!他にも色々…っ」

「まあまあ、過去のことはこの際ドブに流してしまいましょう」

「流せるかぁっ! ええい、いい加減に喫煙をしたことを認めたらどうだ! これ以上嘘をつけば処分が重くなるだけだぞ!」

「確かな証拠もなく私を犯人だと決め付け、さらに処分を持ち出して脅し、強引に事態を収めようって腹ですか」


あーもう、教頭の残り少ない頭の毛を毟ってやりたくなったわ。

どうせ学校としては問題を大きくしたくないから問題児の私に責任を負わせてちゃっちゃと終わらせたいのだろう。


「証拠ならあるだろう! 目撃者がいるんだからな」

「証言が完全な証拠になるわけないでしょう。私が疑われるのは問題を起こす自分に落ち度があるので当然のことだと思っています。

 けれど、目撃した生徒が本当のことを言っているとは限らないでしょう? それにその証言とやらも、先生方の作った嘘かもしれませんし」

「なっ、お前は私たちが嘘をついていると言いたいのか!?」

「仮の話ですよ。そういう可能性があるということを提示したまでです」

「くっ! いい加減にしろ!! こちらには目撃証言がある。だがお前には無実を証明するものが何もないだろうが!」

「きょ、教頭先生っ!」


私と教頭先生の争いに、植田先生の震えた声が割り込んだ。

話を邪魔されて不機嫌なのか、教頭先生は彼女にまで悪意のある視線を向けている。……先生はまだ何も言ってないってのに。


「なんですか、植田先生」

「あの、椎葉さんの意見も聞いてあげてください。最初から、疑わないでください。もしかしたら誤解があるのかもしれません。

 それに彼女は問題の多い生徒ですが、根はとてもしっかりしている優しい子なんです。」

「はっ、植田先生は甘すぎる。だいたいね、貴女が甘やかすからこいつが調子に乗って問題を起こすんですよ。もっと厳しく躾けてもらわないと」

「それは、以後気をつけます。ですが、この問題に結論を出すのはもう少し待ってください。せめてもう少し、調べてください。

 私のほうでも彼女と話してみますので、一方的に決め付けるのは、やめて下さい」


深々と頭を下げる、植田先生。

ここまで頼まれてしまっては断れないのか、教頭は渋々といった感じで頷いた。


「……しかたない、少しだけ待ちましょう。椎葉のことは植田先生にお任せします。くれぐれも、宜しくお願いしますよ?」


暗に私を説得しろってことだよね。そこまで私を喫煙者にしたいのかこのハゲ。

今この瞬間、教頭の髪の毛を卒業する時に全部刈ってやろうと決めた。これはもう覆らない決定事項です。


「ありがとうございます。……とりあえず、椎葉さんは教室に戻って次の授業の準備をしてて。話は放課後にするから」

「はい」


退室しようと植田先生の傍から離れた時に、小さく「ごめんね」と申し訳なさそうな彼女の声が聞こえた。

どうして彼女が謝るんだろう。彼女は最初から私を疑っていない。それどころか、状況的に不利な私を庇ってくれた。

職場での立場もあるのに、教頭先生に意見してくれた。いつも私に振り回されてるくせに、それでも、守ろうとしてくれた。

むしろ、謝るべきは私のほうなのだ。


「………………」


迷いが生じる。

彼女がどこにでもいる普通の先生だったなら、こんなに迷いはしないのに。


自分の胸に渦巻く迷いを断ち切るように職員室の扉を閉め、早足で自分の教室へと向った。




「あーっ! みっちゃんどこ行ってたの? 保健室に迎えに行ったのにいなかったから帰ったのかと思った」

「さっきまで職員室で教頭先生とデュエルしてたよ。頭の光でライフごりごり削られたわ」

「あらら、また呼び出されちゃったんだぁ」

「それがさー、なんか私が煙草吸ったとかで、怒られたんだよね」

「はあ!? みっちゃん、煙草吸っちゃったの!?」

「目撃した人がいるらしいよ?」


あゆに詳しいことを全て話す。

すると彼女は腹を立てたのか、わなわなと肩を震わせていた。


「で、でも煙草なんて吸わないよね? そりゃよくサボるから不良っぽいけど、みっちゃんはそんなことしないもんね」

「このあんぱんに誓って煙草は吸ってません!」


売店で買った60円のあんぱんを掲げて、高らかに宣言する。

するとあゆは急に立ち上がり、真剣な顔で私を見た。


「だよね! きっと目撃したって証言してる人が嘘をついてるんだよ!

このままじゃみっちゃんが犯人になっちゃうから、まずはその人を探して問い詰めよう!」

「でも、目撃した人のことは教えてくれないと思うよ? 実質、その人の手掛かりはゼロだから探しようがない」

「うぅ……手当たり次第に探しても見つからないよね……どうしよう」


効率の良さそうないくつかの方法を考えていると、私の傍に一人のクラスメイトがやってきた。


「ひなたん?」

「その人、探すの手伝うよ。隣のクラスに噂話に詳しい友達がいるから、まずはその子に聞いてみる」


グッっと勢いのあるサムズアップ。私に任せておけと言わんばかりの、頼もしい表情だ。

お節介で有名な友人に感謝と敬意を込めて、私も同様に親指を立てる。うおおぉよくわからないけど燃えてきたぁ!!


「私も」

「え?」


肩を叩かれて振り向くと、クラスメイトが親指を立ててにっこりと微笑んでいた。

ひとり、またひとりと、クラスのみんながどんどん私の周りに集まってくる。


「はいはい!うちも混ざるー! 彼氏が不良グループと繋がりあるから探ってみるよんっ」

「じゃあ俺は年上の彼女に聞いてみっかな!」

「バッカ、お前この前別れたばっかじゃねーか! 俺と一緒に後輩に聞き込みだよ!!」

「じゃーあたしはググッてみるねー」

「私は仲の良い先生を揺すってみようかしら。ふふふ、どんな反応をするのか楽しみね」

「僕も僕も!」


おう、なんだこれ。いつの間にかクラス全員が協力を申し出ているじゃないですか。

予想外の大騒ぎになってしまい、私とあゆは2人でぽかんと間抜け面を晒していた。


「や、もちろん協力してくれるのは嬉しいけどさ。でも、手伝ってくれてもお駄賃でないよ? なんの得もないよ? あ、土下座はするけど。

 それに私は喫煙していないけど、それを信じてもらう為の証拠が何もないんだよ?」


「「「「そんなの必要ないじゃん!」」」」


クラスメイトたちはケタケタと笑う。私がまるでおかしなことを言ったみたいに、笑い飛ばしてる。なんだこいつら。


「お前はさ、そりゃやりすぎってくらい無茶やるし、問題ばっか起こすけど……いつだって、楽しいんだよな」

「そうそう。光希の暴走に付き合わされるのは大変だけど、すっごい楽しいのよね」

「うん。巻き込まれてたくさん苦労した気がするけど、いい思い出ばっかりだもの」

「俺たちクラスメイトじゃんか。誰もお前を疑ってなんかいないっつの」

「それに光希なら隠れて喫煙なんてしないよね。やるならもっと面白いことを盛大にやるもん!」


好き勝手言って、みんな頷く。

正面にいたあゆが、私の手をとって笑った。


「私も、同じ。無茶苦茶だけど、明るくて楽しい、そんなみっちゃんだから手伝うよ。絶対に、真犯人を見つけてやるんだから!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


クラスメイトたちの雄叫びが教室中に響き渡る。

すると騒ぎを聞きつけてやってきた他所のクラスの生徒たちが、窓からなんだなんだと覗いていた。

うちのクラスはよくこうして騒いで盛り上がることが多いので特段珍しいことでもないんだけど。

スミマセン、今日も騒ぎの中心は私です。


「よおおおしっ! みんなありがとう!! お礼に、今から脱ぎますっ!」


「「「やめろアホぉおおおおおっ!!!」」」


だって、どうやって恩を返せばいいのかわからないから。

色々なことを知った気になっていたけれど、まだまだ解らないことばかりだなって改めて思った。


だからこそこんなにも楽しく、胸が踊るのかもしれない。



……爆発しそうなほど嬉しいって気持ちはどう表せばいいのだろう。誰か、教えて欲しい。



「ひっ!? な、なに? この騒ぎ、なんなの!?」


クラスのみんなで騒いでいたら、次の授業の先生がやってきて烈火の如く怒られてしまった。

まずは何よりも先に、怒り心頭の先生を上手くなだめる方法を、知りたいと思う。



 

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