WPspinoff02 王様ゲーム
昼食をとってそれぞれ好きに過ごしているお昼休み。
自分の席に座って携帯をいじってると、仲のいい友達のアユが傍に寄ってきた。
「ねえ、みっちゃん! 王様ゲームやらない?」
「これまた随分懐かしいことを……やるに決まってんじゃーん!」
ぱっちーん!!
なんとなくハイタッチを交わしてみる。特に意味はない。いやぁ、ノリのいい友人を持って私は実に幸せ者だ。
ちなみにみっちゃんとは私のあだ名です。光希だからみっちゃん。安直だが結構気に入ってる。
私たちが騒いでいると、クラスメイトたちは「またアイツらか」と嘆息していたが、興味を持った女子たちはなんだなんだと集まってくる。
そして結局、6人ぐらいで王様ゲームをやることになった。人数は多いほうが盛り上がるし、ちょうどいい多さかも。
王 様 ゲ ー ム
それは参加者全員がクジを引き、ランダムで決まった王様が参加者に対して命令をする恐ろしいゲームである。
王様の命令は絶対で、どんな無茶振りでも拒否することは許されないという過酷なルールだ。
今回の参加者は全員が女の子なので「女王様ゲーム」と言った方がいいのかもしれない。
……ちょっと名前を変えただけで妖しいゲームに聞こえるけど。
「はーい、クジ出来たから皆引いて~」
クジはノートを破って作った細長い紙切れの先のほうに、それぞれ王様の印と1~5の数字を書いたものだ。
印と番号が見えないようにそこの部分を隠すように握り締めて、参加者に引いてもらう。
全員が引いた後、最後に残った紙切れが私のクジだ。
ドキドキしながら紙の先を見てみると、「3」の番号が書かれていた。
「じゃあ王様の人は手を上げて~」
「はーい!」
王様のクジが当たった子が楽しそうに手を上げる。
この子がどんな命令を出すのか、みんな怯えながら息を潜めて待っていた。
「ん~、それじゃ3番の人!」
3番ね。うんうん。
って、それ私じゃん。
うへぇ、いきなりご指名されるなんて今日はついてない。
周りを見てみると、私以外の人はホッとした顔してる。
さてさて、どんな命令が来るのやら。無駄とは思いつつも無茶な命令が来ないことを祈ってみる。
「3番の人は、植田先生の今日のパンツの色を確かめてきてくださーい」
「へ、変態!!」
なにその命令?なんでそんな意味わかんないこと命令しちゃうの?
先生の下着の色を知って何がしたいんだい!?まさかゴニョゴニョ(自主規制)かい!?
は!いやまて……これって冷静に考えてみると、結構簡単な命令じゃないだろうか。
だって先生に「今日のパンツ何色? げへへ」って聞くだけで任務完了なんだから。
マジでドン引きされるだろうけどね。まあ、いまさらかな。
「あ、もしかしてみっちゃんが3番?」
「そのとおり。んじゃまあ王様のご命令どおり、さくっと行って来ましょうかね」
「植田先生ならちょうど教室に入ってきたよ」
ゲームに参加していない友人が指差した先を見ると、何も知らずのほほんと暢気な顔をした先生がいた。
なんていいタイミング。わざわざ探す手間が省けたので良かったかも。
「あんまり先生いじめちゃだめだよ」
「心配しなさんなって」
友人はそれ以上何も言わず、苦笑いして机に伏せた。どうやらこれから昼寝をするらしい。
授業中も寝ていたはずなのにまだ寝るつもりなのかこの友人は。まあ、いつものことだから驚かないけど。
おっと、それより命令を遂行しなければ!
こそこそせず正面から先生の傍に近づいていく。
私の存在に気づいた先生は、珍しく真剣な顔をしているであろう私の顔を見て後ずさりした。
「ど、どうしたの?椎葉さん」
「………………」
私の意図が掴めなくておどおどしている先生を見ていたら、困ったことに悪戯心が沸いてきた。
このまま下着の色を聞けば簡単に終わるんだけどそれじゃあつまらない。
周りに人が少ないことを目線だけで確認してから、咄嗟に思いついた行動を実行することにした。
「失礼しまーす!」
「へっ!!??」
「とうっ」
私はその場にかがんで、先生の長いスカートの中に、自分の頭を突っ込んだ。
「!!!????」
「「「お前が変態だぁああああああああああっ!!!」」」
成り行きを見守っていたゲームの参加者とクラスメイトの叫びが聞こえてきたけれど、無視。
下着の色を確認してから、スカートの中から這い出る。
「ふっ、しかたないんだよ…悲しいけどこれって罰ゲームなんだよ…」
「いやいやいや明らかに命令された以上のことしてるよみっちゃんっ!? 聞くだけでいいの! 聞くだけで!」
「色は予想通り清純の白でしたね。柄はフリルのついたファンシー可愛い系……」
「わかった!わかったからそれ以上言うのはやめてあげてね! 先生ショックのあまり固まっちゃってるから! トラウマになっちゃうから!」
先生の方を見ると、可哀相なくらい顔を真っ赤にして涙目になっていた。
驚きのあまり思考がパニックになっているのか身体が硬直していて、よく見みればぷるぷると小刻みに震えている。
……あんれまぁ、やりすぎちゃったかな。こんなに可愛い反応をされるとは思わなかった。
ふむ。もしかして先生って、し
「ししししし椎葉さんっ!!!?」
「おおっ?」
ようやく動き出したみたいだけど、気が動転しているのか声が上擦っている。
真っ赤な顔のまま至近距離まで詰め寄ってきて、いきなり両肩を掴まれた。
何を言おうか迷っているのか、それとも言い難いのか、口をもごもごさせていた。
「い、いきなり何てことするのっ!?」
「実はみんなで王様ゲームやってて、そこの王様の子から先生のパンツの色を確認してこいと命令されちゃってさー。
ほら王様の命令って絶対だから拒否できないし? だから悪いのは私ではなく向こうにいる子で……」
「ちょっと責任押し付けないでよぉ!!先生のスカートに頭突っ込んで確認しろなんて言った覚えないから! 口で聞いてよ馬鹿!」
「しーいーばーさーん!?」
「てへっ♪」
笑って誤魔化すと、先生は恥ずかしそうに声にならない声で唸っていた。
「~~っ!! 椎葉さんは放課後…せ、生徒指導室に来なさいっ!」
「はーい」
居た堪れないのか、先生は逃げるように教室から出て行った。
楽しかったけど流石に良心が痛むので後から誠心誠意、謝ろうと思う。多分。
何だかんだで命令をやり遂げたので王様ゲームを再開しようと思ったら、予鈴が鳴ったので結局そのままお開きになってしまった。
皆はそれぞれ自分の席に戻って次の授業の準備を始めている。
(放課後…早く帰りたかったんだけどなー)
今日もまた生徒指導室でお説教のあと反省文をみっちり書かされちゃうんだろう。
あれ、でもなんて書けばいいんだろうか。いつもは大抵サボりだけど、今日はスカートの中に頭を突っ込んだことに対する反省文なわけで。
下着の色とか柄とか詳細を書いて感想を添えればいいんだろうか。ううむ……本当に書いたらどんな反応をするか気になってしまう。
それも面白そうで心惹かれるけど、あまり苛めて怒られるのも嫌だから真面目に書こう。
「それでは、授業を始めます」
すっかりいつも通りになった植田先生が教室に入ってきて、教壇の上に立った。
さっきの事などなかったように普通に授業を始めている。
「……!」
あ、目が合った。
やはりさっきの事を気にしているのか、先生は体を硬直させて顔をほのかに赤らめた。
恥ずかしそうにしてるのに、それでも私から目を逸らすことなくじっとコチラを見つめている。ん、これって睨まれてるんだろうか?
ほんの数秒の間見つめ合って、先に先生が目を逸らした。そのまま何もなかったように授業を続けている。
もしかしたらスカートに頭を突っ込んだことを相当根に持ってるのかも……こりゃ放課後のお説教が恐いなー。
少しだけ頬を染めて冷静を装っている先生の授業を聞きながら、私は見つからないようにこっそり笑みを作った。