少女旅業
――自分の世界はどこまでなのか。
彼女は私に問うた上で自分の答えを述べた。
曰く、それは自分次第なのだと。
自ら望めば、その両足でどこまでも行け、そして繋がれるのだと。
物草な私には理解しにくい回答だった。
私は何かを望んでいるわけではない。
だからどれだけ立派な足を持っていようとも、世界と繋がるなんてしようと思わなかった。
ただ彼女と共にあるのならそれだけで十分だ。十分だったのに。
世界を見たい、と言って彼女が国を出たのは1年も前のこと。
私を置き去りにするのか、と彼女を詰った。それでも彼女の意思は変わらなかった。
何度もごめんねを言う彼女と、泣き続ける私。
そしてとある春の日に彼女はふっと姿を消した。
私以外誰も理由を知る由もない。その私もどこに向かうかは具体的には知らない。聞きたくなかった。認めたくなかった。
誰も真実を知らぬまま、彼女は世界へ飛び込んで行った。
1ヶ月経ち、3ヶ月経ち、半年が経ち、気がつけば季節が一巡しようとしていた。
私に届いた彼女からの手紙は10通ほど。それが途絶えたのは春だった。
手紙から察するに、彼女は西に向かっているようだった。
私は町から出たことがないので、西に何があるかは知っていても当然見たことはない。
手紙の文字は非常に陽気で、彼女の世界が広がっていることが目にとってわかるようだった。まるで文字がタンゴを踊っているかのようだった。
見た、食べた、会った、笑った、泣いた、そんな言葉がずらりと書かれていた。
そして最後にはいつも決まって私の心配をしていた。
親友であり恋人であり、そして私の“はんぶん”だった存在。
私の胸に出来た穴は塞がりそうになかった。
だから私は決めた。彼女を追おう、と。彼女無しの人生なんて、私には考えられないのだ。
旅なんてしたことはない。もしかしたら失敗して、彼女を見つける前にどこかで死んでしまうかもしれない。
それでも、このまま待っているなんて出来なかった。その方が辛い。
そうして私は“はんぶん”を探しに行った。
○○○○○○
旅の行き先は彼女の手紙を手掛かりに道を進めていった。
農村で舌のとろけるような食事を食べたと書いてあれば同じものを食べ、サーカスを見たとあれば同じ団の演技を見て、路銀稼ぎに働いたとあれば同じ酒場で働いたりと、私は彼女の足跡をそっくりそのまま辿った。
私のいない1年もの間、彼女は何を見たのか、何を考えていたのか。
ただそれを知りたかった。
行く先々で彼女は色んなモノを残していた。
仲良くなった作曲家には歌詞を、住み込みで働いていた家には子供の名前を、そして訪れた町の人々には記憶を。
彼女の足跡を追えば追うほど、彼女の世界が広がっていくのが実感できた。
私には見せない一面もあって、それはすごく寂しい想いもしたけど、変わっていない面の方が多くて、結局は許せた。
彼女の道中は決して楽しくて心躍るようなことだけではなく、辛いこともあったのだとわかった。
移動は極力1人で行わないようにし、出来る限り信頼できるキャラバンに便乗していたようだ。当然の判断だ。女1人での旅路は相当厳しいものがあるのだから。
だが常にそれが出来るわけはなく、時には愚かな男共の餌食になることもあったのだろう。
事実、先日乗り合わせた輸送隊では彼女と思しき人物が乗っていたという話を聞いた。
曰く、隊の若い男に「輸送賃は身体で払え」と、無理やりに身体を蹂躙されたとのこと(後日、隊の長にその男は斬り殺されたらしいが)。
私が聞いてないだけで、他にもそういうことを別のところでされていたのかもしれない。
なぜなら私も知りもしない男に何度も無理やりに犯されたのだから。
行為の時は、空を眺めて時が過ぎるのをただただ待っていた。そして彼女のことを考えていた。
ああ、彼女と同じ道を進んでいるんだ、わたし。どこまでも。
○○○○○○
旅を始めて、彼女からの手紙が途絶えたのと同じ1年が経過した。
私の持つ唯一の手掛かり、手紙にはこの先の道を示すものはなかった。
そこからは私が選んだ道を進むしかなかった。旅の始まりは、再び。
山を歩けば見たことのない花が咲いていて、町を歩けばフシギな料理があって、心なしか人の言葉も少しずつ変わっていった。
1年で変わったと言えば、私に仲間が出来たことだ。と言っても人ではない。一角獣だ。
街道で怪我をしていたところを、私が便乗していたキャラバンの一員が見つけ、治療したのだ。
彼女以外の存在に懐かれることのなかったはずの私に、その一角獣はまるで友達のようにじゃれてきた。これも私の成長なのか。旅に出て、きっと私は変わったのかもしれない。
一角獣には「ローブ」と名付けた。立ち寄った町で見た本に書かれていた言葉をそのまま使った。古い言葉のようで、私には意味はわからなかったが。
ローブの体躯は、立ち上がれば人間の青年を超えるほどで、足も速かった。また、一角獣と言うこともあり、知能に優れ、たいていの脅威は彼がいれば乗り越えられた。
少し前までなら1人で歩くことを躊躇していたが、頼れる相棒は不審者から私を守ってくれ、その分だけ旅も楽になった。
手掛かりが皆無にも関わらず、不思議と彼女の足跡は追えた。
愛の力と言えればよかったのだが、実際にはローブによる功績が大きかった。
何の手がかりもない時に、一種のギャンブルとしてローブに道を選ばせてみたら、それが功を奏した。途切れかけた彼女への糸が見つかった。
その1件もあり、旅に行き詰まった時はローブの神通力に頼るようになった。
○○○○○○
現在確認されている中で、最も西にあるとされる『聖西壁』。
まるで壁のように立ちはだかる山脈を総称して呼ばれている。
山の折り返し地点くらいまでは行けるようだが、それより先には王国令により進めないらしい。未開の土地であり、また一般旅行者には困難な道が続いているためだ。
聖西壁の頂上、折り返し地点手前から見える景色は壮観だと、宿屋の主人が言っていた。
彼女はきっとこの山ですら登り、その目で景色を焼き付けたに違いない。
根拠はないが、そう思えた。ローブも山の方を見つめていた。だから私は登ることを決めた。
しかし、登る段になって少しいつもと状況が異なってしまった。ローブは急に喉をぐるると鳴らして、まるで行きたくないと言うように、私の手を拒んだのだ。
仕方ないので宿の主人にローブを預け、私は1人で行くことにした。
大丈夫、ちゃんと戻ってくるから大人しく待ってるんだよ、と私はローブを撫でた。
名前ほど、聖西壁は登りにくい山ではなかった。もちろん道がそれほど整っているわけでもないので、苦労したことはしたけれど。
数日かけて、ようやく話に聞いた折り返し地点に到達した。数人の旅人がいたので、ここがその場所なんだろう。
彼らの装束を見ると、恐らくは宗教関係者だろう。山には神様が住むと言われ、山脈信仰の礎となっているらしい。彼らは天に向かって手を合わせ、祈りを捧げていた。何かを神様から拝受出来たのだろうか、涙を流す人もいた。
彼らがそこまでする理由は全く分からなかった。それほど何かを感じる場所なのだろうか。彼らに続いて、その景色を見てやろうじゃないの、と前へ進んだ。
私は特に風景とかそういった曖昧なものには興味はなかった。ここまで登ってきたのも、彼女の足跡のためだ。それ以上でも以下でもない。
そのはずだった。
あくまでも私の主観の話だが、その景色は圧倒的だった。神様が住んでいてもおかしくないほど、絶対的な何かを感じさせた。
私は足から力が抜け、地面に膝を着いた。
疲労でも何でもない。ただそうしたかった。
急に胸が締め付けられるような感覚を覚え、感情が高ぶった。
そして自然と両手を合わせ、祈った。
それも、そうしたかったから。それだけ。
彼女はどこにいますか。今どこで何をしていますか。
彼女を追って旅を始めて、私は泣くことをやめた。彼女に会うまでに、少しでも強くなれるようにと、願いを込めていた。
だが、私の目からは涙がこぼれていた。ぼろぼろと、堰を切ったように流れるそれを、私は止められない。
彼女が言ったことを、一瞬で理解した。
私はここまで歩いてきた。きっとあの世界に閉じたままでは見れなかった世界が、ここにはある。
私は今まさに世界と繋がっているのだ。
きっと、そういうことなんだ。
いいよね。今日くらいは。私、頑張ったでしょう?神様だって許してくれるよね。
ずっと、ずっとあなたを追って来たんだよ。でもまだ追いつかない。
……会いたいよ、会いたい……!
私、強くなったんだよ。ねえ、話を聞いて。
神様、お願い。一つだけ願いを叶えてください。他には何もいりません。
ねぇ、もう一度だけ、会わせてください。
○○○○○○
私は気の済むまで祈りを捧げた。
泣きたいだけ泣いた。もう水分なんて残っていないかもしれない。
すっきりとした気分になり、私はその『聖地』を後にした。
そのまま下山をするつもりだったが、もう少しこの神様の住む山で、何かを感じた。
正規ルートからは外れて、少し脇道にそれて、ゆっくり下山しようと思った。
脇道は思っていたよりも歩きにくい道ではなかった。多少は人の流れがあるらしい。
時間はかかるだろうが、このまま歩けば麓の町にはちゃんと着くはずだ。
清々しい気分で歩いていた。こんな気分はいつぶりだろうか。
そんなことを考えていると、何かが視界のはじで光った。何だろう。
光の方に近づくと、それは木に刺さったナイフだった。
何でこんなところに刺さっているんだろう。道に迷わないように旅人が目印をつけたのか。
だが、この道は真っ直ぐ一本道。少なくとも人の流れは、ナイフの刺さった木の方にはない。
生い茂った草木をかき分け、その木まで進んだ。
何かこの先にあるのだろうか。私はナイフを見つめながら考えた。
結局好奇心に勝てず、予定をさらに変更して、道なき道を進んだ。
ナイフには何か意味があるのだろう。ちょっとだけ寄り道するならまだ問題ない。日もまだ天頂まで来ていない。
食料の備蓄も余裕があるから、一晩なら最悪保つだろう
それに私はやはり高揚していた。神様の住む景色を見て、どうも私の心は不思議な状態になっていた。
だから、明らかに山を下っているのではなく登っていることに気付いても、その足を止めることはしなかった。
すでにここは不可侵の土地。王国兵の存在に警戒しながら、どんどんと山を登っていった。
見つかったらきっと相当怒られるのだろう。
空気が変わったことに気付いたのは、日が傾いてきてからだった。
呼吸が苦しくなったわけではなく、においが変わってきたのだ。
温度が低いせいか、何のにおいかまでは判別できなかったが、感じる違和感。何だろう。
『聖地』のように整備されてはないが、ようやく全景を一望できる場所までやってきた。もう随分歩いただろう。
私は顔を上げ、目の前の景色を見渡した。そこには信じられない光景が広がっていた。
ひとつ山の向こうには、こんな世界があったなんて。
私の目の前には緑の色が広がり、鮮やかなグラデーションを描いていた。空には少し朱の色が強い太陽。
私が暮らしていた場所とは根本的に違う、まさに別世界だ。
空気に違和感を持ったのは、きっとこの自然のためだろう。身体の隅々まで行きわたるような、清らかさだけで満ちた空気と、それを生み出す自然。
私はまた泣いた。
ここに来て、よかった。
もし、彼女がここに来ていなくても、この世界を見ていなかったとしても、もう構いはしない。
でも、もう“はんぶん”の私にとって、私だけには絶対なものになった。
それで十分。
体中から湧きあがる活力。
だいじょうぶ、私はまだやれる。がんばれる。
その力を全部感じたくて、自分で自分を精一杯抱きしめた。
ぱぁん。
一体何の音だろう。いや、音だけじゃない。何者だ、と怒鳴る声が遠くから聞こえる。
音の正体に気付くまで数秒。左腕に残る熱はさっきの声が私に向けられたものと証明していた。私、撃たれたの?
掠めただけだが、痛みは強い。血が流れる感触が肌に伝わる。
遠くから多くの声が聞こえる。もしかして、私見つかった?
でも、撃つほどの何かがことだったの?ここには何があるの?
違うよ。今はそんなことどうでもいい。逃げないと、きっと殺されちゃう。
○○○○○○
1年かそこら旅をしたとしても、私はきっと普通の人と変わらない。きっとあいつらはバイキングとか王国兵だ。あいつらからこの山道を逃げるなんて出来ない。出来っこない。
逃がさないように抱きとめた活力も、血と一緒に流れていくようだ。かろうじて直撃はしてないけど、そんなのただの運でしかない。
ほら、やっぱり遠くから足を射抜かれた。痛いよ。熱いよ。
私はバランスを崩して、そのまま山肌を滑り落ちた。
なんで、なんでこんな目に合うの?
神様は私の願いは聞いてはくれないの?
もう、彼女に会えないの?
頬にざらついた感触の何か。
悲しそうな声で鳴く、あなたはだあれ?
私は何かに持ち上げられた。ああ、やっぱり見つかって捕まっちゃったんだな。
……違う、これはあいつらじゃない。この暖かな背中。優しい身体の匂い。
目を開けると、目に映ったのは鮮やかな銀毛だった。
ローブ、1人でこの山を登ってきたの?私を追ってきてくれたの?
私はローブの背に乗せられたまま、また視界が黒くなって、落ちた。
気がつくと、随分と暗い場所にいた。洞窟だろうか。
辺りを見ると、私を包むようにローブが横になっていた。
透き通る銀の色と、生きる力が溢れる赤の色。ローブの身体は2つの色に染まっていた。
身体がうまく動いてくれない。体中の色んな部分がぎちりと痛みを起こして、私が動くことを許してくれない。
動物にしか来られない洞窟ならいいけど、きっとそんなことはない。私を殺そうとまでしたんだ。この洞窟を含めて、この辺りは隅々まで把握されているはず。
いずれここにあいつらが来る。そのときに私が出来ることは、何もない。
そっか、私、ここで終わるのかもしれない。
ぐるると鳴く声。
鳴き声の主は、私の相棒じゃなかった。
洞窟の奥から、ローブより少し大きな一角獣が歩いてきた。
その歩く音に反応して、ローブが立ちあがった。
そのままお互いの角をこすりつけ合った。
まるで、ただいまとおかえりのような、そんな光景に私は思えた。
ひとしきり行為が終わったのか、仲間の一角獣はもと来た方へ戻って行った。
私をまた背に乗せ、ローブも彼の後ろを着いて行った。
仲間の一角獣が立ち止った先にあったのは、革で出来た袋だった。
誰か、私以外にここにいたのだろうか。
その袋は長い間ここにあったような摩耗をしていた。もう、持ち主はいないのかな。
ローブは袋を咥え上げて、その中身を地面に出した。
出てきたものはほとんどが古びていて、とても使えそうなものはなかった。
だが、その中で目を引くものが一つだけあった。一冊の紙綴りだ。
ローブの背から転がるように地面に落ち、それを手に取った。
『明日、私は旅に出る。私は私を知りたい。世界を知りたい。×××には反対された。きっと謝っても謝っても許してくれないよね。それでも、私は知らないまま死にたくない。私はわがままだ。どっちも手に入れようだなんて』
『いきなり試練が。路銀を全て獲られてしまった。働けそうなところはこの町にはないなあ。どうにかしないと帰る前に死んじゃう』
『雇ってくれた酒場はいろんなひとがいて面白い。材料は知ってるのに出来上がりが全く違っていて、そういうところも面白い。帰ったら×××に食べさせたいな』
『だいじょうぶ、私は元気。これ以上悪いことなんて起きないよ。気持ち悪くても、身体が拒否しても、私が折れなきゃそれでいいの。私は元気。 元気。元気』
『私が描いた絵を欲しいって言ってくれる人がいた。ただ花が咲いていて、空が青くて、それだけの絵なのに不思議だね。でもこれは非売品。ただ1人にしか売れない作品。×××にこの景色を見せてあげたいな』
奇跡、そんなことがあるの?これは彼女の日記。
絶望、じゃあ彼女はどこにいるの?
この日記を見た善し悪しを、今の私には判断が出来ない。
私の名前が出てきている。世界探せば私と同名なんて少なくない。でも、これは彼女だ。
私にはわかる。
どの紙にも例外なくびっしりと彼女の想いが書かれていた。
私が掴むことの出来なかった、私の知らない時間を過ごす彼女そのもの。
時折水を吸って滲んだ文字から、彼女の悲しみを知る。
読むだけで、彼女の姿が思い浮かぶよう。
紙綴りは、あるページを境に文字が見当たらなくなった。
『私はきっと殺される。神様って残酷だね。あんな景色見せといて、殺すなんて。でも、見なかったらきっと私は後悔していた。だから、もう私の中には何もない。悔いなんてカケラもない。違った、ひとつだけあった。家に帰りたい。もう誰もいないかもしれないけど、あの家に帰れないことが唯一の後悔。聖母のような名前のくせに、子供のように甘えてくる、かわいい存在。旅をして、離れて、やっぱり私はあなたが大好き。もう会えないから、いくらでも書くよ。好き、大好き。大好き。大好き。大好き。やっぱり嫌だよ、死にたくないよ。×××も一緒に、色んなものを見せたい。あなたの驚く顔を見たい。喜ぶ顔を見たい。死にたくない。大好き。ごめんね』
最後のページは、ところどころ血が染み込んでいて読めない部分もあったが、彼女の最期の言葉が、散らばっていた。
もう此処にはいない人の想いが、私には感じられた。
どこかで彼女がこうなっていることも覚悟していたから、不思議と悲しさはなかった。
彼女が何で死んでしまったのかはわからない。山で迷って、そのまま衰弱したかもしれないし、私と同じく誰かに殺されようとされたのかもしれない。
私ももう長くない。死ぬ間際まで、私に言葉を残した彼女に、私も手紙を書こう。届かなくてもいい。でも答えてあげたい。
ローブの仲間が洞窟の奥を示す。
そこには、骨があった。確信はないけど、きっとそういうことなんだ。
ごめんね、遅くなって。あなたが帰ってこないから、迎えに来たんだよ。
きっともうあの家には私たち帰れないけど。場所なんてどこでもいいよね。
だって、私たちが世界であり、世界が私たちなんだから。
○○○○○○
遠くで足音が聞こえる。
追手がもうすぐそこまで来ているのだろう。
私の両足はもう言うことを聞いてくれない。まともに動く右手で、紙綴りを岩陰に隠した。
私と彼女の言葉なんて、他の誰にも聞かせてなんかやるものか。
彼女の言葉も、身体も、心も、全部触らせない。全部私のだ。
神様。
どうか、私に彼女を守る力を与えて下さい。
さよなら。せかい。
ただいま、そしておかえりなさい。
もう、はなればなれはいやだよ。
だから、そっちにゆくから、わたしをむかえにきてね。
じゃないとゆるしてなんてあげないんだから。
○○○○○○
2頭の一角獣は事切れた少女を守るように、兵士たちの前に立ちはだかった。
洞窟内に響き渡る咆哮に、兵士たちは前に進むことが出来なかった。
しかし、狭い通路に置いて、銃撃ほど効果的なものはなく、徐々に一角獣も傷を増やしていた。
最後に立っていたのはローブ1頭のみ。兵士も、もう1頭の一角獣も死に絶えていた。
ローブは傷ついた身体を前に進め、洞窟の外に出た。
どこまでも届くような遠吠えを一つ。
それは誰に、何に、向けたものか。知る者は誰もなし。
世界は、まだ先に。
「自分の世界はどこまで?」という問いかけがあったんですが、「自分の足で行ける場所」という個人的に目からウロコでして、それがきっかけで書きました(ちなみに私は住んでる地域という非常に狭い回答を想像していましたw)。 西の先には何があるのか。ご想像にお任せします。 続きの構想はあるので、いつか疲労できればと思います。