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1話

残酷な描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。

この物語はフィクションです。実在の人物、法人等は一切関係はございません。


レジェンド Online 外伝 


1話



 鉄筋コンクリート5階建て賃貸マンションの階段を駆け上がる、会社の作業服が汗にじんでまとわり着いて不快に感じる。自分の腕時計見て時間を確認して、少し駆け上がるペースを落とす。


 三階に着くと階段のすぐ目の前の扉の鍵を開け、靴を脱ぎ捨てるように玄関からリビングへと姿を消していく。家具などの物が減ったのか壁紙の日焼け跡が微妙に違う所が妙に気になる。リビングの隣の障子2枚で区切られた寝室に入りVR・MMORPG専用に新調したPCの電源を立ち上げる。


 「ふ~~~~っ」


 どうせ間に合ってないと言わんばかりの大きなため息を一つ、汗臭い作業着を脱ぐ為にリビングとキッチンを横切り、キッチン奥の脱衣所に置かれる全自動洗濯機に脱いだものを片っ端からぶち込んみスイッチを入れる。洗濯機の上にある乾燥機の中から乾いたTシャツとブリーフ取り出してそそくさと着込み、また寝室へ戻るのだった。


 独りで寝るのにはふさわしくないダブルベッドのマットレスに腰掛け、周りを見回しす。その横に存在していたはずのタンスの形を思い出そうとするが、何色だったかも思い浮かばない。(こんなんだから出て行かれるのか?)と自己嫌悪する。


 「レジェンド」サービス開始から二時間が過ぎようとしている。女房が他の男を作って出て行って半年が過ぎていた。(…8年ぶりのVR・MMORPG、結婚期間と同じだな)と思い浮かべながら専用のヘッドセットを頭に装着して広すぎるベットへと身を投げ出す。吉田孝志は33歳は「レジェンド」へと潜って行く。


 


><><><><><><



 

 荘厳なオープニングに続いて、十勝?を思わせる風景が孝志の目の前に広がる。


 ”ポーン”という電子音声の後に「北にある狼族の村を探そう」みたいな事をアナウンスされ、クエストを受領した事を知らせる。


 (15時過ぎだったよな…)と潜る前に確認した時間を思い出す。


 「太陽は?」と確認すると真後ろから少し右側におてんとさまを見つけ、南西よりに傾いているはずと思い正面に向き直る。


 「山に雪が残ってる!」と口に出して、残雪の残る山の方角を目指して走り始める。


 「狼に!」一瞬で狼目線へ変わり、走る速度がアップしていく。


 「ううううううううううううううううううう! ワンワンになってるううううううううう!」


 口から発せられているのは、遠吠えのようになった狼の声。


 (8年でこんなにも…VRの世界が変わった~~~! なんか感動~~~~!)と思いながら枯れ草を足に踏みしめる感触と、渡って来る風に香る木々の匂いを鼻に感じ、狼独特の疾走感を楽しむようにジャンプとステップを織り交ぜながら走る。


 5分全力で走った所でスタミナが切れて休憩し、スタミナが回復したことを確認してまた全力で走り出すとスタミナ切れ寸前のところで狼族の村らしき所に到着する。同時に『走る』のスキルレベルがLv2へ上がった。

 村の入り口にある監視小屋のような小さな小屋の前にプレイヤーが群がっり、ちょっとしたデモが行われているような雰囲気がするが、MMORPGのオープン初日はこんなもんだろうと納得する。


 おもいおもいに揺らめくモッフモフのシッポが大量に…陽の光を浴びて構成する毛の一本一本がきらめいて、神秘的な何かを想わせる。


 (しっぽがああああああああああ! いっぱいだあああああああ!)孝志の頭の中がシッポピンク色に染まっていく。


 人の姿に戻ってシッポの群れの中に分け入り、目の前で振られるシッポを握ろうと手を伸ばす自分に気づいてはっとする。


 (いかん、いかん! これじゃあただの変体になってしまう! 自重! 自重!)言い聞かせるように両手を麻ズボンのポケットの中にしまいこむ。

 頭の上にFと表示されたNPCがたくさん並ぶ、(普段は一人なんだろうな)と孝志は思いながら、横一列に10人ほど並ぶNPCの一番すいてそうなNPCに声を掛ける。


 「ようこそ! たあにょいぬ?さん、『レジェンド』にようこそ!」


 「あ、たあにょ”けん”です」(いきなりまちがえるなよおおおおおおお!)心の中で叫び声を上げる。


 「し、失礼致しました! たあにょけんさんですね…申し訳ございません」深々と頭を下げたNPCはNPCらしくないというか、中身入り?を思わせる対応に微笑ましく感じる。「なぜ犬なんだ?」小声で呟かれた言葉はスルーする。俺が彼の立場なら多分そう思う…


 「GMさんも大変ですね!」


 「いえ…痛み入ります…あまりにもお客様が多いのでNPCの振りをして、対応させていただいております」言いながらも、システムを操作するような速さは、さすがと思わせるものがある。


 「チャートリアルは受けられますか?」


 「えっ…俺、海行ってサーフィンしたいだけなんだけど…受けた方がいいのかな?」


 「あまり戦闘をなさらないのでしたら、不要かと思われますが、Lv20以上にならないと冒険者達の集う町には行けない仕様となっております」


 「海にもMOB居るんだろうから一応受けときます」こたえに応じるようにNPCに扮したGMが説明を開始する。15分という長い説明を聞き終えるといきなりLvが5にアップした。


 「これから冒険者として旅をされるプレイヤーの皆さんに冒険者セットが送られます。

メール画面を選択しその中のプレゼントリストを開けると受け取ることが出来ます」


 言われるままにメール画面、プレゼントリスト受け取りを選択。HPとMPの回復丸薬が10個入り5個づつと初心者のナイフ、拡張用バック(イベントリー×10)と方位磁針が冒険者のバックに支給される。支給品の拡張用バックと方位磁針をそれぞれ使用すると、バックのイベントリーが10拡大され方位磁針は表示画面上のアイコンに方位磁針が追加される。

(これを押すと…)アイコンをクリックすると北の方向を示す赤い矢印が表示された。


 (何も無いよりはいい)と思い初心者のナイフをバックから取り出して鞘をベルトに引っ掛けて装備する。


 「サーフボード作れるようなって…木を削りださなきゃ作れないのかな?」どうしても聞きたかった事なのだ。


 「オープンしたばかりですので、現時点に於ける製造方法として考えられる方法は木からの、削りだしが一番容易かと思われます」


 「なるなる…」頷きながらも(面倒くせ~~~!)と思うが波乗りするにはそうするしかないと納得する。


 「サーフボードを削り出せるような大きな木は現在この周辺でしか伐採することが出来ません…この町は木工の町としての機能がございます。スキルを教える職人がNPCとして町の中に存在いたしますので、そちらから木工の技術を習得されるのが、近道かと思われます。材木の伐採のクエストもございますが、受注されますか?」


 「伐採の道具とかって? 斧とかのこぎりを自分で買って用意しなきゃならないとか?」


 「伐採の道具はクエストを受領することで、自動的にプレイヤー様のイベントリーである冒険者のバックへ入る仕組みになっております、伐採方法は受領したクエストの本文を確認されると、そこに表示されていますので、ご確認のほどよろしくお願いいたします」

 

 「じゃあ、お願いします」


 画面上にクエスト受領の表示がされ、確認の為思考操作でクエストの内容を確認する。


 「ちゃんと受けれましたよね?!」NPCの振りをしてるGMが、不安そうな面持ちでたあにょ犬を覗き込む。


 「あ、確認してました! OKです! ありがとう!」ちょこんと手を上げてGMに応え、他のプレイヤーがクエストを受け取る邪魔にならないように、少し離れて木材の伐採方法の確認をしていく。


 「なになにっと…伐採可能な木は根元に金色で伐採用の斧を叩き込む場所が表示されます。なるなる、で?」たあにょ犬は冒険者のバックに入った伐採用の斧を取り出して確認する。(伐採用、戦闘時使用不可…けちくせえ!)と思いながら、斧をバックの中へ無造作に放り込む。


 「※注 クエストで伐採した木材はクエスト様イベントリーに収まりますが、それ以外は木材の種類によっては、プレイヤー様のイベントリーに納まらないものもあります。

(例)直径20センチを超えるような丸太等、単体重量が50キロ以上の材量…って、丸太切っても運べないじゃん!」


 「ふ~~~~~っ」大きなため息を一つ。


 (文無しじゃあお話にもならんし、クエストで金でも稼ぐか!)自分に言い聞かせ、松のような針葉樹に囲まれる町から森の中に分け入って行く。




><><><><><



 森の中はそこいらじゅうに、薬草か何かを求める狼のシッポの群れが、5メートル間隔ほどで、グループを作ってうごめいている。


 (しあわせだなああああああああ! モッフモフだらけだあああああ!)


 森に入ってすぐ目についた樹齢50年は超えそうな松にも金色の伐採線がはっきり見えたが、薬草を取ってる横で木を切り倒すのはマナー違反と思い、人の居ない森の奥へと歩みを進めていく。


 松や落葉の大木がランダムではあるが、10メートルは空けず群生し、針葉樹の楽園を思わせる。人声も聞こえないくらいまで分け入ったところで、おもむろに斧を取り出す。武器にするには長めの柄がついた斧を金色に光る伐採線目掛けて振り下ろす。静けさだけが支配していた森の中に斧を打ち付ける音がこだましていく。

 5回打ち付けたところで、木が斜めに倒れだし、金色の光の粒に変わってクエスト様のイベントリーに収まっていく。


 「意外とあっけない…リアルみたいに切らないとだったら、こっちが切れるが?!」


 そんな風に独り言を言いながら次々と木を切り倒していく。一本切り倒す度にレベルが1づつ上がる。(MOBも倒してないのに、こんなのありなのか?)と思いながら(仕様だろう)と思考を止める。

 

 いつの間にか身長30センチ位で蝶の羽に似た羽をを背中で羽ばたかせる集団に囲まれているのに気づく。1・2・3・4・5・6・7匹?7人?まあどっとでもいい。蝶とは違い光の反射で七色の虹の様にきらめく羽は半透明に透き通って見える。

 

 (これが妖精?)と思うこちらの思考を読んだ様に「土の妖精です! 私たちと契約すると土属性の魔法を使う事が出来るようになります!」と言う。


 「あ~~、お願いします!」考えもなしに口に出していた。

 

 妖精は手を繋いで輪を作るとその場で回り出す。(後ろの正面だ~れだ!)と頭の中で歌ってしまう。妖精たちが作る輪が光りだしてそれが左の手首に、一瞬パット光を放って、幅3ミリ位の細くて茶色の腕輪が装備される。


 「契約の証の腕輪です!」それだけ言うとゆっくりとどこかに吸い込まれるように姿を消していった。初期設定のままの表示画面の右側に魔法のアイコンが追加され、開くと『土』と表示されたアイコンが一つだけ現れる。


 (そのうちどっかで試してみるか?)と思いながら、今は使わないので表示を消す。


 伐採した材木の数がクエストの規定数に達しているため、報告先の森林組合とやらを探しに町に向かって走り出した。


 (来た時も見かけたか?)と思う一人のプレイヤーを見て、なんとなく近づいていく。


 「どうかしたの?」


 声を掛けた少年は17~8歳でしゃがんだまま薬草を取ろうとがんばっている。


 「こんにちわ!」少年が立ち上がり笑顔で振り返り、もぞもぞと左手が言う事を利かないといった素振りを見せる。少し痩せ気味な顔なのだが、笑顔が表情豊かで好感を持てる好青年といった印象をうける。


 「ん? ヘッドセットの接続? いまいちなのかな?」


 「いや、リアルで左手が、不自由というか、骨折中で」


 その言葉に一瞬驚くが「手伝うよ」とすぐに少年が支えようとしていた薬草を押さえる。「あ、すいません! ありがとうございます!」そそくさと刈り取る為の小さな鎌を取り出して少年は薬草を根元から刈っていく。


 「後いくつ?」


 「二つです! 何とか二つは取ったんですけど、なかなか言う事きいてくれなくて」


言いながら、少年は自分の左手を動かしてみせる。微妙に震えてる様子が見てわかるほどだった。


 「最近使わないせいなのか、イマイチVRとの相性悪いみたいで…」


 申し訳なさそうに言うその姿に、(がんばれ!)と声に出さないが、応援したい気持ちでいっぱいになる。


 残りの二つを刈り終えて、少年は深々と頭を下げてクエストの報告へと姿を消して\いった。


 (いろんな人がいる…解っていた事だが…)などと考えながら狼族の初期町、森林

組合の扉を開け中に入っていく。ログハウスならではの木の香りが鼻を刺激する。横に長く20坪程もある部屋の右側にカウンターが設けられ、そこに立つ二人のNPCの上にFの字が浮かんでいる。


 「クエストの完了報告です!」 


 「お疲れ様でした!」NPCに差し出された手を握るとクエスト完了のアナウンスが鳴り、報酬の10000Gが支払われ、レベルが3つ上がる。NPCの上に表示されていたFの字が消え、QとSの字が表示される。


 (Sってスキルの事か?)と思いつく。「木工のスキルを習得したいんだけど、どこに行けばいいだろう?」


 「こちらで習得出来ます。 木工のスキルを習得するのに1000Gを戴くことになっておりますが、よろしいでしょうか?」


 「わかりました」差し出された手を握ってスキルを1000Gで手に入れる。いきなり木工Lv10の表示がされる。

「いきなりLv10に成ったけど? なんで?」NPCは少し顔を歪ませ困ったように話し出す。


 「大工道具を使う事で、スキルは発生するんですが、お金を払う事で10までは飛び級させることが出来るんです。お金を頂くわけですから、ある程度の事が出来ないとお客様も納得出来ないと思いまして…そおいう仕様と思っていただけると幸いです」


 「まあ…確かに。クエストも受けれるの?」


 「先ほどと同じ内容のクエストでしたら」流れるような会話に(この人も中身入りなのか?)と疑いたい気持ちになる。「じゃあお願いします!」クエストを受領する。


 「木工をするための道具なんか置いてないよね?」


 「道路をはさんで向え側に道具屋がございます。木工具セットというものが5000Gから販売されています。そちらをご利用されてみてはいかがでしょう?」


 「ありがとう。向かえの建物ですね…もしかして中身入り?でしたか?」


 「おわかりになりましたか?」少し照れたような笑顔を見せる。


 「あまりにも会話がスムーズだから! あっ!」手を上げて別れの挨拶をしようとしてさっき合った少年の事を思い出す。


 「リアルで身体の一部が麻痺とか、骨折してる人って、こっちでも動かせないのかな?」


 「すいません、私は専門外でして、後ほどで良ければ、VRの専門家から説明させて頂きたいと思います。失礼ですがプレイヤー名を承ってよろしいでしょうか?」


 「あ、いや、俺自身の事じゃないんだけど、さっき合った少年プレイヤーが、左手下腕が不自由みたいで、手伝ったもんだから…少し気になって…その子の名前は聞くの忘れちゃって」


 「お気遣い、ありがとうございます。出来る限りの対応をしてまいりたいと思っております。当社としてはお気に掛けて頂いたお客様にも報告をする義務があると考えます。よろしければお名前だけでも教えて頂けませんでしょうか?」


 「たあにょ犬、です」


 「承りました。上司の方に報告し、善処してまいります。たあにょ犬さまにおかれましては後日なんらかの手段でご報告させて頂きたいと思っております」


 NPCに扮したGMは深々と礼をすると早速どこかに連絡を取るようなVRならではの操作をはじめていた。


 「よろしくお願いします」と言いながら、一流会社の社員と言うのはこういうものかと感心する。


 ゲーム内の季節は秋、少し早めにかげりつつある太陽に急いで森へと走り出す。



 1日目


  キャラクター名: たあにょ犬


        狼族: Lv 21


 パッシブスキル: 走るLv 4 ジャンプLv 1 ステップLv 2 暗視Lv 2


            嗅覚Lv 5 聴覚Lv 5 スタミナLv 4 木工Lv10


            


アクティブスキル: 無し


     契約妖精: 森の妖精


        装備: 初心者のナイフ  妖精の腕輪(土)





最後までお付き合いいただき大変ありがとうございます。

また、お気に入り登録ありがとうございます。筆者の励みになっております。

感想、評価、批判等絶賛募集中です。よろしくお願いします。

誤字脱字等のご指摘、作者ページにて随時受け付けております。

本編優先なので、こちらは不定期更新になります。

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