非国民
周りには、ただただ青いだけの海と空が広がっていた・・・。
基地から見送られて飛び立った。
ただ、祖国と愛する家族を守ることだけが自分の生きがいだった。
眼下には海だけが広がっている。
出発前には念入りに機体のチェックも行った。
エンジンも調子がいい。
後続の僚機にも今のところ目だったトラブルはないようだ。
人生の最後を飾るには少しばかり暗い太陽を見つめながら、近づいてくるその時を待っていた。
高度を維持しながら敵を探す。
その時、僚機から発光信号が送られてきた。
「コチラエンジンガフチョウ、ソクドガデズ」
やっと行程の半分まできたというのに・・・
俺は落胆の気持ちを抑えることができなかった。
「ツイテコレルナラコイ」
発光信号を返す。
ここで帰還すると死んでいった仲間達に申し訳が立たない。
国のためにわれわれは命をかけると誓ったのだ。
速度を落として僚機が追いつくのを待った。
今度は違う機からの信号が入った。
「ゼンポウニテキヲカクニン」
なんということだ。
見ると前方に敵の四機編隊の戦闘機がみえた。
我々に搭載されているのは250キロ爆弾と少しばかりの機銃、厄介である。
こちらは三機、むこうは四機、どう考えても勝ち目はない。
敵も我々に気づいたのだろう、分散しながら高速で接近してきた。
何故気づかれたのかだとかは考えなかった。
「ゼンキ、キトウセヨ」
即座に信号を放った。
ここで機体を失えばただの犬死だ。
生きていれば確実に敵にダメージを与えるチャンスができる。
その出撃で敵を倒せればいいのだ。
だが仲間はそれを良しとしなかった。
エンジンが不調となっていた一機が真正面から突っ込んでいった。
彼は日ごろから高らかに愛国心を叫び続けているものだった。
俺の命令は理解不能だったのだろう。
爆弾も捨てずにドッグファイトを始めた。
もちろん機動が鈍い、しかし彼は善戦していた。
必ずしも訓練でいい結果を残すような奴ではなかったがそのときは目を見張るような機動をしていた。
帰還のために離脱していく俺達には彼を止めることはできなかった。
彼は機銃で敵の一機を落とした。
しかしそこで力尽きたのだろう、彼の後ろについた一機から機銃の雨をあびて、黒煙を上げながら落ちていった。
もう一人、俺と一緒に離脱していた僚機が急に反転した。
一瞬見えたキャノピーのなかで彼は雄叫びを上げていた。
爆弾を捨てて、彼もドッグファイトを始めた。
だが俺はそれをただ傍観していた。
敵の熾烈な攻撃で彼もまた黒煙を上げはじめた。
プロペラの回転も止まり、墜落は時間の問題、飛んでいるのが奇跡といえた。
彼の乗った機は急降下を始めた。
機銃も使い果たした彼は戦う方法もなく、最後の悪あがきをしていた。
敵機への体当たりである。
だがそれは失敗に終わった。
敵機への体当たりを敢行しようとした彼の機体は敵機にほぼ直撃するコースだった。
しかし、機体のふらつきが大きく一寸ばかり外れた。
そこへ敵の二機から機銃を叩き込まれた。
紅色の炎の玉のなかで彼は散っていった。
俺は彼の雄叫びを聞いたような気がした。
基地に帰投したのは夕暮れ時だった。
敵戦闘機の追撃から逃げながら、必死に機体を持ち帰るために頑張った。
だがそんな俺をたたえるものは一人も基地にはいなかった。
「満足かね、生き残ることができて」
基地司令は生還した俺を見て一言だけ告げた。
そんな、こんなことがあってたまるか。
祖国のために必死の思いで持ち帰った機体も、後になって追撃から逃れるときの被弾で使い物にならなくなっていたことを知った。
俺の判断は正しかったのだろうか?
ただ自分が生き残りたくて、逃げた。
それだけだったのではないか?
自分に通達が届いたのはちょうどその頃だった。
定期テスト前に何かいてんだおれは・・・。