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病弱な彼……(仮)  作者: Ban
第1章
7/8

第五話∞危険な行動


すごく遅くなりました。

申し訳ございませんm(_ _)m!!




俺の命はあと二年。


その事実を聞いてから、数日が経った。



あの時、ダイス達は、ディオラが起きていた事に気づいておらず、知らないままだと思っている。


成人していたらよかったのだが、ディオラはまだ三歳児。


思考能力が高く、天才児だとしても所詮は子供だ。


だから、ダイス達はディオラに言わない。


余命が二年だという事を。




ディオラはただただ、表情をつくるのに精一杯だった。


みんなが、いつも以上に優しく、そして気をつかっている。

自分の身体を心配して、ほとんど自室に籠もりっぱなしだ。


時々、庭に散歩へ行くくらいで、ディオラにとっては気の重い生活だ。




◇◇◇



「……ディオラ」


もう今すぐにでも消えそうで、儚げな背中に向かって呼びかける。


ディオラはベッドの上に座ってボーッとしていた。


「あ、にい様」


ディオラがこちらを振り返った。


ケインはなんとなく、嬉しい気持ちになった。


ディオラと会話を交わしたのは、数日ぶりだと思う。


ディオラがあと二年で死ぬ。

その事を聞いて、ケインはとても悩んだ。


どう接したらいい?

何を話したらいい?

何で死ぬんだ?

どうしてディオラが?

病弱だから?

死ぬってなんだ?


悩んで悩んで、勉強をしようとしても頭の中に入ってこなかった。


後から聞かされた話はこうだ。


ディオラは、中庭と東の森の境目辺りで倒れていたらしい。

それを、ディオラを探していた専属メイドが見つけ、屋敷中の人に念話魔法で連絡。


ディオラは医術師によって医術室に運ばれ、診られた。

その結果、心臓が極端に弱くなっている事が判明した。今までも、健康体の人に比べ少し弱かったが、それまで以上に悪くなっていたという。


僕には、理屈的な事は分からない。

でも、その事実がディオラを奪ってしまうという事に気付いてしまった。


「………ディオラ──」


「……?

どうされたんですか?」


ケインが悲しそうに顔を歪め、ディオラはそれを見ながら不思議そうに首を傾げる。



………──あぁ。

こんな、罪もない子供を神は見捨ててしまったのだろうか。


こんなにも無邪気で、力に恵まれていて、健気にも生きているこの子供を。



「……いや。なんでもない。

………───魔法を少しだけど、おしえてやるよ」


「え?教えてくださるのですか!?」


「僕が分かる範囲でなら」


「ありがとうございます!」


ディオラに、華やかな笑顔が咲き乱れた。


そう。これがいい。

僕は、彼を救える術を持たない。

だから僕は、この笑顔を作ることに力を注ごう。


それが、僕に出来る……最大の努力だ。






◇◇◇



ディオラには分かっていた。

ケインも自分に気を使っていることを。


あの、ケインがだ。

少し自意識過剰で、でもそれに値する程の実力も兼ねていて……。


そのケインが、自分を心配している。

まだ五歳で、もうすぐ学校に入るから勉強をしなくてはいけないのに。それなのに、彼は自分を優先順位に置いている。


もう……自分が情けなくて、仕方なくなってきた。


俺は、身体はまだ子供だが、精神的にはもう23歳にもなる。

それなのに、この有り様だ。


俺の命があと二年?

心臓が保たない?


んなの、くそくらえ。

だったら、変えてやるよ。その宿命を。


ディオラは確かに、そう決意した。




◇◇◇



「……なるほど!

属性の数は、8属性だといわれているけど、実質は9属性ということですね!」


「そうだ。

火、水、氷、風、土、雷、闇、光。これらはある特定の人ににしか使えない。

僕の場合は、火と土。ディオラの場合は、水、氷、風、雷、光だ」


そして、誰でも制限されずに使える属性…………それが、


「無属性だ」


無属性。

その名の通り、属性が無い。


「無属性はいろいろな事に使える。

例えば、身体強化や転移。これも無属性に入る」


身体の一部、あるいは身体全体に魔力を纏わせ、筋力やスピード、体力を向上させる身体強化。


頭の中で行きたい場所を思い浮かべ、その思いを魔力に乗せて一瞬で移動することが出来る転移。


身体強化は時がくればほとんどの人ができる程、効果が大きいくせに容易な魔法だ。

ただ、それを使いこなせるまでが難しい。


転移は誰でも出来るわけではない。

転移というものに必要なのは、想像力と魔力。

想像力がなければ、行きたいところへ行けないし、転移にはたくさんの魔力を消費する。


だから、魔力が少ない者は転移が出来ない。それに加え、転移は最上級魔法の一種である。

最上級魔法が使える者はそうそういないのだ。



では何故、彼らは転移を日常で使えているのか。


その答えは“魔法陣”にある。


「魔法陣は、魔法の種類によって模様や形が変わってはいるが、基本的な効果は“魔法威力の増大”、“魔力消費の減少”などだ」


だが、その他にも効果がある。



それは“魔法の継続”だ。



「例えば………そうだな、実演しよう」


ケインはそう言うと、戸棚の中から赤いペンと白紙を取り出した。


それを机に置くと、真剣な眼差しで何かを描き始めた。



キュッキュッ



「出来た!」


「…………ふにゃふにゃだ」


「なっ!?

う、うるさいっ!貴様は黙って見ておけばいいのだ!この軟弱者めがっ」


「分かりました(はいはい)」


「ふんっ。では、いくぞ?」


ケインはそのふにゃふにゃな魔法陣に手の平を当てると、少しだけ魔力を流した。



ボファッ!



「……これが、魔法陣の効果だ」



ケインの魔力が魔法陣に行き渡った瞬間、魔法陣の上に拳大くらいの炎が出来上がった。


少量の魔力。

絶大な威力。

そして、継続する魔法。


魔法陣は大きな役目を担っていた。




「よし、ディオラ。今日はここまででいいだろう。また明日、此処に来る」


「ありがとうございました、にい様。

(ま、ほとんど知ってた話だけど)」


「あぁ……では」


「にい様、おやすみなさい」


「な……うっ。お、おおやすみ」



くそっ!

なんでこのくらいも綺麗に言えないんだよぉぉ!!



ケインはそう叫びながら去っていった。


「………阿呆なにい様だな」


呆れた表情を浮かべたディオラは、ケインが見えなくなると、クルッと振り返った。


その時には、既に呆れた表情はなく、哀しそうな…それでいて愉しそうな表情がそこにあった。




「父上、母上、にい様、タタネさん、みんな…………コレ、失敗したらヤバいことになるけどさ、コレしか方法が導き出せないんだ。だから…ごめん」



ディオラは、ケインが置きっぱなしにした赤いペンを持ち、自分のベットのシーツに書き出した。



キュッキュッキュッ



軸がブレないように、力を、想いを込めて。



……──おねがい。





◇◇◇



翌日






「さて、そろそろディオラの元へ行くか」


よいしょっと。



年相応のものでない声を発して、腰掛けていた椅子から立ち上がると、ディオラの部屋へと足を進めた。


部屋の前に来ると、ケインはいつもの如く腕を上げたり下げたりし始めた。



ノックするか、ノックしないか。



ノックするのが礼儀……だが、僕のプライドがそれを許さない。

いつもノックをしないでディオラの部屋に入っていたから、ディオラの部屋に入る時はノックをしないという習慣が身に付いてしまった。


だから、今更ながらノックをして入ると“え、何をいまさら……”という視線を受けるに違いない。


でも、そろそろマナーを改めなければならないとも思うのだ。



と、そこで廊下に置かれたテーブルの上に飾られた花瓶に目がいった。


赤色の花が咲いている。


ケインはそこから一本だけ取って、花弁を一枚ずつ抜いていった。



「する、しない、する、しない、する、しない、───…………」



ヒラヒラと落ちていく花弁が、廊下を汚していることなど、頭に入っていないケインであった。


そして………、



「……───する!」



最後の赤い花弁が、舞った。




早速ケインは恥ずかしさを捨て、扉をノックした。


しかし、それに応える声は無い。

あれ?と思ったケインは、廊下にある時計を見た。


もう朝の10時を過ぎている。


いつもならメイド長であるタタネさんが、ディオラの世話をするために来るのだが、彼女は今この屋敷にはいない。


研修?か何か分からないがそんな事を言っていた気がする。




「……もしかして、まだ寝ているのか?

ディオラにしては珍しい。では、入るからな?」



ケインは躊躇なしに堂々と入っていく。



そして、寝ているはずであろうディオラを見ようと、ベットへと視線を移したとき……息が詰まった。



「っ!………ディ、ディオラっ?!」


ケインはベットへ急いで駆け寄った。


「何をやってるんだディオラ!」



ベッドに大きく描かれた魔法陣。

その上に横たわる弟。


「父上を呼ばなきゃ!」


ケインは部屋を飛び出した。





◇◇◇





「身体強化と光属性、転移……」



ダイスは唖然した。


ディオラが描いたであろう魔法陣は、3つの魔法陣を重ね、それが繋ぎ合わさるようにうまく描かれていた。


複雑過ぎて、魔法陣を詳しく知る者にしか理解出来ないだろう。



しかし、何故そんな高度な技をディオラは理解し、使えているのか。


そしてディオラは、この魔法陣をどのように使っているのか。


魔法陣に詳しいダイスにも、初めて見る複雑な魔法陣に戸惑いを隠せなかった。






アリアーナとケイン、兵士や使用人達がいる中、ダイスは険しい表情をしたまま調査を続けた。




だが、その成果は0であった。


ディオラを魔法陣から出したいのはやまやまなのだが、それが一番危険だ。


下手をすると、魔法が跳ね返ったり狂ったりして、ディオラの命が亡くなる可能性が高いからだ。





ダイスはディオラのベッドに腕を付き、懇願するように息子を見た。


「ディオラ…──早く戻れっ」



アリアーナは瞳に涙をため、ケインは眉間に皺を寄せながら唇を噛み締めている。


兵士や使用人達はその様子を、固唾を呑んで見守っていた。








XXXX年、11月。


ディオラは深き眠りについた。


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