【E. 銃火と信号音】
銃口が一斉に光を放った。
夜を切り裂く音が、廃駅全体に響き渡る。
だが――弾丸が届くよりも早く、リリアナの腕の中の“時刻表の書”が眩く光を放った。
ページが自らの意思を持つようにめくれ、無数の線が浮かび上がる。
それは地図ではなく――人の心臓の鼓動。
光のレールが交差し、一本の“魂の経路”を描いていく。
「お願い……まだ、誰かの“約束”が残っているの……!」
リリアナの声が震えると同時に、空気が爆ぜた。
廃駅の床が微かに震え、奥の暗闇から“音”が近づいてくる――。
――チリン。
カン、カン――。
古びた信号が勝手に点灯する。赤から黄へ、そして青。
まるで誰かが“発車”を告げているように。
そして、闇の奥から現れた。
黒鉄の機関車――心象列車。
実体を持たない幻影の車体が、銀の光を纏いながらホームを突き抜ける。
車窓の奥には、笑顔の家族、恋人、旅立つ子どもたち……燃えた切符たちの“記憶”が映っていた。
「これは……まさか、“魂路”……!」
グランベルの瞳が揺れる。彼でさえ、その存在を伝承でしか知らない。
――人々の想いが繋がる時、線路は現実を超えて“魂の列車”を呼ぶ。
列車がホームを駆け抜けた瞬間、轟音と共に強風が巻き起こる。
兵たちは吹き飛ばされ、銃を放り出して地面に転がった。
廃駅の天井がきしみ、月光が一面に降り注ぐ。
悠真がリリアナの腕を掴む。
「行くぞ、今だ!」
二人は光の余韻を背に、ホーム裏の階段へと駆け出した。
背後で、幻の列車が夜空へと溶けていく。
その軌跡はまるで――未来へ続く一本のレールのように、空に残っていた。
信号音が、最後の合図のように遠くで鳴る。
カン……カン……。
そして静寂。
鉄と祈りが交差した夜、世界はまた一つ、見えない線を得た。




