第2話:廃線の涙と機関車の残骸【A. 森の奥の探索】
「北の森には近づくな。あそこは“鉄の祟り場”だ。」
そう言って村の老人たちは十字を切るように、胸の前で指を組んだ。
けれど悠真の胸に芽生えたのは、恐怖ではなく――好奇心だった。
悠真「“鉄の祟り場”って……それ、どう聞いても廃線跡だろ。」
翌朝。
まだ霧の残る森へ、悠真はひとり足を踏み入れた。
木々の隙間から差し込む光が、ところどころ金属を照らす。
近づいてみると、それは――土に半ば埋もれたレールの残骸だった。
表面は錆び、苔がびっしりと張りついている。だが形は確かに“鉄路”だ。
悠真「……間違いない。線路だ。こっちの世界にも、やっぱりあったんだ……鉄道文明が。」
足元をたどると、朽ちた枕木の間から古い釘がのぞいていた。
まるで「まだここを走りたい」と言っているように。
さらに奥へ進むと、木々の間に不思議な影。
近づくと――錆びた信号機が、今にも倒れそうな角度で立っていた。
片腕のように突き出した鉄の棒。
腐食してなお、どこか威厳を感じさせるその姿に、悠真は思わず息を呑む。
悠真(心の声)
「……信号機の形状が旧式の腕木式……? 本当に、千年前に鉄道が走ってたのか。」
「こいつらを掘り起こせば、きっと“線路の記憶”が残ってる……。」
風が吹き抜け、腕木がわずかに揺れる。
“カラ……ン”という乾いた音が、森の静寂に溶けた。
まるで、遥か昔に途絶えた“発車合図”の残響のようだった。
そのとき――悠真の靴が、何か硬いものを踏んだ。
しゃがみこんで土を払いのけると、そこには割れた石板。
角には、かすかに刻まれた文字。
悠真「……駅名標……だよな、これ。」
風化して読み取りにくいが、最後の二文字だけがかろうじて残っている。
「リ……駅」。
悠真「リ……か。まさか、“リリアナ”とかじゃないよな。……いや、偶然か。」
そう呟いて、苦笑する。
けれど心のどこかで、何かが引っかかっていた。
――まるで、この森の奥で誰かが待っているような、そんな予感。
鳥の声が遠ざかり、風の音だけが残る。
悠真は胸の奥で、レールの鼓動のようなものを感じていた。
悠真(心の声)
「この先に、まだ“線路”がある。そうだろ?」
足音を響かせ、彼は森の奥――かつて鉄の夢が走った場所へと進んでいった。




