―E. 世界のズレ―
草原の線路を辿っていくと、小さな村が見えた。
煙突からは白い煙。畑と木柵、馬車が往来するのどかな風景。
だが――レールの上を歩いている悠真に、村人たちの視線が突き刺さる。
「お、おい見ろよ……鉄の蛇に乗って歩いてるぞ!」
「あれ、動かぬはずの“神の道”じゃ……!」
ざわめき。子どもが泣き出す。老婆が十字を切る。
――完全に異端者扱いである。
「いやいやいや、違う違う! これは鉄の蛇じゃなくて“交通インフラ”です!」
「い、いんふら……? ああ、神の御名か。」
「いや宗教じゃなくて工事の話!!」
いつもの調子でツッコミを入れるが、誰も理解してくれない。
馬車に積まれた荷物から漂う干し肉の匂いと、遠くの風車の回転音。
どこを見ても文明レベルは中世。レールだけが異物のように輝いていた。
やがて、杖をついた老爺が現れる。
村人たちが一斉に頭を下げる――どうやら古老らしい。
「異邦の者よ。おぬし、なぜ“封じられし鉄路”の上を歩く?」
「封じられし、って……これ、ただの線路ですよ?」
老爺は静かに首を振った。
その目には、畏怖と懐かしさが入り混じっている。
「千年前、“鉄の神々”が空を裂き、地を走ったと伝えられておる。」
「だが彼らは怒り、鉄路を封じた。今、残骸だけがその証……」
村人たちは沈黙した。
風が吹き、レールの錆びが微かに鳴く。
悠真は息をのんだ。
脳裏に浮かぶのは、神――創鉄神ノリテツの言葉。
「線路を引けますか?」
まさか、と思う。
この世界では“鉄道”が伝説扱いになっている。
だが、今もレールは残っている。つまり――走らせる余地がある。
「……千年前の鉄道文明?」
「つまりこの世界は、レールを忘れた世界か。」
悠真の心臓が、再び高鳴る。
それは恐怖でも興奮でもなく、鉄オタとしての純粋な使命感。
「……よし、再開通だな。」
その呟きは、草原の風に溶けていった。
誰も意味を理解しないまま、悠真の瞳だけが未来を映していた。
――彼の頭の中ではすでに、
“異世界鉄道復興計画Ver.1”が組み上がりつつあった。




