―C. 駅員神との遭遇―
白い霧が晴れる。
悠真の前に広がっていたのは、どこまでも続く巨大な構内だった。
無限のプラットフォーム。
天井から吊り下げられた発車案内板は、どれも見慣れない文字で埋まっている。
けれど――どの列車にも「行き先:?」とだけ書かれていた。
「……ここ、マジで“天界の終着駅”とかなんですかね」
呆然と呟いたその時だった。
カツン、と革靴の音。
霧の向こうから、ひとりの男が歩いてくる。
制帽をかぶり、制服を着て、胸元には古びた懐中時計。
背中には白い翼――そして札にはこう書かれていた。
『創鉄神ノリテツ』
「ようこそ、終着点にして始発駅へ。」
落ち着いた声が構内に響く。
まるでホームアナウンスのように抑揚が完璧だ。
「……いや、駅構内アナウンスかと思いましたよ今。」
思わず口が勝手に動いた。
すると、神――ノリテツは静かに笑った。
「君、鉄道が好きだろう?」
「ええ、命を賭けるほどに。」
半ば反射的に答えたその瞬間、神の目が金色に輝く。
「では、賭けてもらおう。」
「……は?」
「次の列車は“異世界行き”です。」
悠真は思わず後ずさる。
「いやいやいや、俺まだ来世とか考えてないんですけど!? 定期券も更新してませんし!」
「線路を引けますか?」
突然の質問。唐突すぎて思考が止まる。
「……え、CADなら……」
「よし、採用だ。」
「ちょ、話のレール早すぎません!?」
反論する暇もなく、構内全体が低く唸った。
光が収束し、ホームの向こうに一筋の閃光が走る。
――列車が来る。
風が巻き起こり、悠真の髪が揺れる。
霧を切り裂いて現れたのは、金色の装飾を纏った巨大な列車。
その側面には、煌びやかな文字が刻まれていた。
『転生特急レールライナー』
「あの……これ、特急ですよね? 自由席でいいんですよね!?」
「心配無用。君の座席は“運命指定席”だ。」
「いや怖っ!?」
ノリテツは懐中時計をひとつ鳴らし、悠真の肩を軽く叩いた。
「さあ、発車時刻だ。」
次の瞬間、足元のレールが光り輝く。
眩しさに目を細めた瞬間、身体が勝手に動いた。
――ドアが開く。
――足が、踏み出す。
そして、気づけば車内にいた。
「おい、ICカードも切符も無しで!? これノーリターン!?」
「人生も同じです。」
最後に聞こえたノリテツの声は、
どこか誇らしげで、どこか寂しげだった。
列車は音を立てて加速し、
悠真を乗せたまま光の中へと消えていく。
「うわっ……これ、フルノッチ発進!? 神様、加速制限って概念ないの!?」
その叫びが最後に、構内は再び静寂に包まれた。




