―B. 感電転生―
――ガタン、ゴトン。ガタン、ゴトン。
耳の奥で、どこか懐かしい音が鳴っていた。
まるで体そのものがレールの上を走っているような、リズム。
東堂悠真は、光の中を漂っていた。
上下も前後も分からない。
ただ、周囲を包むのは無限に続く“光の線路”。
その上を、無数の車輪が音を立てて駆け抜けている。
「……これ、まさか……臨死じゃなくて臨走……?」
自分で言って、思わず苦笑する。
死の間際にダジャレが出るあたり、我ながらどうかしてる。
ふと、前方に“白い霧”が広がった。
霧が割れるようにして、そこに巨大なホームが現れる。
電光掲示板が並び、どこからともなくアナウンスが流れる。
《まもなく一番線に、現世発・成仏行きがまいります。危険ですので白線の内側までお下がりください。》
反射的に足を引くと、ほんとうに白線が足元にあった。
――いや、そもそも俺、もう足あるのか?
困惑する悠真の視線を引いたのは、ホーム中央に掲げられた一枚の案内板。
【本日の発車案内】
1番線:現世 → 成仏行き ※満席
2番線:現世 → 異世界行き ※自由席あり
悠真は目を瞬いた。
「発車案内で死後が分かるとか新しすぎる……」
周囲を見渡すと、乗客らしき幽霊たちが行き交っている。
彼らはスーツ姿だったり、鎧を着ていたり、果ては忍者の格好まで。
どうやら“死者全世界共通ターミナル駅”らしい。
「……これ、死後の世界における鉄道中央管理局とかじゃないよな……?」
そう呟いた瞬間、どこかで「ピンポーン♪」と発車ベルが鳴った。
悠真の心臓――いや、魂がどくんと跳ねる。
白い霧の向こうから、何かがゆっくりと歩いてくる。
帽子をかぶり、制服を着た、どこか懐かしい姿の人影。
胸には「駅員」と書かれた名札。
だが、その目には、どこか神々しい光が宿っていた。
「――ようこそ、終着点にして始発駅へ。」
そう告げた声は、柔らかくも響く。
まるで、アナウンスと祈りの中間のようだった。
悠真は息を呑む。
駅員の背中からは、白い羽がゆらりと揺れていた。
「え、ちょ、ちょっと待って……天使とかじゃなくて、駅員の格好の神様? チョイスどうなってんの?」
だが神――らしき男は、淡々と懐中時計を開きながら言った。
「時間です。次の列車は“異世界行き”。――乗りますか?」
悠真の中で、何かがカチリと切り替わる。
未知の世界、未知の路線。
そして“異世界”という単語。
「……その列車、乗り換え自由ですか?」
「いいえ。片道切符です。」
駅員神は穏やかに微笑む。
そしてポケットから、一枚の切符を差し出した。
【異世界行き・乗車券】
経路:現世 → 異界レールディア
運賃:人生
悠真は切符を見つめ、そっと笑う。
「……なんだよ。結局、人生も“片道”か。」
その瞬間、ホームに光の列車が滑り込んできた。
眩い輝きの車両。車体側面には金文字で書かれている。
『転生特急レールライナー』
列車のドアが開き、暖かい風が吹き抜ける。
悠真は切符を胸ポケットにしまい、静かに一歩を踏み出した。
「ま、行くか。終点が見えない路線ほど、乗る価値あるよな。」
彼が乗り込んだ瞬間、列車が鳴動した。
光があふれ、ホームが遠ざかる。
「おい、ICカードも切符も無しで!? これノーリターン!?」
「人生も同じです。」
駅員神の声が、最後のアナウンスのように響いた。
――発車ベル。
――加速する車輪音。
悠真の世界は、まばゆい光に溶けていった。




