【B. リリアナ登場】
扉の音が静かに鳴る。
その瞬間、空気が変わった。
入ってきた少女は、完璧な所作で帽子のつばを押さえ、
一分の隙もない姿勢で立つ。
制服のラインはピシリと伸び、まるで規律そのものが歩いてきたかのようだ。
少女「鉄道ギルド第七支部所属、車掌官リリアナ・アステリアです。」
その声は澄み渡る鐘のように、支部の空気を一瞬で引き締めた。
周囲の職員たちは一斉に姿勢を正す。
リリアナは悠真に視線を向け、淡々と続ける。
リリアナ「あなたが……“鉄路再建”を口にした異端の方、で間違いありませんね?」
まるで“罪状読み上げ”のような言い回しだ。
悠真は思わず肩をすくめた。
悠真「いや、異端とかじゃなくて。僕、ただの鉄オタ転生者なんですけど。」
その瞬間――
ピシィッ、と何かが割れる音がした。
いや、実際に割れたわけではない。
リリアナの表情筋が完全にフリーズした音だった。
リリアナ「て……ててて……鉄オタ……?」
悠真「はい。鉄道オタク、略して鉄オタ。」
リリアナ「鉄の……神を侮辱する呪文ですか!?」
支部の空気が一気に凍る。
受付嬢は青ざめ、背後の祈祷師が十字を切るような仕草をした。
悠真は慌てて両手を振る。
悠真「ち、違う違う! 鉄を侮辱してるどころか、崇拝してる側です!
むしろ鉄の虜です!」
リリアナ「虜っ!? 鉄の神を、虜にする!? あなた何者ですか!?」
悠真「ややこしいなこの世界ッ!」
どうやらこの世界では“鉄”という言葉自体が神聖語扱いらしい。
不用意に口にすれば、異教徒の呪文と誤解される。
リリアナは警戒心を隠さないまま、懐中時計を軽く叩いた。
カチリ、と音がして、彼女の周囲に淡い魔法陣の光が浮かぶ。
リリアナ「確認します。あなた、本当に“鉄路”を再び引こうとしているのですか?」
悠真「ええ。だって、線路があれば列車が走るでしょ?」
リリアナ「……論理が原始的すぎます。まるで、祈りの前にハンマーを振るうような。」
悠真「祈りよりハンマーの方が早いでしょ?」
リリアナの眉がピクリと動く。
ギルド職員たちが息を呑んだ。
リリアナ「……発言、すでに二項目が異端規定に抵触しています。」
悠真「異端のハードル低すぎない!?」
そんな騒動の中でも、
リリアナは一度も姿勢を崩さなかった。
冷静で、礼儀正しく、そして――少しだけ興味を含んだ目で、悠真を見つめていた。
リリアナ(心の声)
「……本気、なのですか。
もう誰も通らぬ“鉄の道”を、再び通すつもりで。」
ほんのわずかに、彼女の口元が揺れた。
それは“怒り”でも“呆れ”でもない。
ほんの一瞬の、抑えきれない好奇心だった。




