第3話:車掌少女リリアナ登場 【A. 村のギルド支部】
昼下がりの村は、穏やかな風に包まれていた。
馬車が通るたび、石畳がかすかに鳴る。
その中心に――荘厳な建物が一つ、そびえ立っている。
アーチ状の屋根、ステンドグラスに刻まれた「車輪と翼の紋章」。
まるで神殿か聖堂のようなその建物が、鉄道ギルド支部だった。
悠真は、扉の前で深呼吸した。
(よし……資材と図面を入手しないと、修復どころじゃない)
扉を押し開けると、冷たい空気とともに鉄と香油の匂いが鼻をくすぐる。
高い天井、整然と並ぶ木製の机、そして――
壁一面に飾られている“線路図”……いや、“信仰路線図”。
そこには、線路ではなく“神々の軌跡”が緻密に描かれていた。
列車の走る経路ではなく、神の通った道として崇められているらしい。
悠真(心の声)
「ギルドって言うより……完全に聖堂だなこれ。」
受付には若い女性が座っていた。
きちんと制服を着てはいるが、祈祷師のような白衣の裾をひきずっている。
悠真「すみません、線路を再建したいんですけど――」
その一言で、受付嬢の顔色が一瞬で変わった。
手にしていた羽ペンがポトリと落ちる。
受付嬢「……鉄路再建、ですって?」
悠真「はい。線路を直して、列車を走らせたいんです。」
受付嬢「そ、それは……異端申請に、あたりますが……っ!?」
彼女は慌てて立ち上がり、鐘のような小型ベルを鳴らす。
カランカランカラン――と音が響き、
背後の扉が音もなく開いた。
そこから現れたのは、
深い群青色の外套に、金糸の縁取りが施された少女。
胸には“車輪の紋章”、腰には銀の懐中時計。
その姿はまるで――儀礼の中に生きる車掌。
少女「騒がしいですね。どうかしましたか?」
受付嬢「リリアナ車掌官! この方が、“鉄路再建”を口にされまして……!」
少女は静かに悠真を見つめた。
その瞳は澄んだ灰青色――まるで冷えた鉄のような光。
少女「あなた……本気で、そのような言葉を?」
悠真「ええ。まぁ、線路って引けば走るもんですから。」
沈黙。
彼女のまつ毛がわずかに揺れ、空気が張りつめる。
少女「……なるほど。あなたが“異端者”ですね。」
悠真「ちょ、開口一番それ!?」
少女は制帽のつばを指で押さえ、ぴしりと敬礼する。
儀礼のように、そして宣告のように。
少女「鉄道ギルド第七支部所属、車掌官リリアナ・アステリア。
異端行為調査のため、あなたを一時拘束します。」
悠真「いやいや、僕まだホームから一歩も動いてませんけど!?」
受付嬢は祈るように胸に手を当てる。
聖堂の中に、妙な静寂が落ちた。
こうして、レールメイカーと車掌少女の最初の衝突が始まった――。




