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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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猫宮部長と不死身の僕

作者: 不死猫
掲載日:2025/12/30

「君、僕を馬鹿にしているのかい?それとも君のその耳は飾りなのか?僕は確かに焼きそばパンを買って来いと言った!なのにこれはなんだ!どうやったら焼きそばパンとメロンパンを間違えるんだこのすっとこどっこい!!」


 


 メロンパンをブンブンと振り回し、彼女は全身で怒りを表現する。




 ひらりひらり。




 忙しく動き回る彼女の動きと呼応して、丈の短いスカートが悩ましく揺れ。


 時折、絶対領域からちらりと覗くガーターベルトが俺の視線を釘付けた。


 


「む、何処を見ているこの変態!反省しているのか!」




 今日はフリル少なめのクラシカルメイドか。と、激昂する彼女を尻目に俺は鑑賞を楽しんでいた。


 彼女は猫宮有栖。日常的にコスプレをしている俺の恩人?なのかもしれない人である。




 俺と彼女の出会いは、ほんの一年前に遡る。


 そうそう、メロンパンを買って来たのはもちろんわざとだ。





 ……懐かしい夢を見た。


 あれは中学卒業を迎えた日の事だった。




 式を終えた後、最後に教室で友人たちと駄弁っていた俺のもとに、幼馴染の恋花がやって来た。


「校舎裏に来て」それだけ言うと、呼び止めるまもなく恋花は逃げるように教室を後にした。……耳を真っ赤にして。


 その様子から、この後校舎裏で何が起こるのか……鈍い俺でも理解できた。


 友人達にイジられながらもその場所へ向えば、案の定。


 恋花がソワソワしながら待っていた。




 それを見て、俺は申し訳なさでいっぱいになった。もしも待っていたのが恋花ではなく、彼女の知り合いの誰かだったなら……どれだけ気が楽だっただろうか。


 


「ぁ……あ、あわわわわわ」


 彼女は俺を見つけると、顔を真っ赤にして俯いた。


 心の中ではどう話を切り出したものかと反芻しているのだろうか……。




「あ、あのね、り凛……」


 勇気を振り絞って、彼女は———。




 ……そこで目が覚めた。




 その後のことを、俺はあまり覚えていない。


 結果として恋花は俺に告白し、俺は恋花を振った。


 少なからず好意を抱いていた恋花からの告白は嬉しかったはずだった。


 いつしか、自分から告白してしまうかもと思っていたくらいには、俺も恋花の事が好きだった。


 なぜ断ったのか、理由をはっきりとは覚えていない。でもおそらく、進学後、自分が地元を出て行ってしまうことを気にしたのだろう。


 訳あって、地元にいたくなかった俺は都内へ進学することを決めてしまった。


 恋花が進学するのは地元の高校、俺の進学先とは離れすぎて、まともな恋愛ができるとも思えない。


 いや、俺は恐れたんだろう、彼女との関係が壊れてしまうことを。


 俺はまだ、恋花とは友人でいたかった。


 でも……結局壊れてしまった。




 最後に見たのは、頬にしずく伝わせて走り去る彼女の姿、それだけは今でも鮮明に覚えている。


 


「本と……バカなことしちまったよな」




 あれから少しして、俺は逃げるように地元を出た。今は高校に通いながら一人暮らしをしている。




 念願の一人暮らしを始めたというのに、時折恋花の顔がチラついて素直に楽しめていない自分がいる。


 


「そう言えば」


 ……思えばあの時からか、周りで不可解な事件や事故が増えはじめたのは。


 頭上から鉢が落ちてきたり、俺目掛けてトラックが突っ込んで来たり……最近じゃ通り魔に刺されそうにもなった。こんなのが、恋花を振ったあの日から立て続けに起きている。


 これってもしかして……。


 


「いや、考えすぎか。単に俺の運が悪すぎただけだな!」


 そう結論づけ、俺はその場に寝転んだ。


 さっきまで見上げて首がつりそうだった桜の木も、下から見ればまた違った景色が広がっていた。




 ここは校舎から隠れた“旧部室棟“の一角。


 毎年、春になれば見事に桜が満開となる絶好の花見スポットなのだが、何でも旧部室棟には魔女が住んでいるとか言う噂があるらしく、教師も生徒も滅多に近寄らない。授業をサボったりするたびに使っているが、俺はまだ一度も魔女になんて会ったことはない。


 まあただの噂にすぎないだろうし、人が来ないなら都合がいい、ありがたく使わせてもらおうと思う。




「ふあ……」


 あたたかな春風に枝葉が揺れ、サーという心地良い音色が、俺を眠りに誘う。 


 まぶたが少しずつ重みを帯びる……俺は何の抵抗もせず、その睡魔に身を任せ……た。


 


「君、呪われてるね」


 突然、声をかけられた。


 


「え……?」


 思いまぶたを開ければ……知らない少女が俺の顔を覗き込んでいた。




「は、え、は!?」


 俺は予想外の事態に驚き、飛び起きた。


 そこにはブカブカな上着を羽織り、フードを目ぶかに被った少女がいた。


 顔はよく見えないが、随分と背丈が小さい。


 教師、じゃないな。一年生……いや中学生か?下手したら小学生でも通じそうだ。




「む」


 俺の考えを読んだのか、彼女は怒ったように腕を組んだ。


 


「こう見えて私は18で大人だ。子供扱いするなよ後輩!」


「…………うっそぅ」


「うそじゃないわ!!」 


  


 余りまくった袖をバッサバッサと振り回して怒りをあらわにするその姿は……うん、大人には見えない。




「それで何のようかな」


 こういう時、あまり刺激してはいけない。


 しっかりと目線を合わせて、丁寧に対応しなくては……あ、うっかり頭を撫でてしまった。




「むきィ———!!!」


 


 十分後。


 俺はそれなりに痛いぐるぐるパンチを受けながらも宥め続け、やっと彼女の機嫌を直すことに成功した。


 


「はぁ、はぁ……ふぅ——ッ!」


 いや、まだ全然怒ってるな。




「それで……何のようなんだ?」


「敬語!」


「ッ……何のよう、ですか?」




 ……この餓鬼。


 憤怒の顔から一転、彼女はにんまり笑顔を向けた。




「うむ……コホン。ではもう一度」




 彼女は右手で顔を覆い、指の隙間から覗く左目と目が合った。




「君……呪われてるね」


 その瞬間、彼女の目がきらりと赤く輝いた。


 ……カラコンだ。




「はぁ。じゃ、お疲れした」


「ちょー!待て待て待て!」




 ……何が呪いだ、時間の無———。


 その時、旧部活棟の方から甲高い金属音が鳴り響く。


 


「え……」


 大きな金属の塊が、俺の目の前に迫っていた。


 死ぬ……そう思った瞬間、「てぇ———い!」という間抜けな叫び声が聞こえ、俺は突き飛ばされた。


 


「痛ぅ……!?」




 落ちてきたのは部室棟の階段だった。


 経年劣化……それにしてもなんであんなタイミングで。




「これで分かったかい?」


 立ち上がった彼女は、服についた土汚れを払い、倒れた階段を指差した。


 


「これは……」


「うん……呪いさ」


「いや、違う……そんな非科学的な。これはたまたま……そうだ、たまたま古くなってた階段が壊れただけだ」


「えぇーいまどろっこしい!」




 彼女が俺の襟首を掴むと、俺の右腕から首、頬にかけてが輝き出し、その場所に真っ黒な渦のような模様が現れた。




「これは……?」


「これが君の呪いを具現化したものさ。これでも信じられないってなら……そうだね、これでどうだ?」




 彼女が指を鳴らすと……倒れた階段が時間を巻き戻したように元の場所へと戻り始める。まるで……。




「魔法」


「その通り!君はさっき呪いの存在を非科学だなんだと否定した。だけど今、魔法の存在が証明された。これも非科学の産物だ。目に見えていないだけで、世界には非科学的なものが溢れているんだ」




 ……そんな訳ない、と言ってしまいたい。でも、目の前で起きたことはマジックでも何でもない、魔法と言われたら信じられる紛れもない超常現象だった。




「……じゃあ、呪いも」


「まぁ、信じるも信じないも勝手だけどさ、君、このままじゃ一年いや一週間以内には死んじゃうんじゃない?」


「は!?」


「今回だって僕がいなかったら死んでたでしょ?」




 その言葉に俺は押し黙る。


 


「君にかけられた呪いはだいぶ悪質だ……時間が経てば経つほどその効果は大きくなることだろうね。僕は明日君が死体になってても驚かないよ」


「まじか……」




 ……まさかこんなにも早く余命宣告をされることになるとは思っても見なかった。


 でもあんまり悲壮感がない。


 ここ最近……これと似たようなことが何度も起きてるせいか、この程度ならまだ死なないだろうって、変な経験則が身についてしまい、まだまだ余裕が感じられる。 




「生きたい?」




 彼女は、ニタニタと笑みを浮かべながらそう聞いてきた。


 その笑い方が俺の神経を逆撫で、怒りが込み上がる。




「あぁ……生きてぇな」


「そう……じゃあ、生かしてあげよ」




 そう言って、彼女は被っていたフードを下ろす。


 中から現れた、夜の星空凝縮したような艶やかな長髪が、暖かな春の東風に吹かれて踊る。




「……妖魔、怪異に鬼、悪魔、神だろうと何でもござれ、時星高校、秘密の部活No.12『猫宮部長の相談室』が長、猫宮 有栖。私が君を救ってあげる!」


 


 それが俺と彼女ー猫宮 有栖と最初の邂逅であった。


 だが、その時の俺はの耳に、彼女の言葉は聞こえていなかった。フードで隠されていた彼女の顔が……息を忘れるくらいに美しかったから。




 あれから少しして、あれよあれよと俺は半ば強制的に『猫宮部長の相談室』に入部することとなった。


 余談だが、彼女は本当に18歳だったらしい……一応先輩になるみたいだ。




 その日の夜……なぜか俺の家を知っていた彼女に「仕事だ!」と叩き起こされた。


 ……どうやって家に入ったんだと聞いたら、企業秘密……と言われた。


 訴えたら勝てるかな?




 タクシーに揺られて数十分……俺たちは見慣れない倉庫の立ち並ぶ港にやってきていた。


 そしてタクシー代は割り勘だった……解せない。




「着いたね」


「……そうですね。で?どうしてこんなとこに連れてこられたんですか?」


「そんな怒るなって、これも君に必要なことなんだからさ」




 少し怒気を込めて言ってみたがまるで効果なし。




「本当ですね?」


「ああ本当だとも!最近ここら辺にごみが湧いてるらしくてね、その清掃を相談されたんだ」


「相談屋じゃなくてボランティアの間違いじゃ……それと俺の呪いに何の関係があるんですか?ここを掃除すれば呪いが解けます、とか言うつもりですか?」


「ははは間違ってないよ!あ、でも君の予想はハズレかな」 


「じゃあ何しにきたんですか?」


「こほん……とある筋からの情報でね。今日の零時過ぎにこの倉庫街で、暴力団による違法薬物の取引があるらしいんだよ。だから私達でカチコミ——」


「帰ります」


「ちょちょちょちょ!?待ちたまえよ!」




 逃走しようとした俺の腕を掴み、彼女は全力でそれを阻止しようとしてきた。




「離してください!」


「いやだいやだ!絶対に離すものか!!」


「と言うか、なんでそんな危険な現場に行かないと行けないんですか!そう言うのは警察の仕事だろ!」


「何言ってるんだ!こういう地域に巣食うゴミどもを掃除するのも私たちの仕事なんだよ!」


「絶対“掃除”の意味合い間違えてる!」


「えぇーいやかましい!君はもうこの部の一員なんだ!だから部長の命令に従う義務がある!」


「なら退部します!」


「許さん!」




 離せ!離さない!という無意味な攻防を続けているのが敵地の真っ只中であると言うことを、この時の俺は気づいていなかった。


 


「じゃあ見るだけ!見るだけでいいから付き合ってくれ!」


「あーもう!」


 俺は深い溜め息を吐く。


 ……これ以上問答を続けても埒が開かない。




「ほんっとーッに見るだけですからね?危険な事はしませんよ?見たらすぐ帰りますからね?」


「うん!」


 彼女は満面の笑みで頷き、倉庫の方に向き直る。


 


「それで、どの倉庫なんですか?」


「ふふ、任せてくれよ」




 そういうと、彼女は忍足で、迷うことなく二つ先の右側の倉庫に入って行った。


 …………これ、俺の呪いと何の関係があるんだ?




「取引は二十三時三十分……あと少しで始まるはずだ」


「それじゃあ、それまですみっこに隠れましょうか」




『約束と違うじゃねぇか!!』


 近くから怒鳴り声が響いてきた。


 ……どうやら、隣の倉庫らしい。




「……場所を間違えたようだ」




 ふっと儚げな目をして身を翻した彼女は、入ってきた扉の方向に歩き出した。


 よく見ると、耳が真っ赤に染まっていた。




「何してんの、早く行くよ!」


「はいはい」




 笑いを堪え、俺は彼女の後を追う。





 小さな倉庫の中で、男たちの喧騒が響いていた。


 ざっと数えて二十三人、彼らは銀色のアタッシュケースを囲んで怒鳴り合っている。




「おー集まってる集まってる」


「ちょっ、お願いですから静かにしてくださいよ!バレたらヤバい!」


「あーもう、分かってるよ……そんなに念を押さなくたってぇ、うぇっ!?」




 やれやれ、とわざとらしく頭を振った彼女は、素晴らしい放物線を描いてすっ転んだ。




「……え」




 甲高い転倒音が響き渡る。


 ……やりやがった、この女。




「そこにいるのは誰だ!!」


「目撃者を逃すなぶっ殺せ!」




 あの時引き返せばよかった……だけど後悔先に立たず。……命令を受けた男たちが殺意むき出しで迫っている。


 


「や、やばいやばい!逃げますよ!」


「あーいたたぁ〜……」




 ノロノロと立ち上がる彼女の手を引き走る。だがこんな狭い倉庫に逃げ道なんてどこにもない。


 そうこうしてるうちに、敵の一人に見つかった。


 男は胸ポケットから拳銃を取り出し「くたばれ!」と俺達に銃口が向けた。




「やば!?後輩!硬くなる!」


「こんな時に何言ってんですか!?」




 こんな状況でも通常運転な彼女を突き飛ばすようにして、俺は物陰に飛び込んだ。


 直後に銃声が聞こえたが、何とか躱すことができたみたいで、俺も彼女も怪我はない。


 


「ふぅ……紙一重だったね」


 何もしていない彼女のドヤ顔が本当に腹立たしい。


 生き残ったら覚えてろよ……絶対泣かす。




「はぁ……はぁ……」


「ねぇねぇ後輩後輩!」


「なんですか?」 


「“硬くなれ”とは言ったけど……そこは硬くする必要はないかな〜なんて」


「え?」




 彼女はニヤニヤしながら俺の下半身を指差した。




「い、いやこれは違っ!」


「恥じる必要はない、生命の危機を感じ、子孫を残そうとするのは人間本能さ!」


「違いますよ!?」




 予想外なからかいに取り乱してしまい、一瞬、敵のことを忘れてしまう。


 銃撃音が止んでいた事に気づいた時にはもう遅い。既に、敵は俺達の隠れていた場所に回り込んでいた。




「今度こそ死ね!」 


「うっ」


 


 銃声が鳴り響く。


 だが、いつまで経っても何の痛みも感じない。


 恐る恐る目を開くと……呻き声を上げ蹲る敵に、拳銃を構えた彼女の姿がそこにはあった。




「せ、先輩……その銃、どうしたんですか?」


「これかい?念の為、用意しておいたんだよ。流石に丸腰で敵地に飛び込むのは愚の骨頂だからね!」


「用意って……一体どうやって」


「それは企業秘密さ!」


「そればっかりですね」


「秘密の多い女性は素敵だろう?」




 そう言って、彼女はまたニカッと笑う。




 銃声を聞きつけゾロゾロと集まる敵を前にしても、その笑顔が崩れることはなかった。


 ……そこからはもう、彼女の独壇場だった。


 撃たれた銃弾は、どういうわけか、目の前で停止して地面を転がる。


 逆に、彼女が放った銃弾は、男たちを追尾するように飛び回る。


 まるで赤子の手をひねるような蹂躙っぷりに、あれだけ恐怖していた彼らに同情してしまう。


 最初に言っていたように、彼女はゴミどもを“掃除した”のだった。




「ふーいい汗かいた……」


「いや、一歩も動いてないでしょ」


「あーそういうこと言うんだ、言っちゃうんだ〜!」


「てか……俺、来た意味ありました?」




 これだけ強いのなら自分一人で十分すぎる気がするんだが、俺は本当になんで連れてこられたんだ?




「えーあるよー!先輩の偉大さを目に焼き付けてもらわないとね!」


「ほう、じゃあ何の意味もないんだなこの野郎……」


「ちょ、こわいこわい、顔が怖いよ!待って、本当はもう一つ意味がある!ありますから!」




 必死に弁明する彼女に、俺は冷え切った視線を向ける。


 


「ほ、ほら!最初に言った通り君の呪いに対することでもあるからさ!」


「………………どうぞ」




 本当は今すぐにでも折檻してやりたいが、一応自分に関することなので我慢する。


 彼女は未だうめき声を上げるしかできない彼らの中から、問題の原因とも思える銀のアタッシュケースを持ってきた。




「……彼らの取引内容は覚えているかい?」


「えぇ、違法薬物の取引ですよね?」


「そう、そしてこれがお目当ての薬さ!」




 ケースを開けると、血のように真っ赤な丸薬が大事そうに収められていた。




「この薬の正式名称は……忘れたが、人間たちに仙薬と呼ばれる代物さ!物語によく出てくる不老不死の薬だね!」


「ほぅ……それが俺の呪いと何の関係が?」


「呪いの解き方には幾つか種類があるんだけど、王道なのが術者を見つけて殺す、または解いてもらうこと。でも今回は誰が呪いを掛けたのか不明だし、他の方法を試すにしても時間が掛かってそれまでに君は死んでしまう」


「なるほど」


「これを飲めば君は呪いで死ぬことは無くなるんだ。つまり……死にたくないなら、不死身になってしまえばいいじゃないってことだよ!」




 …………簡単に言う。


 不老不死……歴史上数多くの権力者がそれを求め死んでいったと言われる、まさにファンタジーの産物。


 それが今、俺の目の前にある。


 いつの間にか、俺は仙薬に手を伸ばしていた。




「さぁ、イッキ!イッキ!」


 視界の端で、彼女が楽しそうに手を叩いていた。


 ……こんなに怪しい薬を、どうして俺は躊躇なく飲もうとするのか。そんな疑問が残る。


 それでも、俺の手は止まらず、その小さな丸薬を口に放り込んだ。




「あ、思い出した」


 そう、そんな声が聞こえたのは俺が薬を飲み込んだ後だった。




「確かその薬の正式名称は“血石”、吸血鬼になる薬だね!」


「先に言えぇぇぇ!!」




 瞬間、全身が沸騰した……そう錯覚するほどの熱が身体中を駆け巡った。




「あ、あぁぁぁあ!!」


 熱い熱い熱い痛い熱い痛い痛い痛い痛い!


 何も考えられない。痛みと熱で気が狂いそうだ。


 何時間経った?もしかしたらあんまり時間は経ってないのかも知れない。


 ……あぁ、あいつのにんまり笑顔が腹立たしい。


 あぁ、喉が渇いた。血が飲みたい。あぁ、あの首に歯を突き立てたい。


 


「血……血があああああ!」


 人間とは思えない奇声をあげて、俺は彼女に襲いかかった。


 


「うん、成功だ!」


 振るわれた俺の爪が、彼女の柔肌に傷をつけることはなかった。 見えない壁に阻まれた……銃弾を止めた彼女の魔法。


 頭が少しスッキリした。


 もしそこにいたのが彼女じゃなかったら……そう考えたら怖くなった。 


 


「はぁ……はぁ……」


「気分はどうだい?」


「…………最悪ですよ」


「うんうん。それは重畳!これで君は晴れて呪いから解放された!ようこそ不死身の世界へ!」


「……先輩、分かってやりましてね?」


「何のことかな?」 




 彼女は吹けてない口笛で誤魔化した。


 いったいどこから計画していたのか、今日、俺と出会った時か。


 それとも……俺が呪われた時か。


 


 いや、考えても仕方がない……俺はもう、吸血鬼に、不死身になったのだ。


 ……ん?




「そう言えば、吸血鬼って日光やばくないですか?」


「…………やばいね」


「明日から学校、どうしましょうか」


「……どうしようか」




 二人一緒に青ざめながら、俺達は帰路に着く。


 二人で考えればいい案も浮かぶだろう。




「後輩、改めてようこそ我が相談室へ!」


 今日も変わらず、猫宮部長は輝くような笑顔で俺を照らした。


 

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